第205話 厭勝銭(ようしょうせん)

 校長が料理を注文してから十分くらいで料理が運ばれてきた、それから数分間隔でほかの料理も運ばれてきて全品揃う。

 小さなパーティーみたいな雰囲気のなかで料理を食べた。

 もう、ここで夕食をすませたのと同じだな。

 ガイヤーンの正体はタイの焼き鳥で美味しかった、ただあの味じゃ大魔王感は皆無だ。

 それをなにかに例えろと言われても難しい……スパイシーくらしか言いようがない。

 寄白さんとエネミーは俺の横で男飯おとこめしとはなにかを真剣に討論してる。

 料理のメニュー表にそういう表記があったからだ。

 ”蛇”の話で頭を使ったから、いまはちょうど休憩みたいなもんか。

 「きっとメンチカツは男飯でしてよ」

 「HOMMEオムレツもそうアルな?」

 「ではHOMMEオムライスもそうですね?」

 「そうアルな」

 この”シシャ”二人はポンコツでもあり天才でもある……気がした。

 ポンコツの天才、あるいは天才的ポンコツ。

 しばらくすると自然にカラオケ大会になってた。

 ここはカラオケボックスだったんだとあらためて思い知る。

 アニソンを本気で歌い上げるエネミー、というよりエネミーのほぼ独壇場上だ。

 エネミーは歌が上手いという新発見があった。

 かたや寄白さんはというと蝙蝠こうもりが落ち、イルカが大海の逆サイドに行くような超音波(?)な歌声。

 下手というわけではない……が、と、特徴的な歌いかたをする。

 寄白さんは十字架のイヤリングを揺らして曲を歌い上げた、まだマイクがハウっててキーンって鳴ってる。

 エネミーと寄白さんは交互に歌を歌う、エネミーはときどき寄白さんからサビ泥棒するがそのまま盗ませてるようだった。

 エネミーはもう寄白さんから三サビをいただいたことになる。

 俺もほかのみんなもマイクを持つことはなく微笑ましく、二人を盛り上げた。

 この二人は、歌うという部分では真反対だった、そういう違いもあるんだな。

 今日は頭を悩ませる日でもあったけど、なんか充実した日に、っヴォフォッツ!!

 な、なんだ?

 デコにズルった感と頭がチーンってなるような衝撃。

 デコクラッシュのあとになにかの金属音がして、それがなんどか壁にぶつかって床を転がってった。

 ゴロゴロという音じゃななくコロコロコロコロっていうもっと軽い音。

 ソファーの下に潜り込んで防音壁の巾木はばきに当たりリバウンドして途中でコトンと倒れた。

 俺は椅子の下に入り込んだそれに向かって指先をめいっぱい伸ばし、爪のさきで何度か、すり寄せ拾い上げた。

 なんだこれ?

 五円玉のような形だけど中央はえんじゃなくて正方形の穴があいてる。

 色は五円の金よりももっと黒くてくすんでた。

 だがそれより目立ったのはその物のデザインだった。

 上下左右に漢字が一文字ずつある、これは四文字熟語? いや、違うな、これって。

 「わ、和同開珎わどうかいちん?」

 だからってわけじゃねーけど、一瞬、意識もチーン!!ってなったし。

 次元を超えて小銭が飛んできた、和同開珎って確か日本最初の流通通貨って日本史の授業で習ったな。

 なぜこんなものが?

 飛鳥時代からぶっ飛んできて、俺のデコにクラッシュ。

 千年以上前から俺に恨みを持つ者がこれをぶん投げ、約千年の時間をかけて俺にヒットさせたということか?

 あるいはパンゲアからのお届け物がいま届いたか?

 送り主は俺か? 俺が俺に送ったのか?

 社さんをはじめ、校長、九久津それにいまマイクを握ってる寄白さんの顔が一変した。

 エネミーだけはデンモクを手につぎの曲を歌う気満々だけど。

 みんなは俺を見てるようでいて、視線は俺が持ってるもの、そう和同開珎に向けられてる。

 そりゃあこんな物が突然、飛んできたら不思議に思うけどさ。

 それにしてもこれはいったいどこから。

 「いや、あの、これなんかどっかから飛んできたんだけど……それが俺のデコにってかこれ本物かな……? な、わけないか……レプリカかな?」

 本当に俺はこの出所を知らない。

 「雛さん」

 寄白さんの口調が変わった、アヤカシと戦うときのいつもの声だ。

 「私の厭勝銭ようしょうせん

 「厭勝銭って? この和同開珎のこと?」

 社さんに和同開珎をかざして訊いた。

 「そうよ」

 よ、厭勝銭? そんな単語はじめてきいた。

 けど、その和同開珎がなぜ俺のデコに、それにこの張り詰めた空気はなんだ?

 「厭勝銭って和同開珎の別名?」

 「いいえ。小銭を象った護符ごふの一種を厭勝銭と呼ぶの。だからお金というよりも、お守りと言ったほうがいいかな」

 「へ~こんなお守りもあるんだ」

 社さんの家って神社だからこういうお守りがあるのかも。

 えっ? 寄白さんが赤いリボンをほどいてる。

 えっと、それはつまり戦闘開始の合図ってこと?

 手際よく、ポニーテールに結び直したあとは十字架のイヤリングに触れて戦闘態勢に整えてる。

 じゃあ、よ、四階でなにかあったってことか?

 この小銭は社さんの能力になにか関係ある?

 「いまそれがここにあるってことは、瘴気に反応して亜空を通ってきたってことだから」

 社さんも若干慌ててる。

 「そうなんだ」

 結局この和同開珎の出所でどころは亜空の向こう側ってことか、やっぱり学校の四階。

 「みんな」

 校長のその合図には――行くわよ。そんな意味もあるだろう。

 なにも言わずに九久津が亜空を開く、この行動だけでわかる……アヤカシだ。

 校長が先陣を切ろうとしたところを九久津が手で遮った。

 「繰さんはここの会計をお願いします」

 「えっ? ええ、わかったわ」

 「だから一番最後に追ってきてください」

 九久津は校長を一番最初に四階へ行かせないようにした。

 ……そんな気がする。

 自分が先頭を行く、そういう意図だろう。

 その証拠に社さんにも、寄白さんにも一番最初に亜空間に入らせないポジション取りをしてる。

 四階に異変があったイコール、四階になにか危険なことがあるかもしれないってことだ。

 校長を遮ったのは、いま六角市でアヤカシと戦ってるのは俺らの世代だから。

 九久津が寄白さんと社さんよりも前にいるは、なるべく二人を最初に戦わせたくないから。

 とくに社さんは前に大きな怪我をしてるってのもあるだろうし。

 身を切るのは自分ってことか。

 九久津おまえはいつもそうだよな、どこか自分を犠牲にする。

 ヴォフォッツ!!

 ま、また俺にデコに……くそっ、俺のデコは賽銭箱じゃねーぞ。

 逃げるようにまた床をゴロゴロ転がってく小銭を手で覆いそのまま握りしめた。

 和同開珎のヤロー。

 掴んだ状態で指を一本、一本上げて拳を開いてく、また年代物の通貨で上下左右に漢字一字があった。

 だがそれは和同開珎とは違う、俺がいま握ってるのは寛永通宝かんえいつうほうだ。

 「えっと、これは寛永通宝だ」

 「雛ちゃん?」

 九久津は主語もなく、訊いた。

 能力者たちなら、これで理解しあえるってことか。

 「和同開珎のつぎが寛永通宝……ってことは美術室ね」

 社さんは視線をすこし泳がせてそう言った。

 美術室、やっぱ四階でなにかがあった。

 異変があれば社さんの能力に反応するんだから、これは紛れもなく戦闘の前触れ。

 と思ってるとなんか目の前が煙ってきた……きゃぁぁぁデコが、ひ、ひ、冷える。

 冷えるを通り越してなんか感覚がなくなってきたような。

 俺のデコがおかしくなったのか?

 ……ん? 俺の視線に見慣れたデザインの缶がある、こ、これはコ、コールドスプレー。

 「さだわらし。それで冷やしとけバカ」

 寄白さん、あれからいつもコールドスプレー持ち歩いてんのかよ。

 けど、これって俺の額の、ち、治療ってことだよな?

 デコが賽銭箱になったから。

 ついでになぜ、――バカと言われるのか……ってそれは簡単、下僕にさせられたからだ。

 「トリガーノズルだ。効いただろ?」

 保健室のときも思ったけど、そういう問題じゃないし。

 いまはノズルのこだわりはどうでもいいんです。

 コールドスプレーをCMのように掲げた寄白さんはすでに完璧なポニーテールで笑いかけてきた。

 「はい。効いてます」

 ――行くぞ。と九久津が一番最初に亜空に入った。

 そこに寄白さんがつづき、社さんも追う、よし俺も行こう、俺の横にはエネミーがぴったりついてくる。

 「うちも行くアルよ」

 「えっ、っと、まあ、誰も止めてないからいいんじゃないか」

 この場に置き去りにするのもな。

 校長はこの感じだと支払いなんかがあるから、あとからくるってことになるだろう。

 さっき九久津もそう言ってたし。

 校長は案の定、手の甲を振って、――行って。の合図をしてる。

 その言葉に甘えて俺は足を進めた、すこし前方では寄白さんと社さんの二人が小声でなにかの話をしてる。

 「雛。山田の可能性は?」

 「四階に侵入するにはまず能力者ということが必須条件。じゃないとあの扉は開かないからそれはないと思う」

 「そうだよな。放課後になっても私を尾行けてこないから校内で動いてるのかと思ったけど……」

 「たぶん山田自身かれの意思じゃないと思う」

 「じゃあ山田を取り巻くなにか。つまりはシリアルキラーのデスマスクの影響?」

 「おそらくね。だから今回のこととは切り離して考えたほうがいいわ」

 寄白さんと社さんは密接していまだに、なにか話してるけど内容はわからなかった。

 その二人の遙かさきを九久津が行く。

 ※