第5話 ホームルーム

 朝のホームルーム。

 グレーのジャケットに茶色のゆったりとしたパンツ、ネクタイの代わりにチョーカーをしてる。

 首を気にしてるから、ネクタイの締めつけが嫌いなんだろう。

 それに眼鏡で小太りな中年男性。

 担任は落ち着いた雰囲気でベテランっぽいが、声がハイトーンというギャップがある。

 苗字は鈴木。

 鈴木先生はホームルーム開始と同時に俺の紹介を始めた。

 何年という教師人生のなかで、何度となく転入生の紹介をしてきたんだろうと思う。

 日課をこなすように俺の簡易的な経歴を告げながら、すでに一時間目、日本史の教科書を開いてる。

 「ということで、今日からこのクラスの生徒になる沙田雅くんだ。みんな仲良くな?」

 大人の男の声が裏返ったような高い声が教室を走った。

 そう言って、鈴木先生は、すこしずれた眼鏡をかけ直す。

 ほら、テンプレ通りの紹介だ、と言っても、それ以外に言うこともないけど。

 たとえば俺になにか突出した特技でもあれば別だが、これといってなにもない、いたってふつうだからな。

 教室に、元気のある返事と空返事の混ざった――は~い。が響いた。

 ……けど、ふつう、転校生って、初日は担任と一緒に教室に入って――はじめまして、なになに高校から転校してきた、なになにです。じゃないのか?

 俺は早朝から独りで勝手に教室に入ったぞ?!

 まあ、それだけ自由で風通しの良い校風ってことかもな~。

 寄白さんもピアスにカラコンだし……。

 「じゃあ。沙田くん」

 「はい。六角第三高校から転校してきた沙田雅です。よろしくお願いします」

 挨拶をして頭を上げたとき、すでに隣り合った生徒と生徒がヒソヒソ話をしていた。

 案の定クラスはシシャの話題で持ちきりだ。

 これが転校生の宿命。

 「沙田くんってシシャかな?」

 「どうだろう? シシャって普通の人間と見た目は変わらないらしいしね……?」

 「でも六角市の十五歳から十八歳のなかでひとりだけなんでしょ?」

 「じゃあ数千人にひとりの確率じゃん!!」

 「市内にどれだけ転入生がいると思ってんの?」

 「他の都道府県からくる生徒だってシシャ候補じゃん?!」

 「あっ、そっか。そいうことなら外国から転入してきた人もシシャ候補だ」

 「シシャの外国人がいるかもしれないってことか~?」

 「そうなるよね?」

 「寄白さんが転校してきたときも、一時はシシャの話題で盛り上がったよね?」

 「だよね。けど今はただの不思議ちゃんだもんね~?」

 「そうそう」

 寄白さんは、こんなにザワついた教室になんの興味も示さず、なぜか宙をキョロキョロと眺めてる。

 これまた浮遊霊的なのが泳いでんのか?

 ……とはいえ寄白さん本人も標的になったシシャ候補。

 こんな話題なんてどうでもいいのかもしれない。

 そんな寄白さんとは反対に九久津は静かに席に座ってた。

 早朝のような不審な様子はなく、机の上にはすでに教科書とノートと筆記用具が用意されてる。

 それどころか、すでに予習のように謎の数式と化学式を書き殴っていた。

 やがて筆記体で論文のような記述を綴り、ペン先はすらすらと罫線の上を走った。

 スゲーな九久津、できる男なのか。

 そうこうしていると寄白さんは夢遊病のように教室の後方を歩き、外を眺めたり壁に触れたりと自由に動きまわっていた。

 掃除道具入れをコンコンと叩いたかと思うと、アゴに手を当ててなにかを考え始めた。

 ちょこちょこ徘徊してるし、幼児か?!

 教室の突然変異のような寄白さんを誰も制止しない。

 俺は鈴木先生と横並びでいるから教室全体を見渡すことができた。

 これが日常なのか?

 この先が思いやられる。

 「さあ、授業を開始しま~す。沙田くん。席について」

 「はい」

 「――日本で一番最初に造られた巨大な前方後円墳ではないかと――弥生時代の有名な人物です――」

 ハイトーンの鈴木先生が日本史の教科書を掲げた。

 「霊的な力を要する。いわゆるシャーマンのような存在で――」

 さっそく一時間目、日本史の授業が始まった。




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