第89話 救偉人の資質

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 俺と近衛さんは静かになった亜空間に向かって歩いてる。

 周囲の変化や足元に注意しながら足を進めた。

 闇のなかに靴音だけが響く。

 俺は沈黙が嫌で話題を探した。

 「あの、さっきの“一条”さんって人は誰ですか?」

 「一条? ああ、彼は外務省の人間だよ」

 彼ってことは? 男か?

 ディメンション・シージャーは男か。

 「外務省ですか?」

 「そう。早く言えばワタシと同じ役人だ」

 そっか、近衛さんが“KK”のバッジをした国交省の人だもんな。

 一条って人は外務省の人か。

 近衛さんレベルの人は政府には多いんだろうな。

 国立病院に出向してる厚労省の医師って人も同等の強さな気がする。

 「あの~。その一条さんも救偉人ですか?」

 「ああそうだ。ただ、さっき言った厚労省の同期は救偉人を辞退してるがね」

 「じ、辞退なんてできるんですか?」

 辞退するってなんでそんな名誉なことを?

 医者で救偉人なら無敵じゃないか?

 「ああ。できるよ。救偉人ってのは対アヤカシに秀でた人間に勲章を授与するってだけの話だから」

 「そうなんですか?」

 「そう。だから能力を持たない救偉人だっているし。ほかに勲章の同時受賞なんかもある」

 「えっ?! 救偉人って特別な能力者の九人にだけ【臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前】の称号が与えられるんじゃ?」

 「まあそれは正しいと言えば正しい。基本的に救偉人は毎年春と秋に九人ずつ選出される。つまり一年で十八人だ。そうなると単純計算で年に十八人の救偉人が誕生することになる」

 「そ、そうなんですか? 国内に九人のみ存在してるんだと思ってました」

 「それじゃあ人口比率に対して救偉人があまりに少なすぎる。救偉人のバッジはそれなりの権力を与えられているんだ。多すぎても少なすぎてもいけない」

 「あっ、よく考えればそうですね」

 「ここ六角市ではいままで二人の救偉人を輩出している。それこそひとりは九久津毬緒の兄。九久津堂流」

 えっ、九久津の兄貴が……。

 そうだったんだ。

 「もうひとりは国立病院に勤務する只野ただの医師。彼は六角市出身の救偉人ではあるが能力者ではない。魔障に対する真摯な研究を認められて勲章を授与された」

 「へ~」

 なんか意外だ。

 強い能力者のみが優遇されるのかって思ってた、って俺って単純だな、バスの運転手さんとかを治療する人も重要だよな。

 あの魔障が治るなら、一般の協力者も心強いだろうし。

 強さだけを求めるって武道家の世界じゃないんだし、むしろアヤカシを倒せる強さよりも、大勢の人を救うのが医療のほうが求められてるのかもしれない。

 ……そうだよな、俺の目も魔障が原因だって言われて、すこしホッとしたし。

 原因不明の現象に怯えるより、治療でなんとかなるかもしれないって一言ひとことはスゴイ希望だ。

 “理由”がわかるってスゲーな。

 反対に理由がわからないってことほどの恐怖はない。

 「さあ、おしゃべりはここで終わりだ」

 近衛さんは姿勢を低くして、小刻みに視線を揺らしてさきを行く。

 「あっ、はい」

 物音ひとつしない亜空間に近づくにつれ、その大きさに驚かされた。

 こんなに大きな空間だったんだ。

 なにかの映画で見た大型怪獣の卵のようで、この静けさが逆に怖くなった。

 突然なにかが襲ってきそうな緊迫感がある。

 ただの瓦礫がれきにしては、比較的綺麗だと思った。

 至る所が蜘蛛の巣状にヒビ割れてて、崩れたセットに見える。

 大きな裂け目からなかに入ると、焦げ臭いニオイが充満してた、床にはくっきりとなにかが這いずった黒い跡もある。

 まるで蛇が蠢いてたかのような跡だ。

 きっとバシリスクが動いた経路みちだろう、人間でいうところの足跡。

 床は凸凹でこぼこだけど、乾ききってて、よほどの高温で熱せられたと推測できる。

 「ワタシだ。救護部隊と解析部隊を六角市守護山の麓に派遣してほしい。詳しい場所は、このスマホの位置情報で特定してくれ」

 近衛さんは、的確にそして端的にいま必要なこと告げた。




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