第84話 能力【ディメンション・シージャー】

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 俺と近衛さんは、ただ九久津とバシリスクの行く末を見てるしかなかった。

 しばらくして戦局は動いた。

 海鳴りのような――ゴーッという不気味な音が守護山の麓に響き渡った。

 すると地面に埋まっていたはずの亜空間の天頂がすこしだけ顔をのぞかせた。

 火傷あとの水ぶくれのようにじょじょに膨らみが増していく。

 「なんだ?! 亜空間が膨張してきた……爆ぜる? 小さな爆発が起こるぞ……」

 近衛さんは眉間にシワを寄せ表情を崩した。

 この慌てようはヤバいかも。

 「マズい。あんなのがここで爆発したら……とても半減期まで……もた……ない。い、いや半減期なんて悠長なことは言ってられない」

 冷静だったはずの口調が早口に変わると、近衛さんは即座そくざに地面に手を置いた。

 よほどの力なのか、五本の指の形が地面にくっきりとついてる。

 「一条いちじょう、気づいてるんだろ。たのむ?! 空間を開いてくれ!!」

 近衛さんは空と地上のあいだ辺りに声を投げた。

 誰の名前だ?

 これからなにが起こるんだ?

 {{ヤキン}}

 近衛さんがそう言うと俺たちの足元は、割れたザクロのように裂けて、白い円柱の柱がゆっくりと姿を現してきた。

 暗闇ですり足をして歩くようにそっと柱は地上に迫りだしてくる。

 これはもしかして空間掌握者、【ディメンション・シージャー】と呼ばれる人の力か。

 近衛さんは、確か“一条”って呼んだよな?

 当局にいる一条って人が【ディメンション・シージャー】なのか?

 パルテノン神殿のような柱には、創作フォントのような文字で“J”という文字が書かれてる。

 あれ? これって俺がもたれかかって腰の痛みをぶり返した駅前の柱だ?!

 ってことは六角駅にもなにか仕掛けがあるのか……?

 まあ、六角市は近衛さんがデザインした街だ、街全体にいろんな仕掛けがあっても不思議じゃないか。

 けどこんな柱なんに使うんだ?

 「さすがは空間掌握者。よし。ヤキンこの高次結界をさらに増幅させろ」

 出現した白い柱は駒のようにゆっくりと右回転をはじめた、と同時に高次結界を巻き取るようにして回りつづける。

 高次結界を取り込んだ柱は、回転数を増すごとに、厚みを増した高次結界を吐きだしつづけた。

 柱の中心にモーターでもついてるかのように高速回転してる。

 次々と分厚い結界を生成し、薔薇の花弁が重なるように、九久津たちのいる亜空間を包んでった。

 高次結界はさらに光を帯び、水を吸収する綿のように膨張し、突出する亜空間を相殺する。

 「これでひとまず安心だ。亜空間の膨張エネルギーはすべて掻き消されるはずだ」

 近衛さんは、そっと立ち上がり息を吐いた。

 俺は肌で感じた、この重大な危機はなんとかなる、と。

 熱がでたときに二日目くらいで明日は学校に行けるって感覚に近い、てかこれ学生あるあるだな。

 「近衛さん。僕はあの柱を見たことがあります。六角駅の入り口にありました」

 「ああ、まさにその柱さ。駅とは良くも悪くも人の想いが交錯する場所。――仕事に行きたくない。――学校に行きたくない。――今日から旅行だ。――憧れのひとり暮らし。喜びの感情も苦しみの感情も雑多に集まるのが駅。だが人間社会というのは圧倒的に“負の感情”が多い世界。そんな“負”を少しでも浄化するために、私があの“柱”を駅の入り口に設置した」

 「……近衛さんたちって本当に色んなところに気を配ってるんですね?」

 元をただせば、アヤカシの原点も“負力”なんだよな。

 人の小さな不平不満が集まって、やがてバシリスクのような上級アヤカシになる。

 そういう“負力”が小さいときに浄化させることは、一番、正しい対処法なんだろうなって思う。

 「まあ、それがワタシたち当局の仕事だからね。ただ勘違いしないでほしいんだが“負力”ってのは必要悪ひつようあくなんだよ」

 「えっ? というのは?」

 「あまりに我慢しすぎて“負力”を溜め込むと体はむしばまれ心を病む。木々であれば実をつけずに朽ちる。花であれば枯れる。だから適度に負力を放つことも、また正しい行いなんだ」

 そ、そうだった?!

 “負力”は植物なんかからも放たれるんだった、生物、微生物を含むあらゆる生命体から。

 ときどき発散したほうがいいってことか。




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