第37話 決戦

六角第一高校 四階。

 真野絵音未は蜃気楼のような黒い影となってそこに居た。

 表面に凹凸おうとつはなくただ、頭部、胴体、手足と判別できるていどの輪郭で

浮遊している。

 人型から垂れ込める負の瘴気。

 波打ち際の水しぶきのように瘴気が爆ぜて飛散していく。

 地を這う蛇のごとくゆっくりゆっくりと標的へと忍びよった。

 応戦する寄白と九久津の二人。

 それぞれが互いを邪魔することなく臨戦態勢をとっていた。

 「シシャのブラックアウトなんて笑えないわね……?」

 寄白は右耳のイヤリング三つを失い、左耳の三つだけが残っていた。

 耳たぶには三つの薄赤い痕がある、まるで三つの墓碑のように。

 だが反対の三つの十字架は諦めを知らない勇者のように、黒く強い輝きを見せた。

 「つ、強い……」

 九久津は顔を引きらせた。

 『スベテコワス』

 真野はなんらかの理由で、いまは意思を持たないただの破壊者となっていた。

 体から溜め込んでいたマイナスの力が解放される。

 嵐のような轟音が轟くと、強力な風圧が、寄白と九久津を追いつめていった。

 瞬間最大風速などで表現するなら約六十メートルほどで、わかやりすい表現ならば木々が飛んで行くレベルだ。

 グォーン。言葉では表現しにくい咆哮。

 真夜中の森に響く獣のような雄叫が空気を裂く。

 景色が歪むほどの力で四階全体が振動した。

 空間全体が大きく膨張すると、やがて自然収縮する。

 「シシャの反乱。せっかく保たれていた調和が壊れたのか?」

 寄白は防御態勢を素早くほどき、両足に力を込めて壁を支点に三角飛びをした。

 靴底が的確に点をとらえる。

 いま、この瞬間、真野の頭上で滞空している。

 まるで、そこに透明な床があるように。

 「沙田がくれば……」

 九久津はそう口走りながらも、スーパーコンピュータのようにこの状況を分析した。

 頭のなかでいく通りの戦闘シュミレーションを繰り返す。

 そこで弾きだされた結果は、やはり沙田の力が必要不可欠だということだった。

 だがこの経験則が九久津の判断を鈍らせる。

 「さだわらしなんて当てにならん。私たちで倒す。寄白家と九久津家、真野家、その三家でちょうどいいじゃないか?!」

 寄白は真野の真上、耳から引きちぎるようにイヤリングを外した。

 {{グレア}}

 寄白の周囲を氷柱つららのような光が点在している。

 刹那、肉食動物が餌に襲い掛かるように、何百本という光の針が真野に狙いを定めた。

 息つく暇もないほどの速度で真野を貫いた、同時に寄白は着地する。

 ズサッ!! ズサッ!! 本当にそんな音がした。

 真野は無数の光の針に貫かれて串刺しになっている。

 単純に形用するなら縫い針の針刺しだ。

 だが真野はハリセンボンのように針を剥きだしたまま体に力を込めた。

 『キカヌ』

 真野のくぐもった声を合図に、光の針は自然排出された。

 高密度でビュンビュンと空を裂き針は飛び散った、床に刺さる寸前で融解する。

 「美子ちゃん。こいつ強すぎるよ?! グレアを使っても、あのていどのダメージだよ?!」

 「裏に生きる者は裏で決着をつけるんだよ?!」

 「そう言っても、いままで使者と死者が戦ったことなんてないんだよ?!」

 折れそうな心を奮い立たせ九久津は眉をひそめた。

 そして一計を案じる。

 「知ってるわ。そんなこと!!」

 「わかった従うよ。九久津家は寄白家の補佐役だ」

 {{ゴーレム}}

 九久津の体が制服もろとも硬化した。

 表面は水晶のようにツルツルとしていて、中身は岩石のように重々しい。

 体を動かすたびにギシギシと軋む音がして、まるで建てつけの悪い扉だ。

 防御力と引き換えに機敏性を捨てた九久津。

 一歩をさしだすたびにズシンズシンと四階に地響きがする。

 「よし行くぞ!!」

 寄白はもうひとつイヤリングを強く引き抜いた。

 {{ツインクル}}

 かがり火のように点々とした輝きが、真野の周囲を囲んだ。

 高速回転したコマの如く、真野の体を四方八方から抉っていく。

 黒い影の体内へと、光の粒が進入を試みる。

 真野の体はギュルギュルとカンナのように削りとられていく。

 そして一番、大きな光のコマが真野の中央部に体当たりすると、真野はそのままひしゃげた。

 『コロス』

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