小説家になろう

第217話 天才脳

 「繰さん。俺はさっき上級アヤカシ以上の何者かって言いましたけど。上級アヤカシはある一定値を超えたアヤカシの総称ですので、ぬらりひょんの脳を切り刻んだ者イコール・・・・って結果は早計な気がします」

 アヤカシの起源によると基本アヤカシは下級アヤカシ、中級アヤカシ、上級アヤカシの三種類に分別される。

 ただ中級以上のすべてのアヤカシが上級って括りになるから、上級アヤカシでも天と地の差があったりするんだよな。

 問題はぬらりひょんを上級のレベル一だとして、蛇は上級のどこに位置してるかだ。

 十なのか百なのか千なのか、あるいは一万、もっと上で十万、百万?

 ただ、九久津の口振りからすると、蛇はぬらりひょんよりも賢いのは間違いないだろう。

 そこにずるさも含まれてるけどな。

 「九久津くん、どうして?」

 校長は異を唱えるように訊いた。

 腑に落ちないってニュアンスありありだ。

 「ぬらりひょんは排他的上級固有種です。この種は出現周期のデータがないですよね?」

 「そうね」

 「ぬらりひょんはアヤカシではあるけど、非常に人間に近い種だからね。そのための排他的固有種」

 「俺が知る限り、ここ百年のあいだでぬらりひょんが退治されたことはないですし、目撃報告も江戸末期だったはずです」

 「そうね。たしかに日本中どこの能力者たちもぬらりひょんを退治してないわ。それが今回のこととなにか関係あるの?」

 九久津は校長の問いになにも答えずに、視線のさきを寄白さんと社さんの中間に向けた。

 「ねえ。美子ちゃん、雛ちゃん、リビングデットの腕が単体で襲ってきて、そこに脳が見えたから一匹グールが混ざってるって思ったんだよね?」

 「ああ、そうだ」

 「うん。そう。リビングデットの腕に食い込んだ、その脳がまるで腕を操縦してるようだったから。だから私も美子もそのリビングデットは低知能を持ったグールと判断したの」

 「つまりは雛ちゃんがリビングデットの腕を目視した時点でリビングデットの腕の切断面に脳が見えたってことになる」

 九久津は自分の腕を切るようなジェスチャーをした。

 「うん。ほんとにそんな感じだった。美子、危ないって思って、私はとっさに弦をだしたくらいだから」

 「そうなると、まあ、個体差にもよるけどぬらりひょんの脳の容量に対して、グールの腕に使った脳の容量が多すぎる」

 「ほんとに病人かよ?」

 寄白さんのその一言は、間違いなく褒め言葉だ。

 病院抜けだしてきて、ついでに隠しごとまであるくせに、頭、冴えすぎ、そんな意味が込められてるような言いかただった。

 って、これは俺の勝手な解釈だけけど、賞賛してるのは間違いない。

 「九久津くんは六角ガーデンにいなかったし、それに戦いのあとに美子がリビングデットたちをイヤリングに吸収しちゃったけど計算できるの?」

 社さんでさえ驚くくらい、九久津は予想のさきを行ってるのか。

 「そこはおおよそだよ。ぬらりひょんは頭部の大きな小さな老人って鋳型で誕生するから」

 そう、いま九久津が言ったこともアヤカシの起源に書いてあった。

 人が描く共通イメージでアヤカシが生まれる。

 「ぬらりひょんとは”頭部の大きな小さな老人”。これが一般的なぬらりひょんのイメージ。そこに成人一般男性の脳サイズの平均千三百五十グラムから千五百グラムの容量と、一般的な人間の腕のサイズを対比させて導き出しだけなんだけど」

 「そっか、その計算式なら確かに机上の計算でも可能ね。しかも、あれを蛇がやったとしたら、いままでの手の込んだ仕掛けからほど遠い気がするし、あまりに目分量で脳を使いすぎてる。逆に本物の蛇ならもっと低容量でリビングデットをグールに変化させるわよね」

 「出現周期さえ定まらない排他的上級固有種の脳……。九久津、それはつまり超貴重なぬらりひょんの脳・・・・・・・・・・・・を簡単に使いすぎだってことを言いたかったのか?」

 「美子ちゃん。正解。インスタントじゃあるまいし」

 おおー!! そういう計算か!! 間違ってない気がする。

 寄白さん良い感想だよ。

 でもそうなると、ぬらりひょんの脳を切ったのは蛇じゃないってことになる。

 ……とすると、そう、蛇なみにヤベーやつがもうひとりいる?

 「九久津くんそれなら蛇以外の誰かがぬらりひょんの脳を切ったってことになるわよね。それはそれで蛇なみに危険なやつよね?」

 聞き役に徹してた校長も口を開いた。

 姉妹ふたりで良いところつくわ~、俺も校長と同じことを思ってた。

 「そうなりますね。もしかすると蛇は一匹じゃないのかも」

 「仲間がいるってこと……私はてっきり単独犯だと思ってたわ」

 校長は自分に言い聞かせた。

 なんとなく呆れかえってようにも見える。

 エネミーは完全に話についていけないようで、社さんの制服の袖をつまんで遊んでた。

 あっ、あれってママ友が話し込んでるときに子供がやるやつだ、完全に暇してる。

 「いいえ、繰さん。そうとも限りませんよ」

 えっ?! 限らないって?

 九久津は自分のスマホを校長に見せて、指さした。

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  【寄白繰】:

 ・1、蛇は真野絵音未を唆したかもしれない。

 ・2、蛇は人体模型をブラックアウトさせたかもしれない。

 ・3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない。

 (バシリスクは不可領域を通ってきた)

 ・4、蛇は日本の六角市にいるかもしれない。

 ・5、蛇は金銭目的で暗躍しているかもしれない。

 ・6、蛇は両腕のない藁人形(忌具)を使って、モナリザをブラックアウトさせたかもしれない。

 ・7、蛇はぬらりひょんの脳を切り刻んで利用してるかもしれない。

 7番は私の意見なんだけど、みんなはどう思う?

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 九久津の指さきは、ちょうど項目3をしてた。

 【・3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない。】の部分だ。

 「そっか。バシリスクを操れるってことはほかの上級クラスも操作できるってことね。仲間じゃなく捨て駒みたいな可能性もあるのね?」

 校長の言葉は俺たちにとってデメリットでしかない。

 なんせ上級アヤカシを捨て駒で使えるかもしれないんだから、蛇は上級のなかでもさらに上級・・の存在ってことになる。

 ぬらりひょんを上級の一とするなら、蛇とは千くらいの開きがありそうだ。

 あくまで俺の主観だけど。

 「ですね」

 「ますますこんがらがってきたわ」

 校長は手櫛で髪を掻き上げたあとに大きなため息をついた。

 これは校長の無意識の癖みたいなものだ。

 考えることさえ恐ろしくなるような、蛇の存在……当然か。

 「あるいはすべて陽動ようどうなのかもしれません」

 「でも九久津くん、陽動作戦なら本命もあるはずよね?」

 「ええ、いまだ本当の狙いで動いてない可能性もります。蛇が暗躍した出来事の絶対数がわからない限りなんとも言えないですけど……」

 九久津……脱帽だ。

 言いかたは悪いけど、九久津の頭脳だって切り刻まれる対象になってもおかしくないくらいの思考能力だろう。

 どこか蛇と九久津の思考がシンクロする、まあ、頭脳合戦の赤コーナーと青コーナーとしてだけど。