第72話 翌日

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 俺は、ぜんぜん眠れずにいつもよりも早く目を覚ました。

 今日に限って、あとを引くような、あの眠さがまるでない。

 いつもは、“朝の眠たさと、夜の眠れなさを交換してほしい”とか思いながら布団からでるのに、って……それもそうか、熟睡して目覚めたわけじゃないし。

 目が冴えすぎて一時間目が体育でもすぐに動けそうだ。

 は~、あと、三日でなにができるか考えないとな。

 まずは学校に行くか……。

 俺は、さっそく身支度を始めた、洗顔をしたあとに洗面台の鏡で目を眺める。

 眼科医が診察するように、あっかんべー的な感じで自己診断するが、なんの異変もない……と思う。

 俺は医者じゃないし、わからん、すこしだけ不安も過る。

 てか何科に行けばいんだ、やっぱ眼科か?

 ガラクタだらけの倉庫に入ったら血の涙がでましたってか……こうばしすぎるな俺。

 さらに鏡へと近づいてみるが、とくだん異変は見当たらない、ただの寝不足の充血だ。

 バスのなかでもバシリスクのことや九久津、校長のことで頭がいっぱいだった。

 いま生徒玄関にいるというのに、まだ悩みがグルグルと駆け巡ってる。

 そのまま教室に向かう、昨日の出来事を考えつつ教室の後ろのドアを開くと、そんなものはいっきに吹っ飛んでった。

 な、なんと黒板前に、い、偉人が降臨してた。

 よ、寄白さん、こ、こんな朝から、なにを?!

 寄白さんが最大限、背伸びしたであろう位置に【わたし、美子だけど何か質問ある?】という大きな文字があった。

 赤チョークで書かれた文字は、爪先を伸ばして書いたと思われる、そのためところどころが震えたようにクニャクニャしてた。

 「みっこ、みっこにしてやんよ!!」

 寄白さんは、十字架のイヤリングを揺らし、ついでに赤いリボンをはためかせて、俺の前にぴょんと飛びだしてきた。

 こんな大事なときなのに、だ、大暴走?!。

 「さだわらしぃ? 美子美子にされたいか?」

 みこみこ? い、いったい、なにされるんだ?!

 ……けど、ツンツンバージョンなら、猟奇的フルぼっこか?。

 と思ってたら、今度は急に口調が柔らかくなった。

 「美子美子にしてさしあげましょうか?」

 まるで、どこかの受付嬢だ。

 こ、こんどは、なんか、ひざまくら的なこと連想をしてしまう。

 って、とりあえず、寄白さんをいったん教室の外へださねば、他生徒に迷惑がかかってしまう、けどいま教室にいるのは俺と寄白さんを除いても、九久津と佐野だけだ。

 だが、それでも、この状況を放ってはおけない。

 てか、て、て、手を、つ、繋いでも……いい……のか……な?

 いや、無理だ……った……ので制服の袖をつかんでみる。

 いやこれも無理かも、つかむではなく、つまんでみた。

 「寄白さん、ちょっと、こっちへ」

 つい勢いあまって、強引に引き寄せすぎたかも。

 俺の胸元で寄白さんの頬がすこしだけバウンドした。

 「どこに行きますの?」

 「え~と、とりあえず廊下で話そう」

 今日は、いつもと違って、ヘアアレンジに花の髪飾りまでしてる。

 ポ二―テールなのか、サイドテールなのか微妙な位置で結んでるな。

 これだとどんな性格なのかがわからん。

 でも、校長と違って、センスがすこし古いかも……とくに髪飾り。

 あっ、よく見たら、瞳の星って左右で形が違うんだ、五星(五芒星)と六星(六芒星)なのか。

 俺はドアを開いて、袖を引っ張りながら寄白さんをチラ見したけど、うつむき加減と髪の流れで表情が確認できなかった。

 そのとき窓から鈴木先生が車通勤してくるのが見えた。

 おっ、新車のSUV買ったんだ?

 ピカピカのパールホワイトの車体は、教師の駐車場に縦列して停車した。

 そう、俺が、ほんの少し目を離した隙だった。

 「コリジョンルール!!」

 寄白さんは、そう言うとホイッスルのように口笛を吹いた。

 口をすぼめ、真ん中に穴のあいた、ドーナツ型のあめを上下の歯で噛んでる。

 ちょうど口笛をふけるようなあめ玉だ。

 「さだわらし。私の胸をかすめたな?」

 「な、な、な、と、とんでもないです。まったく触れてません。てか触れるボリュームがないと思います」

 俺は、いきなり最新ルールを適用された。

 か、仮にすこしだけ、かすったとしてもコリジョン適用ってことは、衝突なみに密着したってことだよな。

 それはないわ~。

 「ストロベリー味だ。食べるか?」

 突然、話題がぶっ飛んだ。

 もっと、ディスられるかと思ったんだけど。

 だって俺は、触れるボリュームがないと言ったんだぞ。

 「えっ?」

 「ほら」

 そう言うと、寄白さんは制服のポケットから、あめを取りだして俺にくれた。

 ツンツン不思議っ娘?? それでいて今日はアタリが控えめだ。

 逆コリジョンルールか?

 「なぜ、いま、あめを?」

 「それはだな、これで心を落ち着けろってことだ?」

 「は……はぁ?」

 まあ、一応、口のなかへと放り込んだ。

 おっ、イチゴ味だ、美味い。

 「沙田さん?」

 また、キャラ変した。

 「は、はい?」

 「九久津さんの、おうちはどうでした?」

 「えっと、アヤ……カ……シ」

 あっ、佐野に聞かれる、アヤカシという単語をだすのはマズいな。

 「す、すごくためになりました。ところで寄白さんは昨日どこでなにを?」

 「わたくしは、六角ガーデンでお花見を」

 「は、花見?」

 なぜ、昨日のあのタイミングで花見を……する……のか?

 あっ、そっか六角ガーデンってバシリスクの出現予測地点か。

 寄白さんって四階のアヤカシの出現時期を予測できるんだっけ?

 もしかして、校外でも出現予測できるのか?

 「ま、まあとりあえず、廊下で話そう」




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