第215話 排他的上級固有種 ぬらりひょん

 「排他的上級固有種ぬらりひょん」の脳の一部と判明。

 これはいったいなんのことだ?

 俺に、この事前情報はまったくない。

 急にふっと湧き上がってきた謎だった。

 ちなみにエネミーが――ひ。と言ったのは「排他的はいたてきはい」の右側の「」を読んだからだ。

 でも「非」を読めるだけスゲー、まあこの字はアニメなんかでも比較的使われやすい漢字ではあるけれど。

 エネミーの年齢感覚はいまいち曖昧だ、あるところは幼稚だけど、あるところは大人びてる。

 手偏に「非」は「はい」、ぜんぶ通して読めば排他的はいたてき

 排他的ってのは上級、中級、下級以外のアヤカシにつく特別な区分だったはず。

 ざーちゃん、そう座敷童ざしきわらしなんかがその種類に該当する。

 座敷童ってなんだかその響きがイヤだな~。

 いや、座敷童が悪いわけじゃない、ポニーテールの寄白さんが俺を”さだわらし”と呼ぶからだ。

 発音したときのイントネーションが妙に被るんだよな。

 この画面にある判明という言葉? 判明ってことはなにかが判ったってことだよな。

 なんの結果なんだろう?

 そういえば、六角市南南東、郊外にある廃材置き場で発見した”茶色に近い黒と黄色の動物の毛”の正体って判明したのか?

 それともまだY-LABで検査してる最中なのか? って、でもあれ動物の毛だしな。

 動物の種類が判明したところでそれがなんだっつーことなんだけど。

 「美子、雛。あなたたち六角ガーデンでリビングデットと戦ったときに一匹グールが混ざってたって言ったわよね?」

 校長は硬い表情のままだ。

 あっ、俺が九久津の家に行った日にリビングデットと戦ったって言ってた、あの話のことか。

 俺がはじめてコールドスプレーの洗礼を受けた日……しかもあの現場をまさか山田に見られてるとは。

 俺たちが授業中、校長はほとんど保健室で保健の先生をしてる、そして放課後間際に校長室に戻ることが多い。

 山田の行動も注意しながら生活しないとな。

 けど、リビングデッドとぬらりひょんになんの関係が?

 「ああ。腕、単体で私の顔に襲いかかってきた。だよな、雛?」

 「そう。美子の顔スレスレまで腕が飛んできたわ」

 「ってことだ。お姉」

 「私、それが気になってね。教育委員会に報告したあとに、後日、解析部を入れるよう調査依頼をだしておいたの。急がないからお願いしますって」

 「それで?」

 「なんだかんだあったみたいだけど。まあ、それって……」

 校長の口調が弱まった、なにか言いづらそうにしてる。

 それでも校長は寄白さんを前にして口を開く、ここでなにかを隠したとことですぐに見破られるだろう。

 さっきの九久津だってそれを知ってて”隠しごとがある”って言い切ったように思うし。

 「予算的な意味合いのことなんだけど」

 えっ、あっ……そういうのって、無償でやるわけじゃないんだ。

 って当たり前か……シビアだな。

 現実に生きてれば金は使う、けど最近じゃ自販でもコンビニでも電子マネーで済んじゃうんだよな。

 最近、あまり現金で払うこともなくなった。

 ハンバーガーのチェーン店も、コーヒーショップも電子マネー対応の店が多い。

 でも電子マネーって存在してるようでしてない、サイバー空間の話だからな。

 「それでも五味校長がなんとか動いてくれたみたいで」

 「それなら、今日の四階はどうなるんですか?」

 九久津は辺りをグルっと指で一周させた。

 「ああ、これね。このイレギュラーな状況でも四階の備品の破損や破壊に関して当局が予算を組んでるから。こういう特別の日だってあることをあらかじめわかってるのよ」

 ……スゲーリアルだった。

 放っておけば、明日には四階が元通りになってるなんてことはない。

 美術室のドアはもうボロボロ、壊れりゃ、それを修理する人がいてその修理代をだす人がいる。

 「そうですか。もしかしたら繰さんが……自腹でなんて考えが……」

 九久津はそう言いながら、一礼して校長にスマホを返した。

 内容はここにいるみんが確認してるから、もう仕舞っても差支えはない。

 「あっ、ありがと、九久津くん。そこはまだまだ高校生ね。それをやると経理上の問題が起こるから私はやらないわ。穴埋め分をじひで埋めると、どこから出たお金なのかが問題になるし。私がどの立場で出したのかにもよるし。個人、校長、会社社長。仮に修理費が予算内に収まらなかった場合でも、それはきちんと申告するわ」

 校長は、おもいっきり社長業の顔をのぞかせてる、気がした。

 経理、ぜんぜんわからん。

 損をさせないなら、自分の金はなにに使ってもいいんじゃないのか?ってダメなんだよな、その経理上って理由で。

 この話については、九久津はおろか社さんまで呆気にとられてた。

 こうなると俺らもエネミーと大差ない、みんなは黙って校長の難しい話を聞いた。

 あらためて俺らは子供で未成年なんだなって思う。

 校長はまるで一時間分、政治経済せいけいの授業でもしたかのように話した、それを終えると、ふたたびスマホ画面にあった内容のつづきに戻った。

 「それでね。その報告がいまきたの」

 「なんだって?」

 そう訊き返した寄白さんだけは唯一、校長の話を理解してるようだった。

 それもそうか、寄白さんだって前社長の娘だし現社長の妹だ。

 家のなかで、そんな話題のひとつやふたつあるだろう。

 「美子と雛が戦った、花壇周辺の痕跡を解析した結果。グールの脳はぬらりひょんの脳の一部だと判明」

 ど、どういうことだ?

 そんな俺の疑問をよそに、校長と寄白さんの話に割って入ったのは九久津だった。

 「俺は正直ぬらりひょんが”蛇”だと思ってました。人間的な奸計かんけい。そのやりかたは排他的上級固有種である、ぬらりひょんの頭脳に似てるなって思ってました。ぬらりひょんが策略を巡らせて、好き勝手やってる人間に復讐してるんじゃないかと……」

 九久津のなかで、蛇の予想はぬらりひょんだったのか。

 俺のなかでは升教育委員長がぬらりひょんだったんだけどな。

 でも、これで俺の読みは外れた。

 「でも俺の推理は全部崩れました」

 俺と同じで九久津の読みも全部外れたみたいだ。

 「どころじゃないだろ」

 寄白さんが言葉を返す。

 「そう。美子ちゃんの言うとおり。事態はもっと深刻なほうへと傾いた」

 「えっ、美子それってどういこと?」

 「お姉。あれがぬらりひょんの脳なら、ぬらりひょんの体を切り刻んでそれを使ってる奴がいるってことだ」

 「あっ……」

 校長は押し黙った、まあ、俺もだけど、当然、社さんもエネミーも沈黙したままだ。

 「アヤカシの体にそんなことができるのは、魔障医学の知識があるやつ以外には考えられない」

 寄白さんのその言葉で真っ先に浮かんできたのは、只野先生の顔だった。

 でも、それはマッドサイエンティストではなくて、良心的な医師としての顔だけど。

 まあ、魔障医学の知識を持つ者は、すくないなりに世界には、たくさん存在するだろうし。