第65話 小さな守り神

こんなに早く預言の書が、げ、現実になるなんて……

 終わりの始まり。

 つ、詰んだ!!

 開かれた瞬間、ビックリ箱のように、小さな子供がひょこっと顔をのぞかせた。

 「なっ?!」

 うぉ~幼児監禁?! イケメンの心の闇を見たぁ!!

 俺、落ち着け。

 だ、だがどういう状況だ?

 感情をいったん断捨離するんだ。

 白い着物に赤い帯、餅のようなプニプニの頬を膨らませて、ニコっと笑う、おかっぱ頭の子供がそこにいた。

 三日月型の澄んだ瞳が俺を見てる。

 かわいいな~。

 子供のかわいさは、自分を守るための防御本能って話もあるしな。

 まさに天使の笑顔だ。

 だが前髪を切りすぎてる、いや、今は流行りか? 時代に敏感な子だな。

 てか、ビックリしてまた腰をグキった!!

 あ、あとで校長に治療してもらおう。

 せっかく良い感じにおさまってたのに……寄白さんはコールドスプレー、校長は治癒能力者、姉妹でこうも違うものなのか?

 いまだになぜ俺は、保健室であんな仕打ちを受けたのかわからない。

 終いには鼻の奥にコールドスプレーだぞ、顔が爆発したらどうすんだ?

 そうなったらゾンビになって復活してやるからな!!

 俺が腰をおさえ、この現実から目を背けていると、九久津はその子供に歩みよった。

 「ずいぶん見かけてなかったのに……」

 視線を落とすためにしゃがんだ九久津。

 笑みを返す子供が九久津の顔に頬ずりした。

 「おっ、おい」

 そう言いながらも九久津は笑みを零してる。

 「そ、その子はどちら様で?」

 俺が訊くと驚くべき答えが返ってきた。

 「座敷童のざーちゃん」

 九久津は自分の両手を座敷童の両脇に通して、そのまま抱きかかえた。

 「ざ、座敷童。ということはアヤカシ?」

 アヤカシならばパンドラの匣に監禁しても法では裁けぬ。

 これが法の穴ってやつか。

 ただ“ざしきわらし”という響きが“さだわらし”とかぶって微妙にヘコむ。

 座敷童はずいぶん九久津になついてるな~首に両手を回して抱き着いてるし。

 九久津の彼女かよ?!

 「そう。排他的アヤカシに属するアヤカシ。けどアヤカシではあるけど福の神とも呼ばれてる。千七百年の希力を蓄えた千歳杉に惹かれてきたんだろうって、むかし兄さんが言ってたな」

 座敷童は九久津の首にユラユラとぶらさがってる。

 九久津はそのまま立ち上がった。

 座敷童はまるで首元を飾るネックレスのようだ。

 「へ~。希力にはそういうアヤカシを惹きつける力もあるのか?」

 「アヤカシのすべてが悪なわけじゃないし。人間に優しい種族もいるんだよ」

 座敷童は俺のほうを振り返ってニコっと笑った。

 なにかを伝えるように口を上下にパクパクと動かしている。

 読唇術どくしんじゅつを使うまでもなく“マ”“リ”“オ”という形にしか見えない。

 く・ぐ・つ・ま・り・お、か。

 九久津の名前を呼んでるんだ。

 「ざーちゃんは声がだせないんだよ」

 「そ、そうなんだ……」

 座敷童は九久津の首元で大きく振子のように揺れると、床めがけてパッと飛び降りた。

 裸足の足が床面に吸い付くような、見事な着地をみせた。

 そして公園を駆ける子供のごとくペタペタと足音を立てて走り回ってる。

 座敷童は障害物のように置いてあった、九久津のバッグに気づいた。

 幼い子特有の頭を対象物に接近させるかっこうで、バッグを眺めてる。

 おもむろにジッパーを開くと、その開いたわずかな隙間に手を入れた。




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