第200話 聖槍 ロンギヌス

 あっ、また書き込みが。

 【寄白美子】:わたくしはクルクルストローがよろしくて。できれば飲み口にハートとお星様をつけていただけるとありがたくてよ。

 ク、クルクルストローってあれは、ブルーハワイとトロピカルフルーツを飲むときにしか使えないはず、いや、そのために開発された代物だ。

 ほかの飲み物でクルクルさせてみろ、空気、読めないやつの烙印らくいんを押されてしまう。

 寄白さんが頼んだのはアイスコーヒー、ということは反抗期か? 遅すぎる反抗期か、ポニーテールじゃないのに反抗期か?

 この状況でハートと星のオプションへにこだわるとは、電子共有ノートも、もう二人のオモチャになったようだ。

 見かねた社さんは、エネミーの大喜利のような書き込みで笑った顔を、いつもの涼やかな顔に戻して、校長に助け舟をだすように言った。

 ――エネミー、ウーロン茶は飲んでいいわよ。でも、つぎからはこの電子共有ノートのスペースを無駄にしないで。

 ――美子も、ふつうに付属されてきたストローを使って。

 ――二人ともいい?

 その迫力にふたりはコクコクうなずく。

 社さんは、二人の母親かって感じでこの場を収めた、手慣れたもんだ。

 でもなんか、この関係性っていいな~、こんな状況で意図せずにふざけるのは寄白さんとエネミーだし、それをカバーできるのも社さんだ、なんか棲み分けができてる。

 そうこうしてると、また画面に書き込みがあった。

【寄白繰】:

 ・1、蛇は真野エネミーをそそのかしたかもしれない。

 ・2、蛇は人体模型をブラックアウトさせたかもしれない。

 ・3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない。

 ・4、蛇は日本の六角市にいるかもしれない。

 ・5、蛇は金銭目的で暗躍しているかもしれない。

 今度は、けっこう重要な情報が、って校長が本来の目的で使用しただけだけど、これが校長の知ってる大まかな情報を文字にしたものか。

 この3について、九久津と校長が口頭で話をはじめた。

 なんでもかんでも、ここに文字を打てばいいってもんじゃないんだな。

 「俺の主治医もバシリスクは日本に引き寄せらた可能性があるって言ってました。心当たりはないかとも訊かれました」

 「えっ、ほんとに? ヤヌもそうかもって言ってたわ」

 「ヤヌダークが、ですか? それにすこし話は戻るんですけどバシリスクは不可侵領域を経由してきたとも……」

 「えっ? それは初耳。そう……バシリスクが不可侵領域をね」

 「それも主治医が診察のときに言ってました」

 「だとするとその話は院内止まりの情報かもしれないし、当局止まりかもしれない」

 「そうですね。だとしたらやっぱり蛇がバシリスクを?」

 「その、可能性が高いかもってヤヌと話しただけで、完全な証拠があるわけじゃないの。だから情報収集のために、この電子共有ノートを作ったの」

 「そうですよね」

 その話は、否応なしに俺らの耳にも入ってきた。

 というか校長と九久津は俺らにも情報の提供として、その話自体を聞かせているようだった。

 また新たな事実が判明してく、ただそうするにつれてすべてがひとつに繋がる。

 なんとなく蛇を中心軸・・・として、世界を巻き込んでるような気が……そう、蛇の蜷局とぐろのなかに。

 結局、ジーランディアの負力は六角市の不可侵領域に溜まってる、だからアヤカシにとっては居心地の良い場所なんだろう。

 バシリスクが日本にきて最初に不可侵領域を通ることも必然な気がした。

 近衛さんも、鵺の出現には不可侵領域がどうのこのうのって……けど、それによって気づいたことがある、鵺もバシリスクも上級アヤカシだということ。

 やっぱり負力の溜まり場とはそういうところなんだな、いま国交省がそこを探ってるのも不可侵領域をなんとかしようとしてるからだし。

 学校の七不思議を使った四階のおとりように、不可侵領域を使って上級を一ヶ所に集めることができれば、それはそれで効率よく退治するこもできるだろう。

 そうすれば、市民が巻き込まれる確率も減る。

 夜間照明に群がる虫たちのように集めて……って、でも、照明に虫のすべてが集まるかと言えば、そうでもない、取りこぼしてしまう固体はかならずいる、やっぱりなにごとも一筋縄じゃいかないか。

 そもそもジーランディアがなければ、バシリスクはその経路を辿らなかったかもしれない、でも、すべては起こってしまったことだ。

 原因があって結果がある、なにか俺はその仕組みを知ってる、なにか……ずっと前に。

 ずっと前っていつ? ラプラス……が、なんか、いや、わかんねー。

 ……の、前にジーランディア……た、い、りく、大陸。

 世界の創世はじまり……は、ひとつの大陸だった。

 あっ、そういえば俺、昨日の夜、ネットサーフィンして神話系サイトを見たんだった、その影響か、影響されすぎたな。

 パンゲア大陸に刺さった、ロンギヌスの槍の神話、創世のイブだっけあの

 【寄白繰】:

 ・1、蛇は真野エネミーをそそのかしたかもしれない。

 ・2、蛇は人体模型をブラックアウトさせたかもしれない。

 ・3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない。

 (バシリスクは不可領域を通ってきた)

 ・4、蛇は日本の六角市にいるかもしれない。

 ・5、蛇は金銭目的で暗躍しているかもしれない。

 校長が打った、電子共有ノートの文字に(バシリスクは不可領域を通ってきた)が追加で記入された。

 俺たちもその話をきいてたけど、やっぱりこの電子共有ノートに残すとわかりやすい。

 それぞれでなにか気づいたことがあれば、文字を打ってみんなと共有する、スゲー便利だ。

 あと、このスレッドは不確定ながらも、ある一定期間ごとに日本当局に提出するということだ。

 なにも隠すことはないから当局に情報が流れてもいいってことだけど、俺たち側(?)と国との関係性が微妙ってのは、すこし問題かもしれない。

 「校長、これすぐに当局に送信するんじゃなく、一度、教育員会を通したらどうですか?」

 さて、俺の提案は通るか?

 「そうね。升教育委員長に目を通してもらうのは心強い。採用!!」

 おっ、役に立った。

 そく採用!!

 【寄白繰】:蛇について目ぼしい情報があったら、遠慮なくここに書き込んで教えてね。

 私の個人的な考えだと総合的判断で、蛇は六角市にいると思うの。

 それと報提供の募集として、みんなの身近な人物で急にお金の使い道が荒くなった人がいたら教えて。

 校長の新たな書き込みだ。

 みんなとそれぞれ目が合ったが、みんなで首を傾げた――身近に金遣いが荒くなった人? 誰も知らないという反応だ。

 俺たちはしばらく、このことについて議論もしてみたたが、誰にも心当たりはなかった。

 ただエネミーだけは――蛇、怖いアル。と言って、ソファーの横で縮こまって怯えてる。

 なにをそんなに?って

 【・1、蛇は真野エネミーをそそのかしたかもしれない。】

 エネミーが恐れてるのは、きっとこの項目だろう。

 確かに前死者の真野絵音未を唆したってことならエネミーも狙われる可能性がある。

 けど、校長の書き込み5項目目から考えれば、蛇は金銭的な目的で行動してるようだからエネミーが巻き込まれる可能性は低いと思う、とは言え、真野絵音未をブラックアウトさせて、なにかの利益を得たのとすればエネミーもまるで無関係とは言えないな。

 もしかすると、そこに株式会社ヨリシロの株ってのが関係あるのかも? でも正直、高校生の俺には難しい話だ。

 ときどきニュースでも経済の”大注目ニュース”とかってやってるけど、それが良いほうの注目事なのか、悪いほうの注目事なのかがわからない、最後までテレビを観てもわからない。

 政治経済の授業だと、円安はえんが安いから悪いことのように感じるけど、円の価値としては高いんだよな。

 1ドル100円を機軸として、1ドルが99円なら円高で、1ドルが101円なら円安。

 つまり円安のほうが1ドル100円が101円になるから1円ぶん価値が高い。

 ……ん? 九久津がエネミーのほうへ向かった。

 「もし蛇が近づいてきたところに、俺がいたら、エネミーちゃんを守ってあげるよ」

 「く、く、九久津ぅ。助かるアルよぉ!!」

 く、九久津、カッケー!!

 イケメン王子、あとでサインもらおう、初版でもらおう。

 社さんはいまどんなふうに?と思ってたところ。

「それが雛ちゃんでも、美子ちゃんでも、繰さんでも同じく」

 九久津が言い終わったと同時だった。

 社さんは、いままで見たことないくらいの笑顔になって、ささっと前髪で顔を隠すようにして下を向いた。

 サラサラの髪はすぐに目元を隠した。

 でも隠しきれなかった、下唇を噛んだままの口元はずっと嬉しそうだ。

 たぶん九久津はエネミーの後にだした名前の順序なんて考えてない、ただこの場にいるメンバーの名前を言っただけだ、たまたま一番が社さんだった、でも、それは社さんにとってはかなり重要なことだ。

 「繰さん。バシリスクも種族的には蛇ですよね。なんか蛇が多いですね?」

 ほら、九久津はいまのセリフを自然に言ったんだ、だからその流れでつぎの会話に移った。

 「そうね。でも蛇ってなにか得体の知れない者の比喩で使われることも多いし」

 「ああ、なるほど薄気味悪い、あの感じですね」

 社さんは制服のポケットからリップクリームをとりだして塗ってる。

 ……社さん、いつか叶うといいね。

 と、思うが、絶対口にはだせねー。

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