第69話 ルーツ継承

「彼女。ヤヌダークって言うんだけどね、彼女のファーストルーツはジャンヌダルクなの」

 「えっ?! そんなことバラしていいんですか?」

 ジャンヌダルクってフランス女軍人で人々のために戦った人だよな。

 てかジャンヌの情報だだ洩れ……。

 「そこは文化の違いでね、欧米には御名隠しがないの。名前はアルファベットの羅列られつだから」

 「あっ、なるほど。日本にいるから、そんなこと考えもしなかった」

 英語ってABC・・・XYZの組み合わせだもんな。

 日本だと両親の想いや願いが<漢字、片仮名、平仮名>に強く込められる、こんな子供に育ってほしいって。

 「反対に象形文字から成り立った文化圏では、文字ひとつひとつに深い想いを込める。日本語なんて世界屈指の高等言語だしね。話を戻すわね? その能力者たちを遡っていくと、どこかで能力に目覚めた時期があるの。それがファーストルーツ。かつてはジャンヌダルクもふつうの人だったのよ。でも人の希望や祈り(希力)を受けて能力者になった」

 能力者ってそういうことなんだ?

 じゃあ、基本的にファーストルーツになったときの、名前が真名になるのか、有名か無名かを問わずに。

 それを受け継いでいくのが“御名隠し”。

 御名隠しは、邪馬台国が発祥って言ってたっけ?

 ということはファーストルーツが卑弥呼で、そのルーツを継承したのが寄白さん。

 あの時代になにかがあったんだな。

 「自分のルーツを探ると、必ずどこかで能力に目覚めた人がいるんですね?」

 「ええ、そう。いまこの時代で能力者に覚醒した者以外はね。例えば、源義経は能力に目覚めてチンギスハンになった。頼朝の追っ手を振り切るため、仲間たちの希力を経てね」

 「えっ?! あの話は本当だったんですか?」

 早い話が頼朝と義経って壮絶な兄弟ケンカなんだよな。

 兄思いの九久津と真逆じゃねーか……いや、違う、義経も兄の頼朝を思ってたんだ。

 頼りになる兄を慕って、でも頼朝に追われた……。

 「噂は本当よ。現にチンギスハンを継承した能力者がモンゴルにいるわ」

 「でも、それをどうして?」

 「これからの説明に引用したかったから。直接の血筋から遺伝として能力を継承することをルーツ継承というの。まあ、これを一般的には転生なんて呼ぶわ。反対にヤヌダークのように時代を経て、つまり生物学的に関係がないのに偉人の能力が発現することを信託継承しんたくけいしょうという。これは偉人の思念が、それに相応しい器を探して同化すること。チンギスハンも同じ信託継承よ」

 「じゃあ、僕はその信託継承ってのに近いんじゃ?」

 負力を蓄えて悪に染まるモノもいれば、希力を得て能力者になるモノもいる。

 案外この世界も捨てたもんじゃないかもな。

 簡単に解釈すれば、希力も負力も、それに則するうつわがあれば正義か悪の能力者になるってことだよな。

 「可能性は高そうね。でも、そうなると沙田くんは“現在の沙田くん”が能力に覚醒したことになる。だとすればラプラスの言葉と整合性がとれない。真名を持つ以上、過去のどこかで能力者になってるはず」

 校長は、静かに目を閉じた。

 脳内すべてをスキャンし記憶のなかで手がかりを探してるみたいだ。

 (私には、その理由はわからない。ただ“わからない”ことは“わかる”。……きっと真相はAランクの情報。ごめん、沙田くん。私は自分のためにキミを利用した。あわよくばを期待して【資料】を都合よく編集した。ううん。潜在的にバシリスクを倒せる能力者として送りだそうとしてたのかも……? 私は公私混同どころか、当局の大義名分として私的にⅡを利用しようとしてたんだと思う。あの鵺を瞬殺したとてつもない力にすがって)

 「そうですよね。やっと、僕のルーツが解りそうだ」

 校長だいぶ回復したな。

 ここにきたときの、しょんぼりが消えていった。

 あのときはこの世の終わりみたいな顔してたもんな。

 「あっ、ごめん、すこし考えごとをしてて」

 校長が目を開いたとき、小会議室の入り口からコンコンと乾いたノック音がした。

 「あっ、はい。どうぞ?」

 校長がそう返答したけれど、ドアが開かれる気配はなかった。

 すこしのがあき、木目調のドアがゆっくりと開かれた。




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