第32話 急用

 (この時間って今日の工事が終了する時間よね……? じゃあ……点が崩れた。もうすでにボーダーを超えてしまってた……の……?)

 繰は慌ててクリアブルーのペン立てを横へずらした。

 数本のボールペンはグラグラと回転して揺れている。

 デスクに備えつけられた固定電話の受話器を上げると、慣れた手つきで「内線の職員室」を押した。

 プッシュ音が一度鳴る。

 向こうの声が自分の耳に届くまで、異様に長く感じた、それは永遠とも思えるくらい。

 「あっ、もしもし。校内放送で二年B組の沙田雅くんを呼んでほしいの? そう校長室まで」

 繰は要件を伝えると気持ちを落ち着けるために、ファンデーションチューブを手の甲に乗せると、頬からなじませた。

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 『二年B組、沙田雅くん。校長室までお越し下さい。繰り返します――』

 俺が教室で考えごとをしていると校内放送が入った。

 ……なんだ?

 てか校長先生、今日は学校に居たんだ……。

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 六角第一高校に転校してきて校長室に入ったのは初めてだ。

 学生生活で校長室に呼ばれるなんてことはそうはない、小学生の頃から数えても数回あったかないかだ。

 校長室に入ると、一般的な校長室のイメージが完全に崩れた、もっと茶系色ちゃけいしょくに囲まれた古臭い部屋だと思ってのに、って、まあ寄白さんの姉が校長なんだからそんな部屋にはしないか。

 なんか女の人の部屋にひとりで訪ねてきたようでドキドキする。

 「失礼します。やっと会えました」

 「留守にしてて、ごめんね」

 「あっ、大丈夫です」

 「……沙田くん、いま話せることは全部話すわ」

 声のトーンで緊迫した様子がすぐにわかった。

 俺がここの雰囲気で緊張してる場合じゃない。




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