第21話 六角第三高校への帰還

アスファルトと調和した音のなかから、女の人の声がした。

 この声、そして柑橘系の香水。

 「九久津くん。あとは私が話すわ」

 「あっ、繰さん」

 九久津が振り向いたと同時に俺も振り返った。

 さっき校長は後日、話すからとなにも教えてくれなかったのに……。

 もしかして俺が自分で九久津にいろいろ訊くのを待ってたとか。

 「校長先生……?」

 「沙田くん。さっきは驚かせてゴメンね?」

 「えっ、いや。とりあえず話を聞かせてもらえれば……」

 「わかったわ。九久津くんは理由を知っているだろうけど、まあ一緒に聞いて」

 「はい」

 九久津がそう言ったあと校長は険しい表情で話をはじめた。

 細めの眉がキリっと上がる。

 口を開くのを躊躇っていた様子だったが、上唇が重力に勝つとそこからはスムーズに会話がつづいた。

 「戦後。学校を建設するには、地価が安く広い土地が必要だった。それが理由で多くの墓地跡地が選択されたの。これは都市伝説でもなく、まぎれもない事実よ。経済的観点から見ても理に適ってるわ」

 「それは聞いたことがあります」

 「でもやはりそういう場所にはよどみが溜まる。そしてそれは気体のように上昇して停滞するの」

 「だから最上階にあんな場所が?」

 「ええ」

 校長はコクリとうなずくと――その淀みの影響でアヤカシが産まれる。とつづけた。

 「沙田くん。キミを四階に呼んだ理由を話す前に、六角第三高校の校長先生に会ってほしいの?」

 「六角第三高校って俺の転校前の高校ですけど……?」

 「ええ。そう、そこの仁科にしな校長に会ってきてほしいの」

 「六角第三高校にもなにか秘密が?」

 「それは行って確かめて。すぐにとは言わないけど近いうちに」

 「わかりました」

 「仁科校長に話は通してあるから……」

 「はい」

 なんかみょうな流れになってきた。

 もしかして俺は知らず知らずのうちに間接的にでもアヤカシに関わってたのか?

 「ということで今日はここで解散。二人とも気をつけて帰ってね?!」

 校長は俺と九久津を気遣いポンと背中を叩いた。

 なんだかよくわからないけど行くしかないな。

 「あっ、はい」

 「俺はこっちだから。じゃあな沙田」

 「おう」

 九久津は、校長に一礼して六角駅前行きのバス停へと向かった。

 俺の生活にとつじょ訪れた非現実。

 九久津はそれを和らげるクッション役だったのかもしれない。

 なんとなくだけどそう思った。

 九久津の背中が見えなくなったあと、俺も校長に挨拶をして六角第四高校前行きのバスに乗った。




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