第35話 守護(まも)るべきは内か外か?

「ここ数日、私が学校を不在にしていたのは、六角第四高校の工事現場につきっきりだったから……」

 うわずった声でうろたえている。

 なんか俺が加害者になったみたいに思えた。

 「こんな結果になるなんて。私がこの街の終わりを始めてしまった」

 「校長先生!! 落ち着いてください。どういうことなんですか?」

 校長は一度、鼻をすすってまたボールペンを手にすると、さきほどの白紙の余白に六角市の簡易図をさらさらと書いた。

 駅の案内図のように単純図形の並んだ、わかりやすい六角市の地図だ。

 そして街を囲む三角形をペン先でコンと突く、それは市外にある山脈の場所、そう守護山だ。

 「守護山。これも本当は六角市を守護する山ではなく六角市に溜まった瘴気を六芒星のなかに留める山なの。つまりは六角市の外側・・を護る山」

 「えっ?! じゃあ俺らは山に護られて育ったわけじゃなく、市民もろとも瘴気と一緒に封印されてきたってことですか?!」

 「そう。それがこの街の秘密、この街の運命さだめ……」

 「そんな……」

 三十万の市民はこの事実を知らない。

 いや知ってはいけない。

 これは要するに産業廃棄物を棄てる場所がないから一緒に埋めるという発想と同じだ。

 こんなことを考えた人間に、良心の呵責かしゃくはないのか?

 「なにもかも変えたかった。堂流を殺した風習も……」

 校長の話し声に涙声が混ざった。

 クリームを混ぜたようになめらかだった声がすこしかすれた。

 行き場のない後悔が灰汁あくとなってまぎれこんだみたいだ。

 「……堂流?」

 校長は混乱したように、いやすがるように見知らぬ誰かの名前を言った。

 校長はその人に救いを求めてるように思えた、そんなニュアンスの口調だったから。

 「九久津くん。九久津毬緒の兄よ……」

 「九久津の兄貴……?」

 こんな俺でも校長の泣き腫らした目を見てすぐにわかった。

 校長は九久津のアニキが好きだったんだ。

 ――堂流を殺した風習? 確か……九久津家は寄白家の補佐役。

 きっとアヤカシ退治とかで亡くなったんだ。

 モナリザの戦闘を想い返してみてもまさに命がけだった、アヤカシ退治で命を落とす人が居ても不思議じゃない。

 「九久津には、お兄さんがいたんですね?」

 「ええ。優秀な人だったでも私のミスで……」

 「いや校長のせいじゃないです。きっとなにがあったとしても……」

 一切事情の知らない俺の慰めが通じるのだろうか?

 いつ、どこで、どんなふうに久々津のアニキが亡くなったのかはわからない。

 他人が触れてはいけない深刻なできごとだったかもしれない。

 それでも俺には、その傷口に塩なんて塗れない、うわべだけの慰めだったとしても。

 「ううん。私のせいよ。毬緒くんがあんなふうになったのも……」

 「えっ、九久津?」




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