「はい。まずどうして僕が六角第一高校に転校することになったのかの理由を教えてください?」
「真野絵音未が六角第三高校に転校するため、アナタを遠ざけたのがひとつ、二つめの理由はアナタの力を借りたかった……」
「僕の力……?」
いったい俺にどんな力が隠れてるって言うんだ?
人に求められるようなスキルなんて持ってないけど。
「ええ、そうよ」
「僕になんの力があるんですか?」
「アナタにもアヤカシを倒す力が備わってるの」
「とんでもない、そんなのないですよ」
「いいえ、あるのよ」
校長は切羽詰まったように語尾を強めた。
「百歩譲って僕にそんな力があるなら、もっと早くに使ってますよ?!」
「その力を引きだすために、六形第一高校に転入してもらったし、あの四階にも案内したのよ。そういうアヤカシに近い環境に身を置くことでアナタの力は開花するの」
「そ、そんな無責任な?!」
俺もつい食ってかかってしまった。
あまりに自分勝手だと思ったから。
「だいたい寄白家と真野家が親しいなら、真野絵音未が六角第三高校に転校することも止められたんじゃないんですか?! もしくは俺の居ない他の高校に転校させる方法もあった。しかも、うちの家族ごと六角第四高校付近に移住させた意味もわからない」
「いいえ。シシャは六角市の第一高校から第六高校を定期的に巡回させないといけないの。遅かれ早かれ必ずどこかで出会ってしまう。そういう理由からも転校生はシシャ候補になりやすい」
「巡回……? なんのために?」
「待って順番に話すから聞いて。まず今回の異変は、すべて私のせいなの」
「どういうことですか?」
校長もなんか焦ってるな。
すこし言い過ぎたかも……なんか罪悪感が……。
心ここにあらずの校長は肩がしだいに震えだした。
いや、なんか俺のせいみたいに感じる。
「この街の六つの高校を結ぶと六角形になるのは聞いたわよね?」
校長はなんどか小さくうなずくと自分自身にも言い聞かせるように順序立てて話を始めた。
心のなかでいろいろ整理しているようにも見える。
「はい。それは聞きました」
「じゃあこれを見て」
校長は机の上にあった白紙のA四用紙をすべらせて、目の前に無造作に置いた。
電話の横にあるペン立てから迷わずにボールペンをとると、紙の上でカッカッと硬い音を立て、六つの点を打った。
その点ひとつひとつは“六角第一高校”“六角第二高校”“六角第三高校”“六角第四高校”“六角第五高校”“六角第六高校”の建っている場所を示している。と校長が言った。
点ごとに“一”“二”“三”“四”“五”“六”と学校名を省いた漢数字で強く書きこんだ。
筆跡の乱れと筆圧の強さが、事態の深刻さを表しているみたいだ。
校長は六角第一高校を中心にして六角第二高校へ目測で直線を引いた、つぎは六角第一高校から六角第三高校へと直線を引いた。
最後は六角第二高校から六角第三高校を結ぶ、すると正三角形が浮かび上がった。
……そういえば七不思議製作委員の演説で九久津が――六角第一高校から直線距離で三十キロ先に六角第二高校、同じく直線距離で三十キロ先に六角第三高校があります。って言ってたな? 全部同じ距離だ。
つづいて六角第四高校、六角第五高校、六角第六高校の三点を結ぶ。
そこには逆正三角形が現れた。
二つの三角形同士が重なると、今度は六芒星になった。
「この街は六芒星で囲まれてるの……」
「そのカラクリになにか問題があるんですか?」
仁科校長の言ってた六角形の他にも、星型にも結ぶことができるなんて。
そっか、六角形であるなら三点を結べば三角形になるのか、単純なことだ。