第221話 シリアルキラー気質

 「繰さん。すくなくとも蛇の最終目的は金銭的なものじゃないと思います。いまは集金目的で暗躍してるとしても、最終目標はもっと別のなにか……」

 おお、俺も同じ意見だよ九久津。

 「私も九久津くんの意見に同意するわ。金銭目的にしてはあまりに不自然。表立って金銭が動いてる形跡もない。ヤヌが言ってたんだけど、人が罪を犯す動機は大きくわけて四つ。それは怨恨、異性間トラブル、金銭目的、快楽なんだって」

 「……快楽なんじゃ」

 社さんが、そうもらす。

 その四つのなかで考えるとそうなるかも……。

 

 怨恨って言っても、いままで蛇がやってきたことを考えるとターゲットが曖昧すぎる。

 さっき俺が思ったように、すべての人間への怨恨ならわかるけど……。

 大勢の人間を一度に巻き込むにしては、規模が小さすぎる。

 バシリスクを操れるなら、それで町を襲えばいい……って今回それをやろうとして九久津が止めたとも言えるか。

 ただ最初からほかの都市じゃなく六角市を攻めてきてる時点で、なにかの狙いがある。

 

 ここでまた最初の疑問に戻るけど、怨みをはらす相手が曖昧すぎて絶対に狙いたい相手がいるとも思えない……。

 異性間トラブルってのは恋愛だよな、って、これは俺にはわからん。

 真野絵音未、人体模型、バシリスク、藁人形、モナリザ、ぬらりひょん、いままで蛇に利用されたり犠牲になった者から考えてみてもそれはないな、どういう感情だ?ってなるし。

 蛇との恋愛で真野絵音未をブラックアウトさせたなら、真野絵音未のモトカレが蛇……?

 そうなると蛇は三校にいる可能性が高い。

 恋愛のもつれとかって、そういうことだけど……単純すぎるか?

 

 そもそもモトカレって、蛇は最短でも十年前から暗躍してるんだぞ、年齢が合わない、やっぱり異性間トラブルってのはない。

 共通点と言えばすべてアヤカシ関係ってくらいだ……。

 金銭目的も、もっと違うやりかたがあるだろうし、こんかいの犠牲者から金が奪われたって話も聞いたことはない。

 九久津と校長が否定したように俺もそう思う。

 

 そうなると消去法だけど、快楽目的ってのは納得できる。

 快楽目的なら、いままでのすべての犠牲者に当てはめることもできる。

 

 ターゲットになる者の条件や規則性なんてどうでもいい、無作為で選んでただ楽しむだけだから。

 

 「えっ?」

 社さんの言葉に驚く校長、予想だにしてなかったって顔だ。

 

 「シリアルキラーだってその手が多いじゃないですか? 凶行に手を染める最初のキッカケは己の境遇だったとしても、気づけばその行為自体をたのしみはじめる」

 「雛。じゃあ、蛇の目的はただの快楽? 愉しんで人を傷つけてる?」

 「はい。そうです。ただ二匹のうちのどちらか一匹の目的ですけど」

 「……ヤケに詳しいのね?」

 「そいう者の心理を知るために、さまざまな参考書籍を読んできましたから。ぬらりひょんの脳を切り刻んでる点もまさに・・・って感じです」

 「雛はリッパロロジストアルからな」

 おっ、エネミー良いこと言った。

 リッパロロジストは切り裂きジャック研究科だ。

 そう誰もが知ってるあの有名なシリアルキラー。

 社さんはバスのなかでも切り裂きジャックの本を読んでた、きっと俺らの誰よりも切り裂きジャックに詳しいだろう。

 

 「雛。確かにそうね。ぬらりひょんの件はアヤカシ相手だとしても猟奇的だ」

 「ですよね。蛇にもシリアルキラーに通じる狂気、それでいて冷静沈着な思考、IQの高さが感じられる」

 社さんはそう言ってから、いったん話を区切った。

 「みんな勘違いしないでね。私はリッパロロジストじゃなく、そういう経緯に至った人物像を知りたかっただけだから。ほかにもゾディアック事件をはじめ有名な事件は調べてきた。だから切り裂きジャック限定ってわけじゃないのよ」

 「雛。そうだったアルか?」

 「うん。そうよ。ここ最近は初心に戻ってまた切り裂きジャックのことを調べてただけだから。だからエネミーが私のことをリッパロロジストって思っても不思議じゃないんだけど」

 「そうアルな。うち生まれて一週間アルし」

 そう、エネミーって実際の人間ならまだ乳児なんだよ。

 それにしてもシリアルキラーってシリアルキラーのデスマスクと関係あるのか?

 俺みたいに、ただシリアルキラーって単語で連想しただけなのか、それとも社さん蛇が誰か気づいてるとか?

 そもそも鶏がさきか卵がさきかじゃないけど、社さんはシリアルキラーのことを知りたくて、シリアルキラーのデスマスクに興味を持ったのか?

 それともシリアルキラーのデスマスクの存在を知ってシリアルキラーに興味を持ったのか……どっちだ?

 社さん、今日は、にだけど表情が曇るんだよな、九久津がいる緊張とも違うんだよな。

 まあ、俺とそんなに一緒にいたわけじゃないけど。

 まさか身近の誰かに蛇の心当たりが?

 いやでもこれは訊けない。

 さすがに山田なんてオチはないだろうけど。

 結局、あのあと山田は、寄白さんへの接近も接触もしてこなかったな、それが逆に不気味に感じなくもないけど……嵐の前の静けさみたいな。

 「雛がいままで勉強してきてだした答えなら、私はそれを支持するわ」

 校長って本当に良い先生だと思う、たとえそれが年下の意見でも正しいと思ったら、ぜんぶ受け入れてくれるから。

 「ただ二匹となると、二つの理由があってもいい。金と愉快という動機」

 ここぞばかりに九久津が話の筋をまとめてきた。

 なるほど、二匹いるならふたつの行動動機があるわけだ。

 「そうね……。二匹がバラバラなら、それぞれに目的があってもおかしくない」

 校長が返した言葉に、みんなも無言でうなずく。

 二匹なら、金銭目的と愉快犯か。

 寄白さんは、藁を封印した十字架のイヤリングをチラチラと気にかけてた。

 寄白さんは寄白さんでなにか思うことがありそうだ。

 

 「でも、まずはできることからはじめましょう。ここは基本に戻って情報収集から」

 校長はなにかのスポーツで気合を入れるときのように――パン。と両手を叩いた。

 美術室に乾いた音が抜ける、途端にいままでの雰囲気が和いだ。

 これで、この話が終わったとみんな理解する。

 と同時に、誰ともなく廊下へ向けて歩きはじめた。

 

 蛇の蜷局とぐろは世界だけじゃなく、本当に歴史をも巻き込もうとしてるのか。

 並走世界を入れたX(並走)軸とY(時間)軸まで。

 三転軸のなかの二転軸はもうすでに蛇の術中?

 蛇の尾は創世のときにも、もうすでに絡みはじめてたのかもしれない。

 なんとなく昨日見た、創世のサイトを思いだす。

 ああ、これって俺のなかのヤツの考えと混ざってるわ。

 俺らの傍を気味悪いほどになにかが這いずり回ってる気がする……点々となにが間合いをつめてきてるような。

 ロンギヌスの槍……あれがあればあるいは……。

 廊下にでると、張り詰めてた空気がさらに一段と和らいだ気がする。