第207話 「優等」と「劣等」

 「あれ、九久津どうした?」

 「ああ、あとは雛ちゃんの弦次第だから」

 そっか、あとは社さんの行動でつぎをどうするか決めるのか。

 ってなんだかんだ、九久津が先頭きって安全を確かめた上でこっちに戻ってきたんだろうな。

 いや、後方のエネミーまで気を使ってんのかも、九久津はいつも視野が広いから。

 あるいは最後にくるだろう校長にまで目を配ってるのかも?

 始点から終点まで、自分で状況を把握したいってことなのかもしれない。

 寄白さんと一緒のときだって、いつも周囲を気にかけてるし。

 「なあ、九久津。劣等能力者ダンパーって日常で使う言葉?」

 「いいや」

 九久津が首を振った。

 「劣等能力者ダンパーって能力者おれたちのあいだでは劣等能力者って意味で使ってる。自分をさげすんだり、卑下する、あるいは謙遜するときにも使う言葉。だから使用者がどういう意図で言ってるのかを考える必要がある。言った相手と対面してる場合は日本人なら、なんとなくその人がどんな意図で言ってるか理解わかると思うけど」

 「へー。ちなみにダンプの意味は?」

 日本特有の言葉のニュアンスね。

 ああいうのって日本で育ってなきゃ絶対わかんねーよな。

 「いくつかあるけど”投げ捨てる”や”ゴミ”って感じかな」

 「ああ、それがダンパーになったってなんとなくわかったわ。劣等能力者の隠語的なものか」

 「そんな感じだな。ただ俺たちは、この会話で細かい意味までわかるけど、文字だけならどんな意図なのかを判断するのは難しいだろうな」

 「だよな」

 ダンパーってそういう意味だったのか。

 わからないことがあったら訊いて、ひとつひとつ新しい言葉とかを覚えていけばいいよな。

 九久津はすぐに教えてくれたし、やっぱ、俺は放置されてるわけじゃない。

 「うちは本当の劣等能力者アルからな」

 エネミーのその言葉には自分を卑下するような感じはなかった。

 ただ、日本でよく言う”ポンコツ”みたいな言いかたに近いと思う。

 そしてそこにコンプレックスを含んだような要素も感じられなかった。

 う~ん、卑下と謙遜のどっちに分かれる?かと言われれば謙遜のほうか。

 ――そんなことないわよ。エネミーちゃん。

 校長も遅れてようやくやってきた。

 卑下と謙遜……日本の文化の――つまらない物ですが。の贈り物みたいなことだな。

 日本語ってムズいよな。

 外国の人が――つまらない物をどうして贈るの?って言いたくなるのも無理はない。

 「でも繰」

 エネミーが校長に駆け寄った。

 「ううん。あなたはそのままでいいのよ」

 「そうだよ」

 九久津も同意しながら、天井のサーキュレーターの間隔を確認してる。

 「地球上のほんのわずかな人間が能力者として開花する。けどね沙田くん、美子、九久津くん、雛のように実戦で使える能力者っていうのは、そのなかの一部の人間なの」

 校長のその言葉に驚かされた。

 そ、そんな希少だったんだ実戦向きな能力者って。

 周りがみんな、そんな能力者ばっかりだったから気づかなかった。

 てか近衛さんなんてとてつもない能力ってことか、六角市の結界を操作してるんだし。

 いや当局の能力者ってそういう人だから当局に居るんだろう。

 「能力者で言えばサージカルヒーラーの私だって劣等能力者ダンパーよ。堂流の足ひっぱってばっかりだったし」

 「繰さんもそんなことないですって」

 九久津も校長を思いやる、ここにいるみんなは優しい人たちだ。

 校長の言葉は、校長自身が謙遜してエネミーも自分と同じ立場だってことを言ってるように思えた。

 つまりは、いまのままで十分だって意味だ。

 「えっ、でも」

 校長はそう言ってエネミーの横に並んだ。

 エネミーも校長に体を寄せる。

 「だって真野絵音未との戦闘のあとに治療してくれたのは繰さんですよね」

 九久津はそう言って、俺たちの後ろの様子を確認してから、百八十度体を翻した。

 そうなんだよな、あのときは当局の救護部隊がきてたと思ったんだけど、校長が治療したんだった。

 俺はそれを九久津の家に行く途中のバスのなかで知った。

 「でも九久津くんも知ってるでしょ。サージカルヒーラーの正体を。もしも本当に傷を治癒できる能力なら私だって多少自信を持てたかもしれない」

 正体? どういうことだ?

 だってサージカルヒーラーって治癒能力者のことなんじゃ。

 「治癒能力には変わりないですよ」

 「ううん。意味合いがまるで違うわよ。だってサージカルヒーラーは対象者の自然治癒力を活性化・・・・・・・・・させるだけの能力だもの。あの死者の反乱で傷を治したのは美子本人であって、九久津くん本人だから」

 えっ……そ、そうなの?

 ってことは完璧な治癒能力者じゃないってこと?

 言葉から察するにサージカルヒーラーは怪我をした人、自身の自然治癒を早めるような効果……血行促進的なことか?

 さっき寄白さんが俺にやってくれたようなコールドスプレーでの応急処置に近いのかも。

 じゃあ、ざーちゃんが俺の腰を治したんじゃなくて、俺自身の自然治癒力が俺の腰を治したってことになる。

 只野先生の魔障医学でも能力者はふつうの人間の肉体とは違うって言ってたし。

 身体能力が飛躍的にアップしてるなら治癒力もアップしてるはずだ、この話の流れからするとそういうことだよな。

 「それでも細胞を活性化させることのできる能力者が【サージカルヒーラー】じゃないですか?」

 「でも、もし私が能力を選べるなら【オムニポテントヒーラー】を選ぶわよ。だってヒーラーの最上級能力者で万能の治癒能力者なんだから」

 オムニポテントヒーラー……。

 ヒーラーの上級職みたいな力か、それが本当の意味でのヒーラー。

 俺はその疑問を校長と九久津に訊ねた、すると想像通りの答えが返ってきた。

 サージカルヒーラーは自然治癒を促進させるような力で、オムニポテントヒーラーは例えば臓器の復元ようなことまでできる能力のことらしい。

 が、そのオムニポテントヒーラーは稀な能力者のなかでもさらに稀な能力者だということだ。

 九久津でさえ、本物のオムニポテントヒーラーには会ったことはないという。

 相当レアな能力者だな。