第67話 幻のガシャドクロ

 俺はいま市役所の小会議室にいる。

 九久津の家から六角駅までバスに乗って、そこから今日の報告をしようと立ち寄った。

 市役所内には大会議室もあるけれど、市民が個人単位で使用できる小部屋もある。

 校長は小上がりにポツリと座ってた。

 小さな部屋のなかで、がっくりと肩を落としてる。

 こんな狭い部屋なのに、校長が一回り小さく見えた。

 「……沙田くん。九久津くんの家はどうだった……?」

 校長の声がかすれてる。

 短縮授業で下校してから、わずか数時間しか経ってないのに校長は疲れきってるようだった。

 やっぱり査問会で偉い人に怒られたのか?

 俺は俺で、血の涙を流すなんて、こうばしい人になったけど、言わないほうがいいよな?

 校長の負担を増やしてしまいそうだ、ああ、葛藤する。

 「えっ、ああ、なんか、凄かったです。いろいろと……資料も参考になりました。あれはきちんと破棄しましたので……」

 「そう」

 校長の一言には悲哀が感じられる。

 スゲー落ち込み具合だな、なんとかを持たせるための話題を探さないと。

 ただし、あまり重い話は避けて……おお!! そうだ九久津家の報告にきたんだからそのことを言えばいいじゃねーか。

 俺はこの重苦しい空気に流された……。

 「そ、そういえば、あのフロアゼロってずいぶん散らかってますね? 九久津みたいな性格なら進んで片付けでもしそうなのに?」

 俺はなんて中身の乏しい話をしてんだか?

 ――今日は良い天気ですね。的な切羽詰まった、お見合いかよ。

 「ああ、あれね。百年を超えた物には魂が宿る。それが付喪神つくもがみ。粗末にされた物も同様にね。代表的なアヤカシだと“から傘オバケ”とか……かな?」

 「えっ、それがなにか?」

 「結界を張ってあるとはいえ、下手に負力が地下へ流れるくらいならフロアゼロで食い止めようってことなの?」

 「えっ??」

 なんでかよくわからないけど、会話が進展してる。

 俺が、けっこう良い質問した感じになってるのか?

 けどスムーズに話が進んだなら、まあ、いっか。

 もしかして校長話するのも面倒で導入部分を省いた的なこと?

 「フロアゼロをわざと散らかして、もしもの場合はあの階でアヤカシを退治しようってこと。まあ、セーフティネットみたいなものよ」

 お~そういうことか?!

 例えばフロアワンに負力が流れて忌具に取り込まれるくらいなら、フロアゼロのガラクタに負力を取り込ませたほうが安全ってことだ。

 「負力を取り込んだフロアワンの忌具」と「負力を取り込んだフロアゼロのガラクタ」 仮に戦闘となった場合、どっちが倒しやすいか? 当然、ガラクタの方ほうが倒しやすいよな。

 「ある種の罠みたいなことですか?」

 「そう。ただ付喪神を忌具とするか? アヤカシとするかの判断も難しくてね?」

 「ジャンル分けって難しいんですね?」

 そっか、一般的に鋳型ができて負力が入るとアヤカシになる。

 学校の七不思議は、おもに備品に負力が入る、だから昨日はバッハだった。

 学校の七不思議はアヤカシのくくりだ。

 忌具も物に負力が宿ったモノ……忌具とアヤカシの違いを単純に考えると……

 動くか動かないかの違い、か?

 さらに付喪神ってのも物に負力が宿るモノ。

 付喪神と忌具の違いを考えると、たぶん負力の比率?

 ということは負の思念が強いほど危険性は高まる……。

 こりゃあ、確かに分類が大変だな……?!

 あっ、最悪、意思を持って自発的に動く忌具が存在してもおかしくないのか?

 さらにそれが凶悪な考えを持っているとしたらヤバいな。

 ……てか、やっぱり校長ってアヤカシの知識ハンパない気がするんだけどな、なんで結界のことは勘違いしてんだろう?

 「あの~?」

 俺が問いかけようとしたと同時に――そうよ。だから種類分けの線引きは曖昧なの。という校長の言葉と重なった。

 少し遅れて――……なに?と校長は間合いを見計らってから俺を見た。

 「あの、その、六角市の結界についてなんですけど……」

 人の勘違いを指摘するのって難しい。

 どう言えば、上手く伝わるのか?

 「あっ、結界については、私、査問会で気づいたことがあるの。そこは、もう一度、勉強し直さないと。だから私、沙田くんに嘘を教えちゃった」

 「あっ、偶然九久津に聞きました。守護山のあれこれを」

 ちょ、ちょうどよかった、校長の負担を増やさずに済んだ。

 「そう。でも沙田くんに、忌具保管庫を見学してもらってよかった。能力者として頼りにしてるから……」

 校長がうなずくと、話題の軌道を修正してきた。

 (私はズルい……沙田くんの人生に勝手に踏み込んだ)

 「僕の力って、やっぱり先祖代々のものなんですか?」

 「えっ?」

 「おぼろげな記憶なんですけど、ご先祖様もむかしガシャドクロと戦ったっていう話を聞いた……気が……するんです……」

 「……」

 校長は神妙な面持ちで考え込んだ。

 脳と連動してるように瞳が左右に揺れてる。

 動き続けたルーレットが止まったように中央で瞳孔が止まった。

 「う~ん。こんなことを言うのも申し訳ないんだけどそれは考えづらいかな……?」

 「えっ、どうしてですか?」

 「ご先祖様ってことはすくなくとも、おじい様、おばあ様より昔のことよね?」

 「はい、けど先祖だから、もっと遠いかも……」

 「となると、なおさら考えにくいかな……」

 校長は自分を納得させるように、もう一度うなずいた。

 「ガシャドクロというアヤカシは近代に作られた概念なの? それこそ二十世紀後半くらいにね?」

 「えっ、そ、そうなんですか?」

 「ええ。だから、おじい様おばあ様の世代と考えても、やはり時代が合わないわね?」

 そんな……じゃあ、ご先祖が退魔的なことをやっていたという記憶は……嘘……?

 そういや、校長室で六角市の秘密を聞いたとき、俺ってやけに冷静で素直に受け入れたよな?

 あれって、どこか校長相手だから許せた気がするし。

 「沙田くんを六角第一高校うちに呼ぶ前に、ご家族を遡れるだけ調べてみたけど能力者だった人はいなかったわ。ごめんね、勝手に調査なんかして」

 「そ、そうですか……」

 校長が調べたってことは正式に当局が調べてるんだろうし、間違いはなさそうだ。

 俺って体のなかにラプラスとⅡとⅢがいるんだよな? あっ、あのときの――『時がきたら君の力を貸してほしい』って声の奴もいるのか。

 俺って引き寄せ体質なのか? 体質改善したんじゃなくて、ただのジャンル変更ってことか?

 結局、特異体質かよ。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください