第77話 迷走の夜

「ミドガルズオルムは五年前に、通称キプチャク草原にてモンゴルの能力者たちに倒されています。Webで確認しますか?」

 社さんは冷静にそう言って自分のスマホを取りだそうとした。

 「いや、いいわ」

 校長は社さんのほうを見向きもせず追い返すように手をふった。

 否定の意味だ。

 「じゃあ教育委員会に裏切り者がいたのよ? バシリスクを最初に発見した升教育委員長が怪しい……」

 いまの校長は疑心暗鬼に陥ってる。

 この現状を打破しようとしてるけど、すべては不毛だと思った。

 アヤカシに関しては初期対応がなにより重要なことを校長は知ってるはずなのに、この現実から目を背けて拒みつづけてる、早くなんとかしないと。

 「その場合は、最初から升委員長はなにも言わずに奇襲を成功させます」

 「じゃあ解析部隊に裏切り者がいたなら? 情報操作できるでしょ?」

 「升教育委員長が第一発見者の時点で、解析部隊が当局を欺くことは難しいと思います。なにより五味校長も同席していたのに教育委員会のツートップを騙すなんて。そもそも教育委員会が私たちを裏切るメリットはなんですか?」

 「そ、それは……」

 きつすぎる社さんの反論に、校長は圧倒されはじめ、ついには反論の余地もなくなったようだ。

 この状況じゃ、いくら校長でも、冷静で頭のいい社さんにはかなわない。

 そう、この緊急事態じゃ。

 「繰さん。いちじるしい判断力の欠如です。もういい加減目を覚ましてください?」

 な、なぜか、俺まで責められてるような気がする……。

 社さんの理論で考えると、教育委員長はぬらりひょんじゃなさそうだ……それに社さんに覚えた違和感も間違いかも……しれない。

 この状況でいま、俺にできることはないか?

 あっ?! そ、そうだ!!

 「じゃあ、雛の考えを聞かせて?」

 校長はようやく、机から額をスッと放した。

 しばらく時間の経った額は、内出血のように赤みを帯びてる。

 校長は手櫛てぐしで髪を整えると、そっと立ち上がった。

 「解析部隊のデータは正確だった。それでも今日バシリスクは守護山の麓に出現した。となるとバシリスク側になんらかの理由があると考えます。六角ガーデンの方角北北西の位置に出現したという事実は解析部の報告と一致していますので」

 「……雛。冷静ね……」

 (バシリスク側……か。上級アヤカシを操作できるかもしれない人物……。心当たりがある)

 「雛……やっぱり蛇はもう一匹いたのよ」

 校長はうつむきながらボソボソと口ごもった。

 唇の動きさえも、疲労しているようだった。

 「繰さん、まだ……」

 「いいえ。シシャをブラックアウトさせた蛇よ」

 「あの話ですか? まあ、それになら同意してもいいです」

 「そう。これは受け入れてくれるのね? 雛ってなんか思考が九久津くんと似てるわよね?」

 「そ、それは」

 社さんは、校長室にきてはじめて動揺したように見えた。

 微動だにしなかった表情がすこしだけ緩んだ。

 社さんにも喜怒哀楽の顔があってなんとなく安心した。

 「なんで慌ててるの?」

 「い、いえ、なんでも……ないです」

 「そう……」

 (だとしたら蛇は今回のバシリスクの最新情報を知っていて、シシャをそそのかせる力を持つ能力者。やっぱり六校長の誰かの可能性が高い。私と五味校長は外す。仁科校長もむかしからの付き合いを考えると除外しても差支えない……かな。あとは佐伯校長……電話で心配してくれるくらいだから外しても問題ないかも。あとは武藤校長と入院中の市ノ瀬校長か……でも入院ってのがひっかかるのよね?)

 さあ、俺にしかできない技を使ってみるか。

 「校長、僕の力なら、いまのその場所が見れるかもしれません」

 俺が気づかずに具現させてたⅡ《ツヴァイ》は六角市の北町から南町を見てた、ってことはここから二十キロならⅡを出現させることができるはず。

 いままでは、俺の見える範囲にしか出現させてなかったけど、元はといえばけっこう遠くに出現させてたんだから。

 {{ツヴァイ}}

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