第54話 もうひとりの能力者

 いま、俺は九久津と一緒にバスのなか。

 この乗り換えで九久津の家まで行ける、と言っても郊外ルートだからそれなりに時間はかかるけれど。

 六角駅でバスに乗ったとき、先客に後部座席をとられてしかたなく後ろから二つめに座った。

 ちなみに窓側だ。

 九久津は窓からの陽射しを嫌がって俺の横に座ってる。

 この街は本当にソーラーパネルが多い。

 イケメン優等生は混雑した車内でも日課の数式を解いてる。

 まぶしいと、そりゃあ勉強も進まないか……てか将来、当局の幹部でも狙ってんのか?

 六角駅を出発して、早くも三つの停留場を過ぎた、乗客はますます増えるいっぽうだ。

 郊外に行く人は意外と多くて、つり革に掴まる客もでてきた。

 アウターと紙袋が擦れる音や、トートバッグが手すりにぶつかる音が車内の混雑さを物語ってる。

 さっき再発した腰の痛みは落ち着いてきた。

 なんだかんだ冷やしたのが良かったようだ……なにげに氷の五芒星に治癒能力があったとかじゃないよな?

 まあ、いまは座席がクッション代わりになって負担をやわらげてくれてるからな~。

 さあ、また資料でも読むか。

 俺はバッグから資料を取りだし、さっきのバスのなかで折り目でつけた小さな目印を探した。

 シャープペンを走らせてる九久津を横目で見ながら、やっと目的の個所を発見した。

 ここで九久津といるメリットが最大限に発揮される、なんたってなにか疑問があればすぐに訊けるからだ。

 資料をめくった途端に俺は固まった。

 うぉぉ?! 紙ごしからでも目を逸らしてしまうほどの美女!!

 これは学生生活で二、三回、話すだけで勝者と呼ばれるほどの美人じゃねーか。

 こ、この娘は誰?

 【社雛やしろひな

 六角第二高校の二年生。

 実家が六角神社。

 能力:【ドール マニュピレーター】

 備考:半年ほど前に大きな怪我をした。

 なにぃ?! この街に同世代能力者がもうひとりいたのか。

 六角神社の娘さん? まさにうってつけの仕事。

 ……仕事なのかどうかはわからないけど。

 能力者ってことは、いずれ会えるな。

 よその学祭に行くようなワクワク感!!

 他校の女子が三割増し美人に見えるのはなんでだろう?

 いや、この娘はなんつーか、最初っからカワイさチートなんだけど。

 モノクロ写真なのに、とてつもない美人が写ってる。

 ストレートヘアにパッツン前髪、長いまつ毛に、くっきり二重、瞳も大きく鼻筋も通っている、極めつけにふっくらとした唇。

 この紙質でも勝手に美肌補正してしまうほどだ。

 モデルとは、こういうスタイルの人がなるんだろう、そう思えるほどだ。

 手足も長くて六角第二高校の制服が、撮影用に用意された衣装のようだった。

 胸元には五芒星の中央に“二”という漢数字、高校は違えど、同学年だから美人……というか美女だな。

 校長はここにもCランク以上の情報をぶち込んできたっぽい。

「あれっ? 雛ちゃん」

 九久津から、さも親し気なイントネーションの一言が聞こえた。

 この美人と九久津の距離感はいったい?

 まさか、こ、これはイケメンはモテるって宇宙的法則なのか? ニュートンでも発見でき……なかった、し、新法則……いや違うな、法則もなにも、ごく自然なことだ。

 だってイケメンはかっこいいもの、だって女子はイケメン好きだもの、リンゴが下に落ちるくらい当たり前じゃん。

 寄白さんという妹属性とこの美人、両手に花。

 九久津。

 戦国武将かよ?!

 けど、武将っていくさのときは男にもイクって話だしな意外とBLの歴史も古いんだよな。

 もう、心、むちゃくちゃじゃん!!

 鈴木先生は授業中ときどき話が脱線して、ハイトーンボイスで歴史マメ知識を教えてくれる。

 本当かどうかはわからないけど、上杉謙信が女だったとか源義経がチンギスハンになったとか、そういうたぐいの話だ。

 でも、そっちの話のほうがおもしろかったりする、本当の歴史なんて誰にもわからないし。

 てか俺の思考も脱線中!!

 「この美人とはどういう関係で?」

 「美人?」

 「沙田よくわかったな?! 美人だって!!」

 「この写真を見た男なら、誰でも美人と言うだろうよ」

 「へ~知ってたんだ」

 く、九久津なにを言ってる?

 勉強しすぎか?

 九久津はわけのわからない話をしてきた。

 「ど、どういうこと?」

 「美人は顔のパーツが黄金比で形成されてるからさ。反対にカワイイってのは抽象的表現で人それぞれの主観だからさ~」

 なんつーか、九久津らしく学術的に返された。

 黄金比か……。

 「そ、そういうことではなく。この娘とはどういう知り合いかって聞いてんだよ?」

 「前のバディ」

 「えっ?!」

 「美子ちゃんが転入してくる前の俺の相方」

 「あっ、そっか。寄白さんも転入してきたって言ってたっけ~。だからシシャ候補だったって」

 俺の想像よりも、いたってふつうの答えだった。

 「そう」

 「寄白さんはどこから転校してきたんだよ?」

 「国営の専門高校から」

 「……??」

 「美子ちゃんは能力者専門高校を飛び級で卒業して、うちに転入してきたんだ」

 「えっ、そうなの?」

 「てか沙田、こういう話をここで話すのはちょっとマズいから、チャットアプリに切り替えよう」

 「あっ、ああ、わかった」

 そっか、能力者やアヤカシについて、他人に聞かれたら困ることもあるよな。

 俺はさっそくスマホのアプリを起動させて、チャット画面に文字を打ちこんだ。




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