第42話 御名隠し(みなかくし)

 俺はやっと口がきけるようになった。

 「……あ、あれはなんだったんだ?」

 校長は頭をなでながら、その問いに答えてくれた。

 ちょっと照れるな。

 「キミの力よ」

 「……お、俺、あっ、僕の?!」

 「そうよ」

 「死んだ死者は、使いの使者の不純物が具現化したもの。でも沙田くんの場合は純正から純正を生みだし具現化させたもの。そのぶん溜まったおりを黒いエネルギーとして技とする」

 「そんなものを僕が……」

 「それを生みだせるタイプの人もいるのよ?! 一般的な名称だとドッペルゲンガーなんて呼ばれるわ。すなわちツヴァイ。沙田くんはさらに自分もうひとりを発現させた。それがドライ。自分を生みだすごとに、その力は二乗じじょうになっていく」

 「みんな、この力を待ってい……た……?」

 そ、そうだ俺は子供の頃に「俺自身」を見たことがあった。

 あれからだ、この特異体質が始まったのは、変な存在ものに会ったときに感じる悪寒とトリハダ。

 そうか《見えるはずのない“雨”を見た》のも《螺旋階段で俺のキメ角度を俺が見た》のも、すでに別の場所にⅡが現れてたんだ。

 あの悪寒やトリハダ、眩暈なんかもⅡを生みだすための儀式だったのかもしれない。

 「あの校長。それと頭のなかで本当の名前真名まなってのを聞いたんだけど。さだ」

 俺は突然、校長に口を塞がれた。

 それもだいぶ力強く。

 ううう、なんだ、なんで?

 「それを言ってはダメ!!」

 強い口調で遮られた。

 「えっ、ど、どうして?」

 口籠りながら聞き返した。

 校長はすぐに手をどけて理由を話してくれた。

 「むかしは名前の、漢字と字画を利用し呪術を施したのよ。そのために、本名つまり真名を持つ者はそれを隠すならわしができた」

 そ、そういうことか。

 「そして、それは上級アヤカシを狩る素質を持った者に多い。それを御名隠しと言う」

 「確か御名隠しって邪馬台国が発祥だったはず。転生するたび真名を引き継ぐと兄さんが言っていた」

 九久津は口元に手を当てて考えごとをはじめた。

 「まあ、実際は転生というより遺伝といったほうが分かりやすいかな? ルーツ継承ってこと」

 校長はそう、つけ足した。

 「へ~」

 邪馬台国って弥生時代、歴史の授業で習うよな……卑弥呼。

 卑弥呼イコール、妃御子……なのか。

 寄白さんの真名は妃御子、これもバラしたらマズいよな。

 ……って、寄白さんは卑弥呼の力を受け継ぐ者ってことか?

 「御名隠しは先天的でも後天的でも特異体質な者に多いと言ってた。オッドアイの美子ちゃんもそうなのかもしれない?」

 九久津は推測しているが、九久津の頭脳ならすぐに卑弥呼だとバレそうな気がする……。

 「美子のオッドアイが御名隠しに関係あるのかは私にはわからないわ……」

 まあ、とりあえず真実は俺のなかに隠しておこう。

 いつか必要になったとき寄白さんに真名を伝えればいい。

 九久津が気づかなければの話だが。

 




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