第216話 アインシュタイン

「まるでアインシュタインね」

 社さんの儚げながらも、か細い声が混ざった。

 アインシュタイン? なぜ? 共通点といえば知的なところか。

 「なるほど」

 すぐに反応したのは九久津だった、それだけで通じ合えるのか~。

 社さんはコクっとうなずく。

 エネミーは俺を見て、ほんわかした目で合図してきた。

 そして口をパクパクしてる。

 わかってるって、九久津と社さんがあんまり会話できてないってこと。

 って九久津から社さんへの会話はふつうなんだよな。

 問題は社さんがじかで九久津と話せてないってことなんだよな、ただアヤカシ関係の話ならわりと大丈夫そうなんだけど。

 モナリザのときみたいに。

 それもそのはず、社さんは九久津のことを……ってみなまで言わないが。

 エネミーのこの気の使いかたは大人びてるな、この空気を読む力は。

 まあ、社さんを思ってのことだろう、それだけ仲いいからな。

 「アインシュタインの脳はいくつもに分けられて、全世界で保管されてるからな」

 「マジか?!」

 俺は反射的に訊き返してた。

 これはマジで本気で口から勝手にでた言葉だ、それでも九久津は冷静だ。

 さっき、ぬらりひょんの名前を見たときだけ唯一驚いてたんじゃないか。

 「ああ、そこにいたる経緯は省略するけど。アインシュタインの相対性理論はGPSにも使用されてるし」

 「えっ、確か相対性理論ってタイムマシンがどうのこうのだろ? それがGPSに採用されてるってどういうこと?」

 俺には意味がわからなかった。

 「ああ、そっちは特殊相対性理論。俺が言ってるのは一般相対性理論のこと」

 「えっ、なに、相対性理論ってふたつあんの?」

 「あるよ。GPS衛星で使われてるのは一般相対性理論。これによって世界でなん人の犯罪者が逮捕されたのかわからない。ほかにも渋滞の緩和とか俺たちがアインシュタインから受けた恩恵は計り知れないな」

 GPSって……そうか世界中で使われてる、位置を観測する衛星システム。

 アインシュタインがスゴいのは誰だって知ってる、具体的になにをしたのかわからなくても天才だって知ってる。

 たぶん、――ベロをだした偉人の写真は?って質問だけでわかるんじゃないか。

 相対性理論ってスゲー、あらためてスゲー!!

 でも特殊相対性理論と一般相対性理論って、排他的とそれ以外の関係性みたいだな。

 話題からはちょっと逸れたけど、社さんはそういう天才の脳が切り分けられてるって共通点を言ったのか。

 「残酷ね」

 その校長の意見に異論を唱える者なんていない。

 人間の脳を切り分けるなんて、確かにサイコ的だ、でもそれは偉人としての研究対象だからなんだろう。

 「人間だって歴史のなかで同じようなことしてきた」

 九久津の言うことももっともだ。

 人間はとてつもなく残酷なことをしてきた。

 俺たちは教育がっこうでそれを学んできてる。

 むしろ、数珠繋ぎの大量殺人が日本史と世界史だ。

 簡単にいくさ一揆いっきだ、革命だクーデターだって言ってるけど。

 内戦であって、テロだ。

 刀で人を斬る……本当にそんな世界があったんだ、そんなのが妖刀になるんだよな。

 なんど学んでも現在進行形で殺戮はつづいてく。

 それを教えられてる子供だって、真逆の現実を目の当たりにしてどうすればいいんだよ。

 命は大事だって教えられた夜に、誰かが誰かに刺されたってニュースが流れる。

 「兄さんは教えてくれた歴史が犯してきた罪を。西暦で考えてもたった二千年弱だ……。現代ではコンテンツ・モデレーターという非人道動画を削除する職業さえある」

 兄さん、九久津の兄貴……九久津堂流。

 名前は知ってるけど顔は知らないんだよな。

 なんだか変な気持ちになる。

 校長が好きなんだから九久津似のイケメンか、……いや、そもそも兄弟なんだからな。

 九久津って名字だし。

 九久津の怒りの滲んだ表情が印象的だった。

 俺はときどき九久津のなかにそんな激昂的げきこうてきな部分を見る。

 いや、見ないフリをしてきただけかも。

 その怒りはずっとバシリスクだけに向けられたモノだと思ってた、でも違った、この零れるような憎悪は間違いなく世界に向けられたものだ。

 ずっと前からバシリスクへの怨みのなかに紛れてそれはあったんだな。

 座敷童のざーちゃんとは無縁ってわけでもないだろうし。

 ……九久津……おまえ蛇に取り込まれたりしないよな?

 悪魔と契約なんてしないよな?

 「これである仮説が成り立つ。ぬらりひょんが蛇じゃないなら、蛇はぬらりひょんの上位にくる存在」

 九久津の説はどことなく、みんな思ってたことなのかもしれない。

 それを聞いてもなにも驚かない、むしろしっくりくる。

 と同時に蛇はなおさらヤベーって思う。

 背筋に寒気が走るほどに。

 校長は伏せるように持っていたスマホを自分の胸元まで上げると、一度画面に触れて【「排他的上級固有種ぬらりひょん」の脳の一部と判明。】と表示さたままの画面をスライドさせた。

 そこからなにかの操作をしてから指がスゴい速さで動いてる。

 なにかの文字を打ってるってすぐにわかった。

 その内容も想像がつく、しばらく動いていた校長の指が止まったと、同時に俺のスマホが震えた、まあ、みんなのスマホもだけど。

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  【寄白繰】:

 ・1、蛇は真野絵音未を唆したかもしれない。

 ・2、蛇は人体模型をブラックアウトさせたかもしれない。

 ・3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない。

 (バシリスクは不可領域を通ってきた)

 ・4、蛇は日本の六角市にいるかもしれない。

 ・5、蛇は金銭目的で暗躍しているかもしれない。

 ・6、蛇は両腕のない藁人形(忌具)を使って、モナリザをブラックアウトさせたかもしれない。

 ・7、蛇はぬらりひょんの脳を切り刻んで利用してるかもしれない。

 7番は私の意見なんだけど、みんなはどう思う?

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 こんな簡単に【Viper Cage ー蛇の檻ー】の項目が増えてくのか?