第7話 七不思議製作委員会

 転校一週間、同じ市内で転校したというゆとりもあり、学校生活にもそれなりに慣れた。

 キャラの立ってる生徒は今のところ、寄白さんと九久津だけのようだ。

 この二人が特種なだけで、あとの生徒はふつうってことなのかもしれない。

 黒板を向いた先生に、消しゴムカスが当たるか当たらないの瀬戸際に飛ばす人。

 カンチョーをしようとして怖気づく人。

 そんなチャレンジャーを含め、こんな原始的なイタズラはふつうの高校だ、俺が前にいた六角第三高校のときとあんまり変わらない。

 そんなことを考えながら、俺は頬杖をつきノートを取る。

 だが異変は昼休みになって訪れた。

 二年B組の教室に、他のクラスや別学年の生徒が続々と集まってきた。

 な、なんだ?

 男子も女子も不良のような生徒も優等生も、ごちゃ混ぜで、みるみるうちに人だかりができた。

 この混雑ぶりは日本でときどき発生する、ゲームの新作発売やスマホの新機種発売に匹敵するな。

 集まった生徒たちは教壇を注視してる。

 壁時計を眺めたり、腕時計やスマホで時刻を確認する生徒もいる。

 なにが始まるんだ?

 俺はちょうど目の前にいた、生徒の肩を叩いた。

 「あの~なにが始まるの?」

 「えっ?! うち恒例、七不思議製作委員会の定例演説だよ?!」

 「はっ?」

 「キミ知らないの?」

 あきれたように俺を見返してる、ってことは……憶測するに六角第一高校では当たり前の行事ということか。

 「あっ、俺、一週間前に転校してきたばっかりだし」

 俺は自己保身に走った。

 「じゃあ、キミはシシャの可能性があるんだね?」

 「えっ?! ま、まあ、確率で言うならそうかも……でも俺じゃないよ」

 「なおさら委員長の話を聞きなよ?! あとひとつ転入生きみに良いことを教えてあげよう、僕は山田。この学校の重要人物だ、覚えておくといい!!」

 そう一瞥いちべつして山田と名乗った男は、俺よりも普通の男子高校生だった。

 山田は姿勢を正し、黒板を眺めてる。

 これからの出来事が待ち遠しいと言わんばかりにソワソワしながら。

 「お、おう。あ、ありがとう山田くん」

 ……あ、甘かった。

 一週間では学校のことなんてなにもわからない。

 また変な儀式が始まるのか、百聞は一見にしかず、とりあえず最後までつきあってみるか。

 人ごみに紛れた生徒たちの頭上から、教室の扉が開くのが見えた。

 開いたスライド式の前扉がふたたび閉められると、教壇までの道がモーセの十戒のように割れた。

 ペタペタとした上靴の音で、黒板の前に人が近づいてくるのがわかった。

 教師は自前の靴のため、この足音は生徒に間違いない。

 群衆は羨望あこがれのまなざしを送ってる。

 「六角第一高校七不思議製作委員会。委員長の九久津毬緒です!!」

 九久津が委員長かよ?! やっぱ憑依してないと優等生……な……の……か?

 ノートにも難しそうな公式とか書いてたし。

 ただ九久津のキャラは掴めん……。

 「七不思議製作委員会は生徒会の外部組織であることは生徒諸君もご存じでしょう?!」

 なんか六角第一高校内では特別待遇の組織っぽいな。

 教卓に両手をつき熱弁を振るう九久津は、どこかの国の独裁者を思わせた。

 「――どうしてこうも七不思議はフルコンプされている学校が少ないのか? たいてい五、六個しかない。さらには五番目六番目が【七番目を知ると死ぬ】と手抜きした学校も多い。まことに由々ゆゆしき事態です。実質五個の七不思議。こんなことでいいのでしょうか?!」

 九久津が拳を高らかに突き上げると、拍手や口笛が鳴り観衆のテンションが上がった。

 他の生徒たちも九久津に合わせて拳を振り上げた、あちらこちらで手を突き上げてる。

 バラバラだった腕の動きがいつしか統一され、ひとつの大きな波のようになった。

 「我高だけは、せめて我が高だけは、高クオリティの七不思議を創りだそうじゃありませんか?!」

 そう言い終わると教卓を一度ドンと叩き、眩いばかりのキメ顔を見せた。

 おっ、さすがはイケメン。

 カッコいい顔はやはりカッコいい、それに生徒たちは呼応した。

 「きゃぁぁ!! 委員長~!!」

 女子生徒の黄色い声に混ざって、ふたたび大きな拍手と歓声が沸き起こった。

 「我々、六角第一高校から直線距離で三十キロ先に六角第二高校、同じくここから直線距離で三十キロ先に六角第三高校があります。その二校でも七不思議は【七つ】存在しないと聞きます。ここで問題なのは、やはり【七番目を知ると死ぬ】という便宜上べんぎじょうのいいわけです!!」

 観衆たちは興奮し、しばらくドヨメキがつづく。

 おのおのが合いの手を入れると、九久津を持ち上げた、沸騰した熱はまだまだ冷めそうにないな。

 「そんな杜撰ずさんな管理体制の七不思議。そのようなことで果たしてこの先やっていけるでしょうか? いったいこの国はなにを考えてるのでしょう!!」

 日本を相手にしちゃったよ?!

 前言撤回、九久津は憑依前でもけっこうなポンコツだったようだ。

 七不思議なんてどうでもいいだろうが。

 俺が六角第三高校にいた頃にも、いくつかは聞いたことはあるけど……。

 てか、こんな学校だ、寄白さんがホームルームでうろついていても誰も気にも留めないはずだ。

 「現在、我が高の七不思議は――」

 白いチョークを手にした九久津は黒板に達筆な文字を書いた。

 カツカツと字画と同じ回数の音がした。

 【走る人体模型】

 【ストレートパーマのヴェートーベン】

 【段数の変わる階段】

 【誰も居ない音楽室で鳴るピアノ】

 【飛び出すモナリザ】

 【七番目を知ると死ぬ】

 そのあとに赤いチョークに持ち替えて、七不思議を項目ごとに二重、三重、丸で囲んだ。

 「そう、この六つです!!」

 チョークの先で二、三回、コンコンと黒板を突いた。

 とくに念入りに叩いたのは【七番目を知ると死ぬ】の項目だった。

 そこが一番重要なんだろう。

 「残念ですが我が高も例にもれず実質七不思議は六個しかないのです。それに【段数の変わる階段】など怪談としてはレベルが低い。段数の変化など怖くない!! というか階段が一段増えたところで誰が気づくだろうか?! 毎回毎回、段数を数えるなんて交通量調査のバイトが練習でやるくらいでしょう!!」

 階段と怪談が混ざって、ややこしいな……混乱するわ~?

 なんか、もう、絡まり合って、わけわからん。

 「いいえ段数の変化は大事なことでしてよ。初段だと黒帯です!!」

 えっ、よ、寄白さん……?

 俺はしゃがみこんで、生徒たちの足元の隙間をのぞいた。

 例の十字架ピアスが目に入った、間違いなく寄白さんだ。

 また異次元ガールがなにかを言いだした。

 寄白さんは教壇の最前列で体育座りしながら集会に参加してた。

 「アナタは正しい!! その通り!! 我が高の階段は初段から段数が合わない」

 九久津は寄白さんをピンポイントで指さした。

 指名された寄白さんは、懸賞で当選したような満面の笑みを浮かべてる。

 寄白さん九久津なぜそこで通じ合うのか?

 「そうですの。わたくし一段目だと思ったら七段目だったことがあります。黒帯が七段でしてよ?!」

 「それは、困りましたね~?」

 これはたぶん空手で言うなら【初段(一段目)が黒帯なはずなのに、一歩目で七段目だったという怪奇現象でしてよ】と言うことだろう。

 「委員長聞いてくださる? わたくしこの前【初段とは厳密には一段目のことではないのですのね?】と思っていましたら五段目のような七段目でしたのよ?」

 問答無用で七不思議発動!!

 ムズい。

 九久津の謎の公式を使えば答えはでるのかもしれないが。

 その場に一瞬、謎の沈黙が訪れた。

 「…………」

 水を打ったような静けさとはこのことだな。

 「…………………………」

 そうなるよね~まったく意味不明だし。

 最終的な着地点はなにひとつ見えずに、ウヤムヤでこの集会は終わった。

 この会の目的はなんだったんだ?

 俺がそう思っても、未だに興奮は冷めずまだ生徒たちは――アンコール。と繰り返し叫んでる。

 なかにはヘッドバンギングをして……はうっ?!

 どころじゃない、逆ダイ、コロダイ、モッシュまでしてる。

 中規模フェスか?!

 まさかツーデイズとかじゃないだろうな?




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください