第90話 世界を救った能力者

さきを行く近衛さんは、周囲に気を配りながらもスイスイと進んでいった。

 きっとこんな場面には幾度となく遭遇してきたんだろう。

 救偉人であり優秀な能力者だから。

 いや、これが日常なのかもしれない。

 俺にとっての非日常がこの人達の……ち、違う、それは九久津も寄白さんも校長もだ。

 みんなこんな毎日を過ごしてきたんだ。

 転校前の俺だけが、普通の高校生だった。

 「いたぞ!!」

 近衛さんが、俺に向かって言った。

 語尾は強調されてたけど出会ったときと同じように、穏やかな口調だった。

 瞬間的に安心できた、俺に気軽に声をかけるくらいだから、九久津はそんな危険な状態にはなってないはず。

 それこそなにか選択するような緊迫した状態じゃない。

 俺は辺り構わずに走った、だが突然、黒い影が俺の視界を遮った。

 なっ、なんだ?!

 「あっ?!」

 無条件にその方向に手をかざしてた。

 すさまじい衝撃音がした。

 あの近衛さんが、目を見開き驚いてる。

 「なんて力だ……」

 俺は反射的に、衝撃派を放ってたらしい。

 その方角を見ると空の彼方に黒いエネルギー波が飛んでくのが見えた。

 俺が急に走りだしたから、その振動で壁が崩れたってことか。

 「い、いまのは俺が?」

 「それが鵺を瞬殺した力の一端だろう」

 「これが? ……無意識に放ってました」

 「いまのキミはⅡだからね。それを制御できるようになれば心強いな」

 近衛はさんは亜空間の欠片を手にとると、材質でも確かめるように、指先で欠片をさすってる。

 「これは崩れ落ちてきた亜空間内部の壁だ。本来なら亜空間は収縮して消えるのだが、あまりの高温で球状のまま固まったようだ。そう陶芸の焼き物のように。ゆえに亜空間が固形物として残ったんだろう」

 「なにがあったんですかね?」

 「さあね。まあ、九久津毬緒に聞けば、話は早い」

 九久津の顔には俺が遠くから見てもわかるような細かな傷があった。

 倒れている九久津におそるおそる近づく、頬に赤みあってまだ生きていることはわかった。

 ところどころ制服が破れたり、ほつれたりはしているが、命にかかわるような大きな傷はないと思う。

 当局から大勢の人がきて、規制線のようなテープを貼って行った、そして警察の現場検証のようなことをしてる。

 九久津は、そのまま国立六角病院に搬送された。

 そのあと、わりと早くにWebが更新されたみたいだけど、俺はサラっとしか見てない。

 ただ最終結果の掲載は、本当にバシリスクが死んだのかどうかを調べらてかららしい。

 早くて数日、遅くても一週間ほどを要するという関係者の話が聞こえた。

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 Japan バシリスク 退治か(?)

 現在、日本当局が調査中。

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 近衛さんが去り際に言った言葉が、俺のなかでグルグルと回ってる。

 いや、心のなかに突き刺さってた。

 ――アンゴルモアの大王。その討伐隊として最前線に行ったのが現、外務省の一条空間いちじょうくうまと、現、文科省の二条晴にじょうはれ

 そして討伐計画の発案者が現、六角第二高校校長の五味均一。

 その功績を讃えられて、一条と二条は救偉人の勲章が授与されている。

 もともと、日本発祥の終末ミームがアンゴルモアを誕生させたからね――

 ……いまがあるのは、その人達のおかげだ。

 なにかひとつでも、ズレていれば無かったかもしれない“現在いま”。

 この世界の救世主たち。

 俺は、それがどんな戦いだったのかを知らない……

第二章 END




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