第6話 昼休み

 昼休み、俺は独り。

 他の生徒たちは仲間うちで弁当を食べてる。

 ほぼ部外者の俺が見ると、はっきりとグループ分けがわかった。

 男子に比べて女子ってのは、やっぱり集団が好きなようだ。

 そしてクラスの大半は教室にいないこともわかった。

 六角第一高校は昼休みも比較的自由で、図書室や体育館など開放された場所でなら、どこで過ごしても良いことになってる。

 こと細かな禁止事項はあまりなく、教室で過ごす生徒は全クラス合わせても半数もいないだろう。

 転校初日、まあこんなもんか……。

 俺は弁当ケースからステンレス製の弁当箱を取りだした。

 はっきり言って、うちの母親は料理下手だ、したがってどんな中身が出現するのかわからない。

 両目をつむって一呼吸おき、いっきにふたを開く。

 たのむアタリでろ!!

 おそるおそる片目から開く。

 ……くそっ、米と醤油に浸した海苔のみ。

 俺の弁当は、白米の上に一口大の海苔が、八枚ほど敷き詰められてるだけだった。

 他のオカズは見当たらない、とは言え、これでもまあアタリの部類に入る。

 そのむかし、弁当箱にシリアルを入れ、二百ミリの牛乳パックを付属されたこともあった。

 俺が転校初日だということで「置き」にいったな。

 母よ、勝負を避けたか、まあ、これなら良しとするか。

 そう思い箸を持ったときだった、机上の水平線に飛びでたアホ毛を発見した。

 草原に咲く一輪の花のようだ。

 日の出のように、人の頭がだんだんと浮かんできた、頭部を守る衛星のようにアホ毛の本数も増える、そしてついに両端の触覚が姿を現した。

 これはラスボス登場シーンか?

 目と目が合ってしまった、瞳のなかに星、なんか見慣れた瞳孔……よ、寄白さんか。

 この娘はなんて自由なんだ。

 「……あ、あの、なにか?」

 俺の箸を持つ手は固まってた。

 箸先がクロスしたまま海苔を掴みそこね、沈黙してる。

 サイドテールを白いリボンで結った寄白さんは、机に両手をつき顔を三分の二ほどだしたところで上昇をやめた。

 そのポジションから、なおも視線を投げかける。

 な、なんだ?

 捨て猫が両手で段ボールを掴む、あの格好をしてる。

 そんな目で見ないでくれ~。

 こ、これは海苔弁を憐れんでるのか? そうに違いない――こいつ転校初日から海苔弁かよ。ショボっ!! って目だ。

 一時停止の状態からふたたび上昇が始まると、ついにすべての輪郭が出現した。

 相変わらず、右に三つ、左に三つの十字架ピアスが目立つ。

 ピアスは規則正しく振り子のように揺れて、十字架同士がじゃらじゃらとぶつかった。

 「沙田さん。そのお弁当は幕の内弁当ですね?」

 どう見ても手抜きの海苔弁だ。

 い、いきなりディスられた。

 こんなカワイイ顔と声と仕草で、なんてドSな……。

 ただ九久津への接しかたで、うすうすは気づいてたけど。

 「いや、これは海苔弁だけど……」

 「……もうすぐ幕の内弁当の幕が切って落とされます」

 「はっ?」

 「足の小指専用の防具があれば売れると思われませんか?」

 「えっ?! え、え、え~と、それはどういう意味で……?」

 謎の問いを畳み掛けてきた寄白さん。

 スフィンクスか?

 なんの意味があってそんな……って、ただの不思議っ娘だしな。

 意味なんてないのかも。

 「タンスの角にぶつけるのは必ず小指ですよね? 親指のほうが上にでてるのにおかしいと思われませんか?」

 「あっ、確かに?!」

 それは一理あるが、この娘はなにを言ってるんだ?

 日常で見つけた大発見を俺に聞いてくれと言うことか?

 「あっ、美子ちゃん、その髪型のときは好奇心旺盛なんだよ~」

 教室の後ろからイケてる声がした。

 五百ミリのミネラルウォーターを持った九久津だ。

 やはり声もかっこいい、うらやましいぜ。

 九久津はただペットボトルを持っているだけなのに、清涼飲料水のCMのような爽やかさだった。

 そのまま海やプールを背景にして、商品名を叫べばCM成立じゃないか。

 「えっ、あっ、そ、そうなんだ?」

 俺は寄白さんよりも九久津の行動に興味が移った。

 どうやら一階の売店で買ってきたみたいだ。

 席についた九久津は、机にシェイカーを置くとペットボトルの水を入れた。

 どくどくとシェイカーに水が貯まっていく、そこに机から取りだした小袋パックの緑色の粉末を入れた、さらに別のパウチから謎のカプセルを取りだし放りこむ。

 バーテンダー持ちをして、勢いよくシェイカーを振る九久津。

 シャカシャカと気持ちの良い音が鳴る、なかでは新鮮な気泡がプツプツと弾けてる。

 つぎは竹籠たけかごに入ったオーガニックのナチュラルパンっぽいのをひとかじりした。

 「美味しい!!」

 どんなこだわりだよ?!

 憑依体質のイケメン胸チラ、プラス健康オタクのオプションもつけるぞいいのか?!

 俺は忘れてた、寄白さんへと視線を戻す。

 てか九久津の言ってた、その髪型って?

 ああ~サイドテールのことか。

 寄白さんは朝とは違って、まとめた髪を左側に寄せ白いリボンで結ってる。

 ということは髪型で性格が変化するのか、それはそれでめんどうかも。

 ツインテールはお嬢様でサイドテールは不思議っ娘、ら……しい……な。

 ホームルームのときはツインテールでも不思議っ娘だったけど。

 「どうして扇風機に左回りはないのでしょうか?」

 寄白さんは、さらに問いの上乗せをしてきた。

 俺の解答こたえを待ってるのか?

 「ああ。確かに扇風機は時計みぎ回りだね」

 「そうでしてよ」

 またまた、どんな発想だよワンダーガール?!

 まあ、扇風機の件は納得だけど。

 そうか?! サイドテールはワンダーレベルが格段に上なんだ!!




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