小説家になろう

第9話 L非常階段

 放課後それは学生にあたえられた自由の象徴。

 イッツ・ア・フリーダム!!

 ああ~心臓がバクバクする。

 この鼓動を感じている俺と――《あっ、心臓がバクバクしてる俺がいる?》を客観的に見ている俺がいるようだ。

 体と魂にが分かれて、自分が二人いる感覚と言えばいいのか、頭になにも入ってこない自覚もある。

 過ぎる風景は認識できるのに記憶に残る気がしない。

 これが俗にいう、心ここにあらずか……? 寄白さんが待ってる期待感がハンパない。

 六角第一高校は校舎の両端に非常階段が存在してた。

 左側にあるのがL非常階段で右側にあるのがR非常階段。

 今回はL側なので二年Bの教室から家庭科室、備品室をはさんですぐに着く。

 時間がスローモーションのようだ。

 俺は過度な期待を胸にL非常階段へと向かった。

 これでなにかを期待するなというほうが難しい……。

 災害時には生徒を二分して避難させることができるという理由で、校舎の両端に位置する非常階段。

 パンフで読んだから間違いない。

 経路の一極集中を避けた構造で、スプリンクラーも多めに設置されてる。

 てのひらに汗が滲んできた、もう着くよな~。

 寄白さんは前方で手を組み、静かに立ってた。

 ツインテールか。

 やっぱりカワイイな~。

 おとなしくしているとなおさら。

 「お待ちしてました。こちらでしてよ」

 「あっ、はい」

 寄白さんは華奢な腕で重い非常階段の扉を開いた。

 そ、そんな細い腕で、俺に言ってくれれば開いてあげるのに。

 って、こんな場所に勝手に入っていいのか?

 あれっ?! 非常階段がない。

 代わりにその空間の壁に一枚の大きな門扉があった。

 寄白さんは防火扉と書かれた鉄製の門構えに手をかけると、レバーを右に数回左に数回、回転させた。

 壁の奥からいくつもの歯車がギィギィと噛み合い回転する音が聞こえた。

 カチャっと開閉音が鳴った。

 俺は、その音で完全になにかが開いたと認識した。

 カラクリ仕掛けのような扉をゆっくりと開いた寄白さん。

 「さあ、どうぞ」

 「あっ、うん」

 なんだここ?

 すごいセキュリティだな。

 こんなに複雑だったら緊急避難に時間がかかるんじゃ?

 逃げ遅れそうな気もするけど……。

 「……なんかすごいね? この扉……」

 ダミーの扉なのか?

 やっぱりこんな造りなら災害時には逃げ遅れるよな?

 おっ、発想を変えると、逃げ込みさえすれば、外からの危機を防ぐのにはいいかもしれない。

 「ええ。いろいろと守護まもらなくてはいけませんので……」

 「そうなんだ」

 薄暗いなかに踊り場のような場所が見えた。

 微かだが、小さな窓から日の光が注いでる。

 最上階まで一本の太い棒が、一直線に突き抜けていて、そこに纏わりつくように傾斜のきつい螺旋階段が存在してた。

 これが本当の非常階段か。

 長年使用されていなかった物置のような臭い。

 人気ひとけもなく埃っぽくも感じる。

 学校にどうしてこんな時代錯誤の螺旋階段が……?

 さっきの門といいこんなにまどろっこしい造りにする必要はないのに。

 俺をよそに寄白さんは慣れたように階段をグルグルと登り始めた。

 コツンコツンとやけに靴音が響く。

 音の出発点が足元だとしたら、やけに遠くまで飛んでく感じがする。

 「ついていらして?」

 俺を見下ろした寄白さん。

 「えっ、あっ、はい」

 戸惑ったが手すりを伝いゆっくり一歩を踏みだす。

 てのひらにまったく埃がつかないってことは日常的に使用してる証拠だ。

 なんとなく不安な気持ちになってきた、明るいことでも考えて気をまぎらわそう。

 俺のキメ角度、左四十五度で寄白さんを見上げる。

 なにかが見える!! が、よくわからない、ただ俺はなんて締りのない表情をしてるんだ。

 左四十五度なんて、ぜんぜんキメ角度じゃないな。

 こんなに薄暗かったらパンツも見えないか~悔しいっす。

 思考を空想パンツでごまかし、螺旋に沿って何度も回転しているとやがて方向感覚が薄れてきた。

 寄白さんの三半規管はスゴいな!!

 これは異次元にでも連れて行かれるかも?

 あっ?! 俺がシシャの正体を知ってしまったからか~って寄白さんに教えてもらったんだから、それが原因で狙われるのもおかしいか。

 額がすこし汗ばんできたころ、螺旋階段の天辺に着いた。

 また頑丈そうな鉄製の門扉がある。

 ああ~頭がクラクラする、俺の中身がでてった感じ。

 「さあ、どうぞ……」

 そう言った、寄白さんの口調に、なにひとつ呼吸の乱れはなかった。

 やっぱり慣れてるんだ~。

 さっきと違って今度はスライド式ドアのために簡単に開く。

 なんかこの扉って見かけ倒しだな。

 薄暗い場所から明るい場所にでたために光の刺激がキツい。

 反射的に目をつむってしまった。

 しだいに光に慣れると、そこは二階と同様の造りの場所だった。




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