第79話 高次結界(こうじけっかい)

「あの~助っ人の救偉人って近衛さんのことですか?」

 「ワタシは」

 近衛さんはスマホをスーツの胸ポケットにしまうと、内ポケットから五百円硬貨ほどの大きさで、サファイアのような五角形の勲章をとりだした。

 青く透明な勲章の中央には“前”という刻印がありピンバッジのようになってた。

 「これは?」

 「救偉人に対して国から贈られるものだ」

 救偉人の勲章は俺が思っていたよりも、ずっと小さくてまるでオモチャのようだった。

 まあこれなら持ち歩くのも便利か。

 「これを提示すると仕事が早く進むことも多くてね。ワタシは常に携帯している。ちなみに、本来くるはずだった者は別の人間だ。ただこの事態を受けて、もう六角市に向かっている可能性はある」

 「そうですか。近衛さんはどうしてここにいるんですか?」

 「まったく予想外のできごとだ。昨夜千歳杉のある丘で青く大きな火球が見えるという通報があった。その調査で偶然赴くことになった。日本では事件や事故などは主に消防や警察に連絡がいく、そこでアヤカシに関連すると思われるものは、その街のアヤカシ対策部に回される。つまり六角市なら教育委員会」

 「なるほど。それで」

 「ああ。今回はワタシの任務に関連があるかもしれないと足を運んだ。だが、あの丘は九久津家の所有地だ。すこしくらいの異変はあってしかるべき」

 「ここから九久津の家って近いんですか?」

 「そうだな……近くもないが、それほど離れてもいないってところかな……ただ少々気になる点がある。それはこの街の一般協力者が空に浮く刀を目撃していることだ」

 一般の協力者って、あっ?! バスの運転手とかああいう人たちのことか。

 株式会社ヨリシロの協力者。

 けど刀って、飛ぶ……のか? ……空飛ぶ刀?

 一反もめんとかの仲間か?

 「そんなアヤカシもいるんですね?」

 「……どららかと言うとアヤカシでも忌具のほうだろうな? あと、こんなときに申し訳ないのだが……」

 えっ?!……忌具。

 九久津家に隣接してるのが忌具保管庫だよな?

 その近くで刀が飛んでるってのは非常にマズい状態じゃ……。

 ……意思を持つ忌具か?

 「なんですか?」

 「君たちにとって良いことなのか悪いことなのかはわからないが……」

 「えっ……はぁ……?」

 「バシリスクと共に九久津毬緒が亜空間に消えた」

 「く、九久津が?」

 忌具どころじゃない、こっちのほうがもっとヤバい!!

 なんで九久津が……?

 また、あの感情が、焦るような危機感が湧き上がってきた。

 「それがあの大きく歪んだ球体だよ。ああなってはあとは見守るしかない」

 近衛さんが指さしたさきにある球体は、シンクホールに吸い込まれるようにゆっくりと地面に埋もれてった。

 土に還った木の葉のように地面はただの平地へと戻った。

 整地されたその場所は、ただ広大な湿地帯が広がってる。

 「あ、あれが?」

 「ああ。そろそろ戦闘開始か? とりあえず上級アヤカシが出現した以上簡易的な処置をしておこう」

 (六角市中央から見てここは北北西の位置。京のみやこならった造り。守護獣は玄武げんぶ白虎びゃっこだな)

 近衛さんは、手のひらを大地にぴったりと密着させた。

 {{四神相応しじんそうおう}}

 近衛さんが、そう地面に手をかざすと俺らを中心に光がほとばしった、と同時に光の幕がれ込め、レースカーテンのように揺れてる。

 この感じなら半径数キロくらいまでは広がってるな。

 けど、なんか落ち着くスゲー安心感がある。

 「この方角、一帯を高次結界こうじけっかいで覆った。万が一、バシリスクが亜空間から抜けだしても、ここで食い止めることができる」

 そっか、バシリスクかられる瘴気が遮られたから、体への負荷が減ったのか。

 ここにきたときのような、ビリビリする緊張感が和らいでる。

 それにしても、この人は土地や地形、建物に特化した能力者ってことか?

 家だって基礎がしっかりしてないと頑丈な家は建たないもんな?

 六角市の“一高”以外のかさ増し指示もこの人のアイデアなのかもしれない?

 結界とか瘴気の浄化システムは、近衛さんの専門分野なんだろうな。

 「それは、この場所を部分的に隔離したってことですか?」

 「飲み込みが早いね?」

 近衛さんは左腕の高級時計を眺め、竜頭りゅうずをすこし、回転させると、初めて視線を他所よそへと向けた。

 さらに視線を斜め上にずらしわずか一秒ほどで、ふたたび時計の針を見返す。

 「半減期はんげんきは、午前一時ってところだ」

 「半減期?」

 「ああ。いまこの場所は他よりも強い結界で覆われている。ただしそれは他の場所の余剰力よじょうりょくを借りたにすぎない」

 「そ、そんなことができるんですか?」

 「まあね。それが過ぎれば六角市はまた安定的な結界に戻る」

 (ただ、いまの六校の対安定ついあんていには支障はでるが……)

 これが救偉人って人たちの能力なのか。

 人間離れしてるな。




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