第202話 創世の神話 黎明(れいめい)

 さあ、はじめよう起源から。

 いや厳密には起源でもなんでもない。

 回帰ループでも開祖はじまりでも再開リスタートでもない、分岐的回避エルセによる再編措置。

 ときが過ぎていく、また何百年が流れたのか。

 天に空が、地に足元が形成された……幅と奥行きと高さ、ホシのすべてが二次元から三次元へと変わる。

 平面と曲面、平面と立体すべての拮抗が解除されて調和する。

 「運命。わたくしも、お手伝いいたします」

 「宿やどみ。いたのか?」

 「ええ、時間ときのなかで、とあるにきました」

 「また創生のイブとしての役目を果してくれるか?」

 「はい。では摂理を決めます。そして必要なものを分けましょう」

 俺はぐるりと周囲を見渡した、原始大気げんしたいきも生成されたようだ。

 もやのなかに無数の粒子が散っている、環境もやがては整うだろう。

 「では、決めておいてくれ?」

 「はい」

 {{ラプラスの魔}}

 七つのラッパ……因果よってもたらされる結末は同じか。

 罪火つみびソドム。

 咎雷きゅうらいバベル。

 辜水こすいノア。

 神罰。

 重なる罪……また繰り返すのか?

 根本的な解決はオリジナル・シンげんざいをどうするかにかかっているのかもしれない。

 {{具現化インカーネーション:ラプラス}}

 小さな球体が空間にふわっと現れた、そこに横一線の切り目が入ると、上下に開かれた。

 分かれた、それはぐしゃっとたるんで上瞼うわまぶた下瞼したまぶたになった。

 瞼に挟まれた中央には、ギョロリとした瞳孔がある。

 生物の眼球が単体で宙に浮いている、これがラプラスの発露。

 「これは運命さだめ様」

 「ラプラス。頼みがある」

 「なんでしょうか?」

 「オロチの言う通り、終焉おわり間際まぎわに俺の記憶はすでにないだろう。でもそれは記憶を失くしているわけではない。積み重なる誰か記憶と横から付けたされていく誰かの想いだ。だから、オマエを引金トリガーポイントにする」

 「はい」

 「合図は用意しておく、そのときに俺の記憶を呼び覚ましてくれ」

 「承知しました」

 「ただ、その合図は一度だけではない。段階的だ」

 「はい」

 ラプラスは合意の意味で、一度、パチリと瞬きをした。

 「オマエの――《我々は知らない、知ることはないだろう》。という例の言葉、それが開始の言葉。しばらくすると俺は自分おれを取り戻す」

 「はい。承知しました」

 ラプラスは大きな瞳でありながら、球体すべてを使ってうなずいた。

 俺は宿に目を向ける。

 「宿。どこまでできた?」

 「空間・・気象・・治癒・・。これは同じグループです」

 「区分けはすべて任せる。……ただこれを放つのは紀元後だ」

 「いまはまだ紀元前ということでよろしいのですか?」

 「ああ。死海写本しかいしゃほんを書き記したときが開始だ」

 「のちの世では新約死海写本となりますね。これが人に伝わるのでしょうか?」

 「それでも残さなければならない。さあ、一ページ目、樹形図を書き上げて、それを創世そうせいの始点とする」

 「わかりました。こんどこそは」

 「ああ」

 ――こんどこそ。その言葉をなんど聞いたのか。

 宿はスタスタとできたばかりの地を歩いた。

 足元は確かに地を踏みしめている、宿は二又に分かれた鈍色にびいろの槍に手を伸ばした。

 「これはどうしますか?」

 「地上ができたということはロンギヌスの槍がさっているという事象、か?」

 「はい。そうなります。このままにしておきますか?」

 「いや、中心なかに埋めておこう」

 「なにかの意図が?」

 「意図があるのかどうかわからない」

 「……?」

 「因果律の逆算・・・・・・だ」

 「では、なにかの役に立つということでしょうか?」

 「おそらく」

 「おおせのままに」

 宿が槍の柄に手をかざすと、周辺はまるで朝日が昇るような金色の輝きを放った。

 パンゲアの大地・・・・・・・にキラキラとした光の飛沫しぶきが蝶のようにはばたいている。

 世界が希望で埋め尽くされるような予感、だが、すぐに空は真っ黒に染まっていった。

 太陽が顔を隠したからだ。

 それは絶望の報せにも思える。

 ホシの周囲を太陽が高速で回っている、いや、違うな、このホシが太陽の周囲を回っているんだった、自転と公転これはまだ不安定なようだ。

 宿は周囲の明暗など気にせずに、柄の上に手のひらを乗せると力を込めた。

 聖槍が――ズズズと沈んでいく。

 槍のさきが埋まって柄の長さが縮まっていく、ホシが槍を飲み込むと赤い雫が宿の周囲に広がっていった。

 




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