小説家になろう

第219話 双頭の蛇

「とりあえず、蛇は二匹いるってことを共通認識としましょう。いいかしら?」

 「いいですよ。さっきまでの話の流れから考えると、そう思えますし」

 みんなも俺に同調してうなずいた。

 ……にしても、蛇が二匹か、それはそれで複雑だよな。

 滅怪については理解できた、星間エーテルについての話はこれ以上話しても進展なさそうってことで話題が自然消滅した。

 エネミーは蛇が二匹ときいてビビってるし、でも、それはしょうがない。

 前の死者が蛇によってブラックアウトさせられたかもしれない・・・・・・という前例があるから。

 いま九久津がエネミーを丁寧に落ち着かせてる。

 九久津が召喚する護衛のアヤカシは、エネミーにとってずいぶん心強いらしい、なぜなら、さっきの戦いで九久津に絶大な信頼を寄せてるからだ。

 召喚したアヤカシの数が多いからかもしれない、子供の視点から見て、仲間は多いに越したことはない。

 これはアニメ好きなエネミーに絶対当てはまる、仲間たちとの絆に憧れるのは俺でも理解できるし。

 九久津はエネミーにとってアニメ主人公ヒーロー的存在なんだろう。

 おっ、どうやら話はまとまったようだ。

 なぜか九久津とエネミーがハイタッチしてる、って、こんなときに気になってしまうのは社さんのことだけど……うん、まあ、平常だね。

 エネミーに嫉妬するわけないか。

 「でも、二匹となると大変ですね。誰がやったのかわからないですけど、ぬらりひょんでさえ、あんなふうにされてしまうんだから」

 社さんのその言葉はとても大きな意味を持つ。

 アヤカシの総大将とも呼ばれるボスでさえ、切り刻まれて利用されてしまう……そしてそれをできる者がすくなくとも、二人いるかもしれないってことだから。

 「雛ちゃんの言うとおり」

 そう言った九久津はいまのいままでエネミーに見せてた柔和な表情とは真逆になった。

 当然、九久津も蛇を警戒する。

 「蛇ならバシリスクを操るなんて造作もないことだろうな。バシリスクが蛇の王なんて異名は笑えるよ」

 九久津がそう皮肉めいたときだった、相変わらず深くは理解してないエネミーが一度首を傾げてから、我が物顔でニカっと微笑んだ。

 そ、その顔、九久津の言葉のなにに反応した?

 「アニメでも魔王の上には大魔王がいるアルよ!!」

 おう?! エネミーのアニメ脳炸裂、そしてドヤ顔。

 独壇場だ、水を得た魚だ。

 と思ってると、九久津は目から鱗とばかりに驚いた顔をしてる。

 九久津も、そ、そこまで驚くことか?

 そういえば、寄白さん、さっきから静かだな、いや、四階にきたときからか。

 俺に対する当たりの数がすくない。

 校長も、アニメはわからないって感じで口数がすくなくなった。

 「エネミーちゃんそれだ!!」

 な、なにがそこまで九久津の心をとらえた?

 九久津はそれを人生のなかで初めて知ったといわんばかりだ。

 あっ、この緊張した状況で忘れてたけど、九久津ってアニメも観ないしゲームもしないんだった。

 となるとエネミーの発想はコロンブスの卵的なことだったのか。

 「バシリスクが蛇の王なら蛇はさしずめ”蛇の大王”ってことかー」

 しかし九久津くん、そこまで喜ぶかね。

 ただ九久津のことだ、そこからまた新しい発想が浮かぶのかもしれない。

 意外と、九久津とエネミーの相性もいい、てか、エネミーのあの感じなら誰とでも合うと思う。

 さすがは末っ子。

 「そうアル。蛇の大王はメガネ蛇アルよ」

 お、おい、エネミーそれはどうでもいいんだよ、それを言うと九久津は、って、おお、ああーあ、やっぱり混乱してる。

 九久津の表情が忙しいことになってる。

 「九久津。そのメガネ蛇ってのはアニメのキャラだ。気にするな」

 いや、じっさいそんなキャラはいないんだけど、ここでその話をすると、さらにややこしくなるからアニメ用ってことにしておく。

 エネミー先生・・のアニメ理論だと、怪しいやつのメガネはレンズがベタ塗りになって、そのあとに口元がニヤってなって、最後にレンズがキラリするらしいからな、まあ、そういうアニメの演出なんだけど。

 昨日も言ったけど、ラスボス全員がメガネをかけてるわけじゃないんだよ。

 ついでにマラソンを一緒に走っても無駄だ。

 「えっ、ああ、そうなの? 沙田?」

 「そう」

 エネミーは自分の両手でメガネを作って俺らを眺めてる。

 おい、おまえが九久津を混乱させたんだよ。

 この自由っ娘。

 理論的なやつは、アニメ脳の支離滅裂発言に弱いってことが証明された。

 なんたってメガネ蛇に隠れた意味なんてない。

 話の流れでそんなパワーワード(?)が生まれただけだ。

 まあ、これはこれで九久津の弱点ってことになる、パーフェクトな人間は存在しないんだな。

 「あっ、あ、あのさ、お、俺は教育委員長がぬらりひょんだと思ってたんだけどな~」

 ここで話の流れでも変えとくか~、エネミーがさらディープなアニメの話をしたらマズい。

 でも、じっさい教育委員長に会ったときに、ぬらりひょんだと思ったのは事実だし。

 これは断じて嘘じゃない、が、あのときすでに邪気のようなものは感じなかったから、アヤカシが化けてるわけじゃないことに気づいてた。

 なんだかんだ悪人じゃないことも、むしろ俺らを助けてくれるような人物だと思う、なんつーか、ザ・教育者のような。

 「ないない」

 みんな口を揃えて否定した。

 お、俺の考えが木っ端微塵に散った、いや、わかってたよ。

 でも、ここまではっきり否定されると、逆に清々しい。

 エネミーは下目づかいで俺を見てるし、今回は一段と大きく目を見開いてくるね~、おおー小バカにされてる。

 でも、おまえはそれでいいよ、みんなの妹ポジションで。

 まだ、ガン見してくるか。

 カラオケの貼り紙を見たときと同じ顔つき、おお、子憎たらしい。

 まあなにはともあれ、これで俺の教育委員長ぬらりひょん説は完全に否定されたってことだけど。

 そもそも、ぬらりひょんの脳があんなことになってるのに教育委員長が存在してる時点でぬらりひょんイコール教育委員長ではないってことだ。

 となると、教育委員長はふつうのおじいちゃんってことになるのか?

 なんかスゲー能力者じゃねーの?

 「蛇は世界の歴史にさえ巻きついてるかもな? どうしても、ここ十年のうちに動き始めたなんて思えない」

 九久津が考えてたのはそれか。

 俺がエネミーと亜種にらめっこをしてるうちにそんなことを思ってたのか。

 たしかに【Viper Cage ー蛇の檻ー】のなかの項目の三。

 【3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない】から考えると十年前には、えっと、十年前?

 それって昨日の診察でも只野先生が。

  ――おそらくは十年くらい前から……心当たりはないかな?

 って。

 いや、思い過ごしか、十年前くらい・・・前だもんな。

 でもなんとなく、その十年前にいろんなことが集約されてる気がする。