第70話 接近

 

「寄白校長」

 すこし大きめの頭が部屋をのぞきこんできた。

 白髪と白髭が空調になびく。

 「あっ、升教育委員長まだいらしたんですか?」

  校長は急速に立ち上がると、一礼してからよれたスーツを叩いて伸ばした。

 シワが整ったのを確認すると、両手で左右の髪をき、ラウンド型のバックにスマホを素早くしまった。

 誰だ。このおじいちゃん?

 「ほほほ。寄白校長が気になってのう。きみが沙田くんかい?」

 のっそりと部屋にやってきたおじいちゃんは、待ち合わせ相手とようやく会えたかのように微笑んだ。

 「えっ、あっ、はい」

  こ、この人が教育委員長……って……ぬ、ぬらりひょんじゃん?!

 アヤカシが人間に化けることって……いままでの情報からするとありえる話だ……よな?

 「ほほほ。そうかいやっぱり」

  俺が目を合わせると穏やかに目を細めニコニコと笑ってる。

  アヤカシが化けたにしてはなんつーか、ホンワカしてるな。

  邪気みたいな、そういう雰囲気がいっさいない。

 「は、はい」

 てか、教育委員長、校長を説教しに戻ってきたのか?

 あ~また校長がヘコんでしまう。

  なんとかシシャの件を擁護ようごしないと……。

 俺はなぜか思うより先に口が開いた。

 「あの、校長先生は悪気があって解体工事をしたわけじゃないんです。えーと、いろいろと考えてですね、あの、ですね」

 「??」

 校長が升教育委員長と呼んだ、おじいちゃんは不思議そうに髭をさすってる。

 そのたびに羽織、袴がカサカサと擦れた。

 「さ、沙田くん違うの!!」

  校長が慌てながら、俺と教育委員長のあいだで、前方か後方を向くかで右往左往してる。

 「えっ?! 校長今日は、シシャの件で怒られたんじゃ?」

  なんだどういうことだ?

  校長のあの尋常じゃない落ち込みはなんだったんだ?

 「ごめん沙田くん。あの解体工事はまったく関係ないの。シシャの一件は別の要因だったのよ」

 「そ、そうなんですか?」

  なんだと!!

  あれが関係ないなら、俺の心配はなんだったんだよ?!

 「じゃあなんであんなに落ち込んでたんですか?!」

 「それはバシリスクが……」

  校長は申し訳なさそうに片目をつむった。

  その表情そのものが――しまった。と言ってるかのように。

 「えっ、バシリスク?」

 「ええ。二年前にヤヌダークがバシリスクと対峙して倒せなかったらしいの……」

 「えっ、ヤヌダークって、バシリスクと戦ったことがあるんですか?」

 「そうでらっしゃいますよね。教育委員長?」

 (沙田くん。ナイスな質問。これでヤヌとバシリスクとの細かな経緯がわかる)

 校長は教育委員長に話を振った。

 「ああ。そうじゃ」

 「それがどんな状況だったのか。教育委員長はご存じなのでしょうか?」

 「偶然ほかのとバッティングしたと聞いておる」

 「そうなんですか。ほかにあいてがいたならしょうがないですね?」

 (ロベスピエールかしら……)

 「やっぱりバシリスクは日本で倒さなきゃいけない……待ってるだけじゃダメなのよ」

 校長が元気を取り戻したのは、宿敵の話題で自分を奮い立たせるためか?

 人って明確な目標があるほうがやる気がでるしな、一週間後に中間テストだとか、来月は模試だとか行事が設定されれば準備はしやすい。

 「でも、どこにいるのかわかってるんですか?」

 「それが……もうすぐ日本に上陸するの」

 俺は、その報告を聞き驚愕した。

 それは、これからさきの校長と九久津のことを考えると、気が気じゃなかったからだ。

 なんせ九久津はあんなトラウマを抱えてる、アイツがこの事実を知ったら、きっとふつうの生活なんて送れないだろう。

 そして当局がこの事実を九久津に伝えないわけがない。

 隠し通せるようなことでもないだろうし。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください