第93話 カマイタチ

 数日後

 「毬緒。今日もざーちゃんと遊ぶのか?」

 「そうだよ。今日は前髪を切ってあげるんだ」

 「気をつけろよ? 毬緒はまだカマイタチの扱いが下手なんだから」

 堂流はそう忠告しながら、九久津の腕の軌道を真似た。

 「そんなことないもん」

 「いやいや、あのやりかたじゃ自分も怪我するぞ」

 「大丈夫だもん」

 「いいか毬緒。カマイタチを憑依させたあとに、体と腕の距離を計算して気流の強弱を調整するんだ。そうすることで小回りが利いて攻守の手数を増やせる。いまのままじゃ風の密度が低すぎるし、その大振りじゃ脇に隙ができる」

 「俺はあれでいいの」

 「ダメだ。風が内側に寄り過ぎてる。あんないびつな風でざーちゃんの髪を切る気か?」

 「そうだよ」

 「ざーちゃんに怪我させてもか?」

 「け、怪我……」

 九久津は沈黙した。

 「嫌だ」

 そう呟くと顔をしかめ、堂流の話を真剣に聞こうという姿勢に正した。

 「だろ。じゃあ俺のようにやってみろ。いいか?」

 「うん」

 {{カマイタチ}}

 堂流の腕にはいっさい無駄のないきれいな風の集合体が現れた。

 気流は体と一定の距離を保ち、腕そのものに吸い付いているようにみえる。

 それが風だとさえ思えない透明な刃が堂流の腕と同化していた。

 堂流がそのまま腕の角度を変えると、風は螺旋状に変化したあとに短剣へと形を変えた。

 「毬緒もやってみろ」

 「うん」

 {{カマイタチ}}

 九久津も利き腕にカマイタチを宿すが、風の向きが四方八方に散りバラバラだった。

 ある部分が突出して、ある部分の風はすくなく、とても実戦では使用できないレベルだ。

 「毬緒。風を外に放つんじゃなく内側に留めるようにしてみろ。つまり外にですぎた風をずっとなかから引くようにするんだ」

 (って、俺は大人用のアドバイスをしてるけど、わずか六歳の子供が召喚憑依術を

使うってだけで、とてつもない才能なんだよな)

 「えっと、あっ、うん」

 九久津は、眉をひそめ顔の中央に目を寄せて、しかめっ面をした。

 腕にすべての神経を集中させて風の微調整をしている。

 水道の蛇口をゆっくり捻るようにして風の出力を均等に保とうとしたが、集中力を維持できずに、風は飛散するように肥大化した。

 その反動で九久津は自分の腕に振り回されて、千鳥足で周囲を歩き回っている。

 「ああ、兄ちゃん、助けてー」

 「毬緒。気をつけろよ!!」

 「兄ちゃん。これどうすればいいのー?」

 九久津は、風に先導されるようになおもフラフラとしている。

 ――二人とも精がでるね。

 すこし離れた場所から堂流と九久津に声をかける人物がいた。

 「あっ、真野おじさん。こんにちは」

 堂流は、丁寧に頭を下げた。

 「こんにちはー」

 堂流につづく九久津が肩で息をしている。

 九久津は己のキャパを消費して、ようやくカマイタチが解消された。

 「やあ、堂流くん。毬緒くん。こんにちは」

 真野は二人に挨拶を返すと千歳杉を見上げた、そしてそこから視線を落とす。

 風に紙垂しでなびく、そのすこし下に座敷童が立っていた。

 座敷童は物珍しそうに、見慣れないお客を眺めている。

 「あちらの、かわいいお客さんは誰かな?」

 「ああ、あの子は友達のざーちゃんです」

 九久津が嬉しそうにそう言うと、堂流は――座敷童なんです。と足した。

 「へ~九久津家の守り神かな。いや忌具保管庫の守り神かな?」

 「両方だと思います」

 「そうだね。堂流くん、そう言えばこの間の国際交流会はどうだったの?」

 「あっ、聞いてください。世界にはすごい能力者がいました。とくにフランスのボナパルテ。あいつはスゴイ!!」

 「へ~堂流くんが褒めるくらいすごい能力者なんだ」

 「ええ」

 「真野おじさん。今日ってなにかありましたっけ?」

 「それが。当局が近日中に忌具保管庫の視察にくるってことで、堂流くんの家ここで三家の臨時会議」

 「へ~そうなんですか」

 「だから、すこしおじゃまするよ」

 「あっ、はい。どうぞごゆっくり」




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