第28話 【七不思議その五 飛び出すモナリザ】

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 夕方 六角第一高校四階 廊下。

 「真野さん。えっと、真野絵音未に会ったよ。自分がシシャだって言ってたけど……」

 俺はまた寄白さんに――知らなくてよ。とはぐらかされると思いながらもそう訊ねた。

 まあ、今の寄白さんはポニーテールだから口調は違うけど。

 「そうよ。アンタの転校初日に教えてあげたでしょ?」

 ええー?! 今日だけそんなにあっけなく認めるかな~この我がままっ娘め!!

 やっぱり口調も荒いし。

 「そ、そうだけど、あの娘は何者なの?」

 俺はこの流れで聞きそびれてた質問をしてみた。

 まあ、きちんと質問に答えてくれるとも思ってないけど。

 「……真野家は寄白家にずっと仕えてきた有史からの家臣。そして代々のシシャを真野家がかくまってきた……」

 そ、即答かよ!! しかも、スゲー重大な話だぞ。

 新たな事実が判明した……六角市に確かにシシャは存在した。

 街の不文律、言い伝えは本当だった。

 「そして俺の家、九久津家は寄白家の補佐役を務めてきた。そうやってこの地域の平和を守ってきた。だから寄白家⇔九久津家⇔真野家は三竦さんすくみの関係と言えばいいのかも。ただ本当は三竦ではなく四角関係だったとか。最後の一族は忽然こつぜんと歴史から消えたらしい……」

 九久津は六角市の歴史を踏まえて説明してくれた。

 九久津もシシャの正体を知ってたのか、って当然か。

 俺はこの街で生まれ育ったのに、この街のことをほとんど知らなかった。

 いや、寄白さんや九久津たちしか、そんな秘密は知らないだろう。

 また、すこしずつ謎が解けてく。

 「そんなことがあったのか……」

 音楽室から暗いマイナー調のクラシック音楽が流れてきた。

 まるで低音だけで作曲したような重苦しい音だ。

 やがて鍵盤を無差別に弾くような不協和音に変わった。

 ダンダン、ダンダン。と八つ当たりしているような連弾。

 これが七不思議のひとつ《誰も居ない音楽室で鳴るピアノ》か……。

 ピアノの左側の音階だけを行ったり来たりするような音が響く。

 「今日はやけに闇が深いな」

 ポニーテール姿の寄白さんは辺りを警戒しながら、後方に手を差しだし俺の行く手を制御した。

 この手より前は危険ということだろうな。

 もう、この雰囲気で理解できる。

 ヤバイことが待ってるに違いない。

 「さだわらし!! まだ、動くなよ!!」

 うわ~相変わらずアタリがキツい。

 俺は、さだただし、だっつーの!!

 「は、はい」

 なんか、こんな展開にも慣れてきた、俺の適応力もなかなかなもんだ。

 ご先祖様も退魔的なことをやってた、という話を聞いたことがある……ような……。

 戦ったのはガシャドクロだっけ?

 その血を受け継ぐなら俺が順応するのも早いかも。

 もの凄い爆発音が廊下に炸裂した。

 耳をつんざくと同時に四階全体が揺れた、地震で例えるなら震度三くらいか。

 足元の衝撃と振動が膝まで伝わってきた。

 美術室のドアが蹴破ったように飛んでくると、石膏の壁にぶつかった。

 壁に大きな穴を開けたドアは、廊下でバウンドすると右角を欠いたあとに真っ二つに割れた。

 不気味なBGMは、なおも鳴りつづける、しだいにテンポが速まると絵画で見たモナリザが颯爽と美術室から飛びだしてきた。

 お~美術の教科書で見たのと同じだ!! 上半身だけだけど。

 けど実物は……思ってたより大きいな。

 そう言えば、モナリザのモデルって男説おとこせつもあるんだっけ?

 いまから何百年も前だと性別不明なのは多いかもな。

 モナリザは鎖の解かれた犬のように一目散に寄白さんに駆け寄ってきた。

 寄白さんは、そのままモナリザの頭を撫でてる、あなたはモナリザの飼い主ですか?

 「色々あったね~辛かった辛かった。さあ私に全部話してごらん?」

 うわ~テンプレ共感してる、これテレビでよく見るな、泣き落とし的なやつ。

 それで隙を見て退治するのか?

 一度はウンウンとうなずき、心を開きかけていたモナリザだったが、寄白さんの脇をスルリとすり抜けた。

 上半身だけで宙を浮遊するモナリザは、甲高い笑い声を上げ廊下を彷徨さまよっている。

 美術室の前に留まり、洗濯層の渦のように高速回転を始めた。

 小さな竜巻のように見える。

 うわ~よく、目が回らねーな?

 しだいに渦が立体化していく、二次元から三次元へと写実的に補正されたモナリザが現れた。

 「うわぁぁぁぁ!! な、な、なんだ!!」

 おもわず、叫び声を上げてしまった。

 こ、こんな状況そう簡単に慣れるもんじゃない……な……?




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