第50話 【機密区分C】 九久津毬緒

 

 揺れる車内で小さな文字を見つめすぎて、すこし目が疲れた。

 目頭を二、三度、押さえてから、乾燥した目を休めようと車窓から流れる景色を眺めた。

 うわっ?! こ、これ歩道に近すぎじゃねーか。

 いつの間にか俺は指紋と頬の跡がくっきり残るほど窓ガラスに密着してた。

 な、なんだ!!

 バスは外側線のギリギリを並走するように走行してる、対向車の運転手も目を見開き一瞥いちべつして通り過ぎていく。

 しばらくすると車体はまた道路中央に戻った。

 乗客のなかには窓際をのぞきこんでいる人もいれば、まったく気にしない人もいる。

 きれいになめされたツヤのある黒い革張りの手帳に、なにかを書きこんでいる人もいた。

 一見してもすぐに高級品だとわかる手帳にさらさらとペンを走らせてる。

 メモをとる、その人は見た目、三十代半ばほどで整髪料でオールバックにした面長の男の人だ。

 黒い細身スーツで胸元にはKKという文字の入った青いバッジをつけてる。

 眼つきはするどく眉間にしわをよせながら、なにかの評価をするように、さらにペンを走らせた、きっちり足を組んでるけど、身なりの良い雰囲気を感じた。

 俺は、また防護柵越しに運転手さんを見た。

 疲れてんのか? とも思ったし、こういう走りかたなのかもしれないとも思った、けど俺は、この時間帯のバスに乗って六角駅に行ったことはない、だから、ふだんどんな走りかたをしてるのかは、わからない。

 シシャ事件のつぎの日から今日まで、六角第一高校の授業は短縮授業になった。

 さすがに休校にはできなかったみたいで、緊急の校内点検という別の理由をつけてだけど、業者に扮した解析部隊が二日にわたって調査にきてた。

 校長の計らいで校内の安全を確保したんだと思う、いや、もしかしたら当局の命令かもしれない。

 当然、俺だって生徒のひとりだ、早めの下校で五時間目以降の予定も特になく、時間があったから、九久津の家に行くことになってた。

 いまは、九久津と待ち合わせするために、乗りなれないルートのバスに乗ってる。

 もしかして、この路線は昼以降は変則ルートで、ベテラン運転手でも混乱するのか?

 ってプロの運転手に限ってそんなことはないか、そんなことしてたら仕事にならないはずだ、ま~いまはきちんと車道を走ってるから良しとするか。

 俺はバスの安全運転を見届けてまた資料に目を通す。

 おっ!! つぎは九久津だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 【九久津毬緒】

 召喚能力と憑依能力を併せ持つ。

 思慮深く、冷静沈着な性格。

 九久津毬緒が六歳のときに兄、九久津堂流を亡くす。

 上級アヤカシ【バシリスク】から受けた傷が元で死亡。

 九久津家いえぐるみで死因を隠蔽いんぺい

 以来、九久津毬緒は、そのトラウマから健康に囚われはじめる。

 表向きは寄白家補佐役、九久津家の失態ということで病死に変更されたが、じつのところ死因改竄かいざんの意図は不明である。

 九久津毬緒は召喚・憑依能力者のなかでも天賦てんぷの才を持つ。

 召喚能力とはアヤカシを召喚する能力であり、誤解する者も多いが、召喚とはアヤカシの模擬体もぎたいを出現させる能力である。

 いわばコピーしてペーストするという行為に近い。

 反対にアヤカシ本体を召喚する場合はカットしてペーストする行為に近い。

 本体召喚は極めて危険で、契約方法や主従関係の在り方など代償は大きい。

 独占契約以外だと召喚拒否や叛逆行為はんぎゃくこういもありえる。

 とくに悪魔との契約は身を滅ぼすので禁忌きんきとされる。

 ただし本体を召喚するということは、そのアヤカシの百パーセントの力を使用することができる。

 憑依は自分の体に召喚した模擬体、またはアヤカシ本体を取り込むことである。

 憑依には以下がある。

 【全身憑依】=自分の体すべてを使用する。

 【部分憑依】=体の一部、例えば、腕、足など部分的に使用する。

 右腕に一体、左腕に一体、など複数憑依も可能。

 【遠隔憑依】=自分が召喚したアヤカシを近くにあるモノに憑依させることができる。

 召喚範囲は自己を中心に半径数メートルが一般的だが、キロ単位で召喚できる能力者も存在する。

 これにともないアヤカシには相対的な強さを示すために怪異レベルが設けられている。

 これは世界基準の数値である。

 怪異レベルはアヤカシそのモノの強さを数値化したもの。

 キャパレベルは自己の許容量を数値化したものである。

 一例をあげるとすれば、怪異レベル三十を憑依させるには、単純にキャパレベルが三十あればいいというわけではなく、能力者の体調、体質によって変化する。

 ある能力者によっては怪異レベル三十を憑依させるにも、キャパレベルが二十で充分な場合もあれば、五十を要することもある。

 すべては、能力者の相性や属性と経験値で決まる。

 またキャパレベルは、なにかしらの外的要因で増減することがある。

 つまり外付けのハードディスクを追加するようなものである。

 基本的にキャパレベルは最高値になるまで憑依させることができるが、空き容量の最上限まで使用した場合、肉体に過度の負担がかかり死に至ることもある。

 一割から二割ていどの領域を確保することが世界的に推奨されている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――九久津、やっぱりバシリスクを気にしてあんな生活を……。

 てか、御名隠し理論と同じで他者に能力を知られるのは、好ましくないって校長は言ってたのに、九久津のこと、ここまで詳しく書いていいのか?

 本当にCランク情報か? 九久津の項目はやけに内容が濃すぎる……。

――お~怪異レベルとキャパレベルってこういうことだったのか。

 




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください