第78話 能力【アーバン アドミニストレーター】

 おっ、顔の前に衝立ついたてがあって、景色が右と左に分かれて見える感じか。

 意図的にやるとこうなるのか? 左側が校長室で右側が守護山の麓だな。

 俺は右目だけを動かして周囲を見回した、するとそこは湿地帯で青紫の小さなブドウのような花が咲き乱れていた。

 ほ~こんなふうになって……あっ?!

  「やあ」

 こ、この人は?

 「へ~これがⅡなのか?」

 俺は落ち着ついた雰囲気の男性に声をかけられた。

 その人は片膝をつき、すこし離れた場所を眺めてる。

 まるで定点観測でもしているかのように。

 ツヴァイの視線のさきには大きく歪んだ球状の景色が見えた。

 コンビナートのタンクほどの大きさで、湖畔に映る月のようにゆらゆらと揺れてた。

 「あの……あなたは?」

 「ワタシは国交省の近衛嗣このえよつぎ。君とはバスのなかで会っているんだがね?」

 「僕に気づいてたんですか?」

 俺に話しかけてきたその人は、面長でオールバックの三十台半ばくらいの人だった。

 体のラインのでた細身のスーツ姿で胸元には“KK”という文字の入った青いバッジをしてる。

 そう、バスのなかでなにかのメモをしてた人だ。

 「もちろん。キミは有名人だし。もう十年も前からね?」

 「十年?」

 「ああ。キミ自身で実感はないのかい?」

 近衛さんは地面に直置じかおきしてある、スマホを、一瞥いちべつもせずにタップした。

 その位置のままで手際よくアドレスバーにある数値を直接打ち込んでいった、さいごに人差し指で強めのタップをした。

 「このアーカイブだよ」

 さらにカルタでもするように画面を二、三度とスライドさせると、そのまま角度をつけて俺にも見えるようにしてかざした。

 俺は時代劇の印籠いんろうのようなスマホをのぞく。

 その間も近衛さんは、いっさいスマホを見なかった。

 きっと頭のなかにスマホの操作パターンが入ってるんだ。

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 Japan(日本) 六歳の少年がぬえを退治。

 能力者の素質はあるが年齢の関係もあり、現段階での実名公表は控える。

 詳細が知りたい場合は各国の担当部署を通して、日本当局に直接コンタクトを

とること。

 窓口は外務省

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  これは校長が見てたあのwebサイトか。

 てか俺のほうを一度も見ないままスマホを操作をするなんてスゲーな。

 けど、あの揺れてる球体はなんなんだ? 目を逸らせないほど重大ななにかなのか?

 「そっか。退治された上級アヤカシがニュースになるんでしたね?」

 これって俺が倒したのか?

 六歳のとき……あっ、まさか、あの恐竜か……あれってアヤカシだったのか?

 俺の表情を察したように近衛さんはさらに目を細め渋い顔になった。

 そして、このときも俺の顔をいっさい見てない、きっと雰囲気だけで判断したんだ。

 「そうキミが瞬殺したんだよ」

 また画面をタップする。

 「瞬殺……?」

 「ただワタシには鵺の出現状況に少々合点がいかないんだがね」

 近衛さんは、なおも前方の球体から目を離さずに、いぶかしんだ。

 (やはりカギは不可侵領域にあるか?)

 出現状況がおかしいって……それなら今回のバシリスクもだよな?

 「どうしてそう思うんですか?」

 「ワタシが創造した街だからさ」

 「えっ?!」

 「ワタシの能力はね【都市開発者アーバン アドミニストレーター】。まあ、キミがワタシの能力を一番身近に感じることがあるとすれば、六角第一高校そのものかな」

 「あっ?! じゃああの四階建てを三階建てに模倣みせるデザインをした?」

 「ああ。ただあれは仕掛けのひとつに過ぎないがね」

 この人が……?

 だったらこの街の結界を仕切ってるのも納得がいく。

 六校を六角形ヘキサグラムに配置したのも、きっとこの人だ。




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