第39話 オッドアイの”妃”

 俺は驚きながらも弱った寄白さんを、ただ眺めるしかなかった。

 だが体がひとりでに動く。

 危険を承知で寄白さんと九久津のところへ駆け寄ってた。

 この行動に俺の意志がどれだけあるのかわからない? 誰かに動かされた感覚のほうが強い。

 「目の色が……う、薄れてく」

 俺が見た寄白さんはいつもの負けん気がなくて、か弱かった。

 あの、ぽわんとした頬にいくつかの傷がついてて痛々しい。

 強気な口調で“さだわらし”と呼ぶ、いつもの寄白さんがいない。

 「美子ちゃんの瞳に星が見えてただろ? あの五芒星は美子ちゃんの防御力の証みたいなものなんだよ」

 悲愴な表情で俺を見上げた九久津。

 一生懸命に寄白さんの首を支えて抱き抱えてる。

 唇から乾ききらない血がスーっと流れた、コメカミからも二本の赤い筋が見えた。

 「美子ちゃんしっかりして?!」

 九久津が呼びかけるが反応がない。

 「あの目にもそんな秘密があったのかよ?」

  カラコンじゃなかったのか……。

  生まれたときからの、あの瞳だったんだ。

  「ああ……そうだよ。……美子ちゃん?!」

  こんなに慌てる九久津を初めて見た。

  よっぽどヤバい、状態だってことだな?

  校長も呆然としてるし、どうすればいいんだよ。

 「もう、星がぜんぜん見えないぞ九久津?」

 寄白さんの瞳の星の輪郭がしぼむ花のように縮小した。

 「わかってるよ。そんなこと!!」

 九久津は寄白さんを抱えたまま真野を目で威嚇した。

 その行為になんの効果もないことは、九久津自身が一番理解してるだろう。

 ただ睨みつけたところでなんにもならないことを。

 九久津は自分の胸元に手を当ててなにかをする仕草を見せた。

 なんだ? なにをする気だ……なにか切り札でもあるのか?

 そのとき、寄白さんにまた異変がおこった。

 「九久津、今度は目の色が赤と青になってきたぞ?!」

  俺の言葉で九久津の手が止まった。

  俺いま、なんか変なこと言った……か?

 「えっ、どういうこと? オッドアイ? なんだこれ、繰さん美子ちゃんの瞳が……」

  えっ、九久津でも知らないことがあるんだ。

  むかしからの付き合いなんだから、なんでも知ってるのかと思った。

 「美子はオッドアイで生まれてきたのよ」

 校長は顔を上げて寄白さんのそばまでいくと、手を握った。

 その手を、いまの精一杯の力で握り返した寄白さん。

 てのひらが震えてる。

 全力で走った膝のように。

 「おい」

 騒然とする俺たちの会話に寄白さんの弱弱しい声が混ざった。

 「さだわらし……沙田……いったい、いつになったら本気だすんだよ?」

 「……えっ?」

 返す言葉もない。

 図星すぎて棘が刺さる。

 ダ、ダメだ、こんなときなのに、め、眩暈が……物が二重に見えてきた。

 この場から逃げたい理由づけか?

 俺がこれほどダメ人間だとは思わなかった、さすがに自分に幻滅する。

 奇跡を望めば奇跡が起こる、そんなことはないのか。

 「さだわらし真野やつを倒したらパンツくらい見せてやる……」

 消え入りそうな寄白さんの声。

 こんなときなのに……。

 「…………」

 この状況でなに言ってんだよ。

 でも、いつもの寄白さんだ。

 自分が二人いる感覚、体の力が抜ける、体からなにかが抜ける。

 な、なんだこれは?!




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください