第51話 違和感

 

六角市は環境事業の一環として、街のあちこちにソーラーパネルを設置してる。

 俺は、国が支援しているという許可証の看板を、通学中のバスからよく目にしてた。

 ソーラーパネルは集合体となり郊外、町中問わず群れのように点在していて、長方形の幾何学模様はいまも太陽光を吸収しエネルギーを貯蓄しつづけてる。

 そんな光景を横目にして、俺はまた資料に目を通す。

 ん……なんだ?

 資料を読んでると直射日光のように強い刺激を感じた。

 あっ、またバスが外側線すれすれを走ってる。

 そっか、ソーラーパネルが原因か……。

 おうっ?! ま、また、バスがフラフラしてる~。

 もしかして運転手さんの目が眩んだのか、これは市に苦情を入れたほうがいいかもしれない。

 バスが光の反射で蛇行運転してたって。

 俺はバスの不安定走行に若干気をとられながらも、九久津の項目を数回、読み返した。

 そのあいだも何度か路側帯に近接する状態があった。

 なんとなく集中力も途切れたから、つづきは九久津家までのバスで読もうと決めた。

 スーツを着たオールバックの男の人は、車体の変化と連動するようにして、なおもメモをとってた。

 なにをそんな一生懸命にメモしてるのかわからないが、小刻みに動く手の走り書きは手帳の余白にまで及んでる。

 六角駅前の停留所で降りてから、九久津と落ち合うまで時間があったので、校長のスマホに電話をかける。

 ――プルルル プルルルと呼び出し音がなる。

 特別監査とかいう会議の最中だったらどうしようという、思いもあったが、さすがにマナーモードにしてるだろうと思って通話ボタンを押した。

 しばらく応答なかったら切ればイイよな。

 応答を待っているあいだ、俺は町行く人を自然に見てた。

 六角駅は市外にでるための主な交通手段だから、どんな曜日もどんな時間帯も人で賑わってる。

 遠く離れた場所からでも、一目で時刻を確認できるように、表入口には星形の大きなアナログ時計がかかってる。

 時を刻む星は、行き交う人をじっと見下ろしてるようだった。

 時計の目下にはパルテノン神殿のような円柱の柱が、それぞれ十三本ずつシンメトリーで並んでた。

 柱はさながらチェスのようで、白列と黒列が等間隔でタクシー乗り場の手前まで並列してる。

 オブジェの柱ひとつひとつには既成フォントでは表現できない緻密なロゴが彫刻されてた。

 イタリック体と筆記体を合せて崩したような形で、かろうじてアルファベットだと判別できるていどだ。

 俺は“J”というロゴの白い柱にもたれて応答を待った。

 背中にゴロゴロとした石材の硬さと凹凸おうとつを感じる。

 それが腰にもあたって、おさまってた痛みがすこしぶり返してきた。

 まあ、寄白さんにいいだけ遊ばれたからな……い、いや、治療してもらったからな。

 野球選手だって、デッドボールの時にはすぐにコールドスプレーだ。

 たぶんあの治療法は正しい……ということにしておこう。

 むしろツインテールの寄白さんに、エアーサロンパスを期待した俺のほうが間違いだったのかもしれない。

 いや、違うな、コールドスプレーはまだマシだと思わないと。

 殺虫剤あたりでも噴霧けられてみろ、下手したらジ・エンドだ。

 お~、おぞましい。

 でも、俺の背中に五芒星を書く意味はあったのか?

 未だに“プルルル プルルル”と呼び出し音は鳴りつづけてた。

 耳をスマホに集中させながら、ふたたび視線は時計に向けた。

 いまだから気づけるけど、あの時計も六芒星か……六角市の象徴と言われればそれまでだけど。

 もう、秒針が一周するしそろそろ切るか。

 『はい、もしもし。寄白です』

 スマホを切ろうとして本体を耳から遠ざけた途端、校長の声が聞こえてきた。

 俺の応答が少し遅れる。

 「あっ、校長先生。いま大丈夫ですか?」

 俺は慌てて言葉を返した。

 『あ~沙田くん? うん大丈夫よ』

 「あの資料のことでお聞きしたいんですけど?」

 『えっ、なに?』

 「九久津のことはやけに詳しく書かれてるんですけど、あれって本当に区分Cなんですか?」

 『あっ?! あ~あれね』

 校長は声の張りもよく電話越しからでも声高だった。

 会議は大丈夫なのか?

 『あれはAランク情報も混ぜておいたの~』

 「ええ~!!」

 俺はスマホ片手に大声をだした。

 周囲の人たちは俺を一度、見ると、ふたたび何食わぬ顔で駅構内へと吸い込まれてった。

 これからそれぞれの目的地へ向かってくんだろう。

 終着駅が楽しい場所なのかはわからないけど……。

 『だって【Aランク情報は組織の上層部のみが知りえる極秘情報】としか書いてないでしょ? だからそれを使用するのも情報を持つ者次第なのよ』

 「そ、そうなんですか。それであんなに詳細に書かれてたんですね?」

 俺は周囲を気にして声を潜めた。

 コップのストローがなにかのキッカケで回転するように、俺の体は条件反射で反転した。

 そして柱に額をつけるような角度で会話をつづける。

 『そうよ。Bランクなら口外無用だけどね。私はAランクとCランクの情報しか使ってないし』

 こ、校長、なんか法の抜け道的なことを言ってる。

 いいのか本当に? そんなキレ者刑事みたいな言い訳をして。

 「そ、そうですよね」

 『とりあえず、これからが本会議なの……というかじっさいは査問会さもんかいなんだけど……』

 突然、校長の言葉は弱まった。

 会話の最後は、話始めと比べると、夏と冬ほどの温度差が感じられた。

 「……?? 査問会ってなんですか?」

 『う~ん。はっきり言うと今回のシシャの反乱について事情を訊かれるの』

 「……やっぱり六角第四高校の解体工事についてですか?」

 『まあ、そこを中心に訊かれるでしょうね。もともとすべて私の責任だし。会議が終わったら、もっと詳しく話すわね……』

 「あっ、はい。失礼します」

 校長はいろいろと大変そうだ。

 切れた電話からも溜息が漏れてきそうだった。

 大人はいろんな責任を抱えて暮らしてるんだな~とくになにか肩書のある人は。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください