第29話 VSモナリザ

「九久津、塩の五芒星で囲め!!」

 寄白さんが颯爽と指示を飛ばした。

 差しだす腕の方向へ九久津は瞬時に駆ける。

 息の合った動きだ。

 「OK」

 九久津は制服の内ポケットから塩の入った小袋を取りだした。

 そっか、ここの生徒はお守りに塩を持ってるんだっけ?

 こういう場面にでくわすかも知れない最悪の事態まで考えてたのか。

 本当に生徒の安全のために塩を携帯させてたのかよ?

 あの塩化テロのことは水に流してやるか。

 「九久津は右から回り込め?!」

 「了解」

  九久津がバスケット選手のように体を反転させた。

  いつかの寄白さんのように、九久津の俊敏性も人間離れしてる気がする。

 「私は左!!」

 「さだわらし、オマエは適当に机を持ってきてそこに配置しろ?」

 えっ?!

 俺も指名された、戦力に数えられてるってことか。

 寄白さんは美術室を指さしてた。

 「えっ、あっ、わかった」

 机になんの意味があるんだ?

 完全に雑用係だな。

 俺は恐怖に慄きながらも行動に移す、てか恐怖心が薄れてる気がする。

 ここ四階は一、二、三階を模倣まねした造りで美術室、理科室、音楽室など学校の七不思議にまつわる教室がすべて備わってる。

 さらに映画セットのように、空っぽの教室も再現されてた。

 俺は部屋へ進入して、手ごろな机を探そうと室内を見回した。

 へ~本物の教室にそっくりだ、机なんてどれでも同じだよな……?

 「これでいいか」

 教室の後方にあった机一脚を両手で持った。

 なんの変哲もない、ごく普通の机だ。

 持ち上げた瞬間に意外と軽いことに気づく。

 そうなんだよな~机自体はそんなに重くないんだよ。

 なにに使用するのかわからないが机をハンドバッグのように腕に掛けた。

 そうすればもう一脚を片手で持つことができるから。

 なぜか多いに越したことはないと思い機転を利かせてみた。

 これが正しいのか間違っているのかはわからないけど……。

 両腕に机を抱えたまま廊下にでた俺は、寄白さんたちの戦闘を他人事のように眺めた。

 モナリザって絵だと上半身だけだけど下半身もあるのか……って当たり前か?

 だが裸足とは新たな発見だ?!

 あ~、モナリザのモデルが生きてた時代には、まだ靴下なんて存在してないか、歴史的大発見!!

 靴くらいはあっただろうが、どのみち裸足だ。

 九久津は点々と塩をまき囲い漁のようにモナリザをある地点へと追い詰めた。

 寄白さんと九久津は阿吽の呼吸だった。

 モナリザは二人の連係プレーでの悪いボクサーように廊下の端へ追い詰められてた。

 俺は、そのとき美術室前に机一脚を立てて置いて、もう一脚を寝かせて置いた。

 ガチャガチャと金属同士の擦れあう音がした。

 用途不明だけど、こんなもんでいいだろう。

 オブジェでも設置するかのように、俺なりの考えで机の向きを微調整してるとモナリザが迫ってくるのがわかった。

 「うわぁぁ!!」

 な、なんで?!

 寄白さんと九久津に追い詰められてたんじゃないのか?

 廊下の隅に目をやると九久津は、塩の五芒星を作ってなかった。

 一点だけ盛り塩をし損ねてる。

 く、九久津ダメじゃん?!

 なにしてんだよ。

 わずかに開かれた隙間を縫ってモナリザはこっちに向かってきた。

 俺はそれに気づき反射的に後ずさった、机の脚に踵がコツンと当たった。

 ヤバ!! なんかヤバイ……感じ……がする。

 後方を確認して脇目も振らずにダッシュする。

 真後ろからものすごい勢いでモナリザが近づいてきた。

 あっ、ダメだ。

 追いつかれると思い、俺はとっさに振り返って両手をクロスし、無意識に防御態勢をとった。

 そのとき俺の眼前で――ボキッっと金属と骨のぶつかる鈍い音がした。

 「いったぁぁぁ!! 小指がぁぁぁ!!」

 机の脚に小指を打ちつけて悶絶するモナリザ。

 足を押さえてうずくまり、顔面を紅潮させてた。

 息をフ~フ~吐き頬を、膨らませて痛みに耐えてる。

 「足の小指の防具があれば机の角にぶつけても平気なのにな?!」

 寄白さん、そ、そんな挑発……ん? あああ?! 小指の防具ってあのときの意味不明な言葉。

 もしかしていつも無意識に戦闘をシュミレーションしてるとか、そんなものを背負って毎日過ごしてるの……か……?

 モナリザは欠けた塩の五芒星すり抜けてトップスピードのまま机に小指をぶつけてた。

 「作戦、成功!!」

 九久津は冷静にそう言った。

 そして手に持ってた塩を、とりくみ前の力士のように振り撒いた。

 モナリザの体に塩がパラパラと降り注ぐと、体の周囲で静電気のようにパチパチと小さく火花が散った、少なからずダメージを与えたようだ。

 塩も案外、有効なんだな。

 ワナワナと体を震わせ始めたモナリザ。

 九久津は最初からこれを狙って……あっ――机を持って来い。って言ったのは寄白さんだ、二人は瞬時に判断してこの作戦を考えたのか。

 「もう、終わりだ」

 見るからに百戦錬磨の寄白さんは耳に手をかけて十字架のイヤリングを掴んだ。

 まるで死刑台へのカウントダウンのように一歩また一歩とモナリザに近づく。

 スゲー!!

 だが寄白さんが、最後の一歩を踏みだそうとしたときだった。

 「美子ちゃん。ブラックアウトだ!!」

 九久津が鬼気迫る表情で叫んだ。

 「なにっ?!」




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