第46話 冷たい花園

知覚過敏ちかくかびんでして?」

 寄白さんはキョトンとした顔のまま、子供が大好きなお菓子を持つようにスプレー缶を握りしめてる。

 この状況を把握できずに首を傾げると、六つの十字架イヤリングが地震で揺れた電線のように周期的に上下した。

 俺が顔をピクピクひきつらせてると、いつも以上に幼児っぽい微笑みを返してくる。

 相変わらず、ぽわ~んとしてるな。

 この隙に窓の反射を利用し、み、未確認な繊維の色でも……と思ったが、む、無理だ、太ももが鉄壁のディフェンスを敷いてる。

 イタリア代表か?

 そもそもカーテンで仕切られてて反射を利用できねーし。

 「俺の腰が知覚過敏だとでも?」

 「ええ、そうでしてよ?」

 「昨日、腰を打ったんだから、ふつうは湿布的成分を配合したものを使用するでしょうよ?」

 「でも打撲は冷やさなくてはでしてよ?」

 「勝手にワンランク上の冷たさにしないでくれるかな?」

 「口答えでして?」

 寄白さんは頬を膨らませて、今度は俺の顔にコールドスプレーを吹きかけてきた。

 しかも、俺のまばたきタイミングを半テンポずらしてだ。

 「ぶはっ!!」

 それを二度も三度も繰り返すなんて、もはや戦闘に等しい噴射タイミングだ。

 とどめの一撃だといわんばかりに、鼻の奥にもいっぱつやられた。

 「きゃぁぁぁぁぁ!! なんだこのセンセーショナルな感覚!!」

 鼻と口の交差点が氷河期だ。

 寄白さんは、軽くおいかりになったらしい。

 噴出口が素早く移動して、今度はピンポイントで俺の眉を凍らせた。

 心なしか指に込める力が強まった気が……。

 これってはたから見れば、ヒマラヤ登頂を成功させてインタビューを受けてる人にしか見えないだろうな。

 てか、どんな理由があれば、あんな山に登ろうなんて思うのか。

 俺が身悶えても、なお、スプレーを吹きかけつづける寄白さん、それどころか俺の隙をみて背中を多目的スペースにして絵を書きだす始末だ。

 冷っ、った、いっ!!

 瞬間的に背中に薄氷がはった、ボタンを押す発射音とともに、背部の神経が室内との温度差を感じる。

 「ダメだ死ぬ~」

 「待ってらして、もうすこしで五芒星が完成しますわよ」

 「せ、背中を守護しなくても」

 俺が悶えれば悶えるほど寄白さんは、ボタンを強めに押した、まるでそういうテクニックがあるかのようだ。

 やはりドSなのか。

 まあ本来の性格を考えればそうだろうな、いまはツインテールで可愛い顔をしてるぶんポニーテールのツンツンよりタチが悪い。

 まるで悪徳商法だ。

 でも世間は人相が悪いやつよりも、ニヤついた悪人のほうが多い、と勝手に思ってる。

 「きちんと手当しないとダメですわ」

 「こ、これが手当になるのか。うはっ!!」




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