第63話 忌具保管庫(いみぐほかんこ)

 九久津は千歳杉の真横を見つめてる。

 「そんな建物がどこにあるんだよ?」

 俺は辺りを見回したがなにも見当たらない、目に映るのは守護山の山脈群と、さっきから空をうろつくUFOだけだ。

 円盤はチカチカと光を増減させながら、いまも空を優雅に浮遊してる。

 千歳杉の脇のなにも変哲もない一画。

 本当にとりとめもない景色が洗濯槽のようにグルグルと螺旋を描いて歪む。

 九久津は恐れることもなく、ゆっくりと足を進めた。

 ある場所でピタっと立ち止まると、赤い線が九久津の上半身から下半身までをスキャンした。

 それは光の警備員というべき赤外線かなにかだと思う。

 九久津は侵入を許可されたようだった。

 景色と一体化していた個所が、自動ドアのように大きな音も立てずに、左右真っ二つに割れた。

 空、木、山、そんな自然の風景でカモフラージュしたような扉は右と左それぞれで留まってる。

 その場所にあるであろう建物は風景というバリアに包まれてた。

 九久津の目の前には、もう一枚、鉛色なまりいろの強固な扉がある。

 九久津がなにかボソボソと言葉を呟く。

 中の扉も表扉の同様に、がーっとゆっくり左右に開閉された。

 「さあ、入って」

 俺は九久津の促されて後につづいた。

 「ああ」

 足を踏み入れた瞬間、外の自然とはまるで違う空気を感じた。

 なんだ、この重い空気?

 「ここが繰さんの見学してこいって言ってた場所。そして俺の家の一部」

 「ここって九久津の家なの?」

 「そう」

 九久津がうなずくと同時にまた扉が、がーっと閉じた。

 まるで九久津の意思を理解してるようだ。

 「まあ、調度品なんかは居住区にあるけど」

 「へ~。んでここはなに?」

 俺は右斜め上から自分のキメ角度まで、さまざまに首を動かして部屋全体を見回した。

 古びた木製の棚に年代物の書籍類などが山積みになってる。

 時代劇なんかにでてくる帳簿みたいだ。

 床にはところどころ捨てるようにジャンクアイテムが置かれてた。

 子供が二人くらい入ってもまだ、ゆとりがありそうな頑丈な箱と、サビに覆われ大きくヒビの入った鏡はとくに印象に残る。

 箱は西洋の神話にでもでてきそうな代物だ。

 鏡は鏡で聖書なんかに登場してもおかしくない雰囲気をだしてた、洗練されたデザインで細かな彫刻がきれいだ、俺が見るかぎり、かすかだけど“A”と“C”という文字が読みとれた。

 “A”と“C”か。

 じゃあ“B”は消えたのか。

 単純に考えてABC順ならアルファベットだよな。

 「ここは忌具保管庫。世界中に数多あまた、存在する、いわくくつきのアイテムがレベルごとに保管されてる」

 九久津はそう言って、背負ってた通学バックを床にポンっと置いた。

 ドスッとサンドバックを殴るような音がした。

 「曰くつきアイテムって?」

 「例えば、妖刀ようとう魔境まきょう魔壺まこ、スーサイド絵画、破滅椅子、呪術人形、シリアルキラーのデスマスクなどなど」

 「いわゆる呪いのアイテム的なもの?」

 絵画とかって詐欺師の売り物じゃねーのかよ?!

 って俺はなんて偏見を持ってんだか。

 けど、心のどっかで詐欺師なんて死ねばいいと思ってるのも確かだけど。

 「世間一般の認知度ならそういうこと。負力ってのは物にも宿るんだよ。例えば血を吸い怨みを極限まで溜めればそれは、とてつもない妖刀になるし。なかには上級アヤカシを凌駕りょうがするほどの忌具もある」

 「そ、そんな危険なものまで?」

 「だから繰さんが見学を勧めたんじゃないか? アヤカシ以外で敵になりそうな物を見てこいって」

 「そ、そうなのか? 能力者って単純にアヤカシだけを退治します。みたいに思ってた」

 「世のなかそんな単純じゃないよ」

 九久津のその一言はスゲー重みがあった。

 そして九久津の背負うトラウマが頭を過る。

 「忌具は五階層のレベルファイブに分かれる。いま俺たちがいるここが、レベルゼロでガラクタだけのフロア」

 九久津は部屋を一周するように指さした。

 「じゃあ、ここはたいした物は置かれてないのか?」

 そういう話を聞くと、どの品もぜんぜん危険なアイテムだと思えなくなるから不思議だ。

 人間って案外、単純だな。

 「ああ。地下へと潜るごとに危険度は増していく。ここから一階下にくだってレベルワン、その下がレベルツーと順に増えて、最後がレベルファイブ。つまりここから五階下にある場所に最凶さいきょうの忌具が保管されてる」

 「そんな地下深くまで……」

 「それだけ危険なんだよ。現在レベルファイブの忌具保管庫が稼働してるのは日本、アメリカ、フランス、イギリス、イタリア、ドイツの六ヶ国」

 「世界には百以上の国があるのに、たった六ヶ国なのか?」

 「ああ。これは国連の決議で採択されたことだから」

 「マジか~?」

 「まあ、俺らが最下層まで行くことはないから安心しろ。レベルワンより下に行くには三家(寄白・九久津・真野)の許可もいるし。レベルファイブにおいては当局の許可証も必要だ。だからいまは、せいぜいこの辺りのガラクタを見物するくらいだな」




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください