第218話 退治レベル

「繰さん。スマホには、ぬらりひょんの脳だとしか書かれてなかったんですけど、具体的な重さはわからないんですよね?」

 「えっ、えっと、そうね。その辺りの数値的な情報はなかったわ。でも解析部なら微細証拠からでも脳の正確な容量を計測できるはずよ」

 「そうですか」

 九久津は残念そうにして―― 脳の容量は体重の2%……。

 と言いながら空計算からけいさんをはじめた。

 「詳細データ取り寄せてみる?」

 「いいえ。ないなら大丈夫です。頭のなかで計算できますから。そんなにズレないと思いますので……」

 「そう。まあ、九久津くんならそれでなんとかなりそうね」

 「はい」

 恐ろしく早く計算が終わった。

 「皮膚片立体化法なんかを応用すれば可能か。でも滅怪めっかいじゃなくてよかった……」

 言葉の最後は、まったく別の話題だった。

 九久津が口にした謎の技術は、きっとY-LABによるものだろう。

 それに滅怪? 初耳だなその言葉も。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言葉もあるから、いまのうちに訊いておいたほうがいいよな。

 

 「九久津、滅怪って?」

 

 「あっ、そっか沙田くんは退治レベル知らないんだっけ?」

 九久津の代わりに校長が反応した。

 校長は――あれ、それ教えてなかったけ? みたいな顔で俺を見てるし。

 でも前にもらった資料のなかにはなかった。

 

 「退治レベルですか?」

 退治にも段階があるってことか。

 アヤカシが消えれば、ぜんぶ退治だと思ってたわ~違うのか。

 「そうよ。アヤカシの退治にはね除怪じょかい抗怪こうかい殺怪さっかい滅怪めっかいの四段階の退治レベルがあるの」

 「はじめて聞きました」

 「ならここで覚えてね。除怪は塩や聖水、お札などでアヤカシを追い払うことを言うの。抗怪はアヤカシに物理的ダメージを与えること、まあ意図せずに除怪が抗怪になることもあるけどね」

 あっ、そっか最初のモナリザとの戦いで、九久津はモナリザを追いつめたけど、

あえて五芒星を完成させずに一点を開放してた。

 あれって塩に触れるとダメージを受けるから、モナリザは真っ先に出口に向かってったんだ。

 俺たちはそこを逆手にとって出口付近に机を置いて罠をしかけた、モナリザはそれにまんまとはまった。

 まるで追い込み漁みたいだ、あのときも計算ずくの戦闘だったな。

 塩はアヤカシを追い払うには理に適ったお守りなんだ、ちょっと見くびってたわ。

 しかも一校の生徒は社さんの実家の六角神社の塩を使ってるし、市販の塩よりも効き目ありそう。

 「殺怪はアヤカシの生き死にでいうところの”死”に相当するわ。滅怪もアヤカシが消滅するからこれも”死”に相当する。でもね殺怪と滅怪の決定的な違いがある」

 「決定的な違いですか?」

 「ええ、そう。それは退治後にアヤカシの痕跡が残っているか残っていないか。殺怪の場合、解析部が入ればどんなアヤカシだったのか情報を得ることができる、それこそ各アヤカシの負力構成比なんかを知ることができる」

 負力の構成要素はアヤカシの中身のことで、同じ種類のアヤカシであっても、同一固体は一体も存在しないんだよな。

 人間もそれぞれ血液型やDNAが違うように、アヤカシだってそれぞれ違う。

 「滅怪の場合は痕跡がなにひとつ残らないから、解析部が入っても情報を得ることができない。ってことね」

 「へー、アヤカシが居たのに痕跡が残らないとは……」

 「でね、その滅怪領域でアヤカシを退治できる能力者っていうのが、これがまたレア中のレアでね。能力者自体が人間のなかでもレアなのによ。なにより滅怪は痕跡を残さないから自己申告でしかないし、私が知ってる能力者のなかでも滅怪を使える人はいないかな」

 校長の知り合いにもいないのか。

 けど、そこまで自信満々に言わなくても、意外な人物が滅怪領域で退治できます、みたいなこともあるんじゃ。

 「繰さんが言ったことがすべてだ。当然、俺も滅怪を使える能力者は知らない」

 九久津も補足することはなにもないって口振りだった。

 なるほどな、それにしてもそんな能力者がいるとは、能力者のなかでも上級の能力者って感じだな。

 救偉人のなかにはいるんじゃないか?

 あとはミッシングリンカーって能力者のなか?

 あれっ……でも?

 近すぎてわからないってのもよくあるよな。

 「九久津。このなかにも滅怪めっかいで退治できる人いないの?」

 「……」

 

 みんなそれぞれに何秒かの間があった。

 これは誰も考えもしなかったって感じか?

 それぞれ顔を見合ってるし。

 まあ、エネミーに関してはないな、劣等能力者って言ってるくらいだし、なにより生まれたてだ。

 ここにいる俺とエネミー以外の能力者は、寄白さん、社さん、九久津、校長。

 う~ん、さすがにこのなかで滅怪でアヤカシを退治できる能力者は隠れてなさそうだ。

 みんな長い付き合いの顔なじみなんだし。

 滅怪領域で退治できるなら、ずっと前に話してるだろう。

 誰がなにかを言ったわけでもないのに、みんなの答えがでたような気がした。

 この場の雰囲気だけで俺が感じたことだけど。

 ”いない”って結果だと思う。

 「その可能性もあるかもしれなけど」

 

 九久津は語尾を溜める。

 「いないだろう」

 と結んだ。

 「わかってるよ。みんなのやりとり見てて。だろうなって思った」

 九久津はまたなにかを考えはじめた。

 まあ、俺が考えないようなことを考えてるんだろうけど。

 「九久津どうした?」

 「いや、いままで考えたことはなかったけど。人のイメージと負力で誕生するのがアヤカシ。それとはまったく別種のアヤカシである、ぬらりひょんからでも星間エーテルは抜けでるかと思って。単純にぬらりひょんを滅怪で退治した場合、星間エーテルも無に還るのか。そもそも、ぬらりひょんにそんな機能があるのかないのか。……というより俺と同じことを考えた研究者がいるのかいないのか」

 「えっ?」

 九久津たちのあいだでも、ふつうの情報なのか星間エーテルの話って。

 校長も寄白さんも社さんも、どこか尊敬するように九久津を見てる。

 それもそうか、九久津の唯一無二の考えかただ。

 Y-LABでプレゼンしたら、なんかの新発見に繋がったりして。

 エネミーはと言うと、辺りの空気を読んだのかどうかわからないけど目を泳がせてる。

 子供のもう、お家帰りたいモードだ。

 でも、リアルに考えると生後一週間にも満たない子供だよな。

 死者じゃなきゃ、いまごろベビーベッドで寝てるはず。

 本当なら、まだ話すことも食べることも歩くこともできない歳だ。

 「星間エーテルの転生の話って魔障医学の話じゃないのか?」

 星間エーテル、転生の理由。

 寄白さんは……卑弥呼の……。

 ルーツ継承と信託継承、俺のルーツはまだまだ謎だけど。

 でも、俺は昨日、只野先生にその話を聞いたからわりと詳しいけどな。

 「魔障専門医の領域までは知らないけど、転生に星間エーテルが関係あるってのは常識だから。俺も繰さんも、美子ちゃんも雛ちゃんも、それなりには知ってるよ」

 「そうなんだ。じゃあ魂の重さが二十一ミリグラムって話は?」

 「さだわらしがどうしてそんなことを知ってるんだ?」

 寄白さん目が怖いっす。

 「すごい、そこまで知ってるんだ」

 社さんに初めて褒められたような。

 なのに、社さんはそのあとにものすごく沈んだようだった。

 「沙田のくせに、やるアルな」

 俺はエネミーにちょいちょいけなされるけど、べつに心から悪口を言われてるわけでもないし。

 そこは使者である寄白さんの中身を引き継いでるのかも。

 

 モナリザの戦いの直後は、俺を尊敬してたはずだけど、まあ、俺をイジって暇じゃなくなるなら歓迎だけど。

 

 「いや、主治医にきいただけだから」

 「そっか、昨日の診察でよね?」

 校長はそう言いながらも意識はスマホに向かってた。

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  【寄白繰】:

 ・1、蛇は真野絵音未を唆したかもしれない。

 ・2、蛇は人体模型をブラックアウトさせたかもしれない。

 ・3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない。

 (バシリスクは不可領域を通ってきた)

 ・4、蛇は日本の六角市にいるかもしれない。

 ・5、蛇は金銭目的で暗躍しているかもしれない。

 ・6、蛇は両腕のない藁人形(忌具)を使って、モナリザをブラックアウトさせたかもしれない。

 ・7、蛇はぬらりひょんの脳を切り刻んで利用してるかもしれない。

 7番は私の意見なんだけど、みんなはどう思う?

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と書かれていたものが

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  【寄白繰】:

 ・1、蛇は真野絵音未を唆したかもしれない。

 ・2、蛇は人体模型をブラックアウトさせたかもしれない。

 ・3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない。

 (バシリスクは不可領域を通ってきた)

 ・4、蛇は日本の六角市にいるかもしれない。

 ・5、蛇は金銭目的で暗躍しているかもしれない。

 ・6、蛇は両腕のない藁人形(忌具)を使って、モナリザをブラックアウトさせたかもしれない。

 ・7、蛇は二匹(ふたり)いるかもしれない。

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 と変更された。

 【Viper Cage ー蛇の檻ー】の7番目がまるまる変わった。

 俺たちはスマホを震動と同時に、またそれを見てる。