第198話 リッパロロジスト ――犯罪――

難しい話はまだ終わってないけど、エネミーが飲み物を要求しはじめたから

みんないったんバラけて、それぞれ飲み物を選び、また適当な席に座わり直した。

 昨日バス停で、突然――パフェ。と言いはじめたときもこんなかんな感じだった。

 まあ、そこもエネミーらしいんだけど。

 こういうところがムードメーカーなんだよな、張り詰めた緊張を上手くほぐす、それを計算じゃなく自然にやってのける。

 見かねた校長が部屋の壁に備え付けらた、電話で全員の飲み物を注文してくれた。

 ちょうど集中力も落ちてきたころで、いつものみんなの雰囲気に戻ってた。

 寄白さんとエネミーは座席と座席の間に手を突っ込んで遊んでる。

 うわ~こんな子供いるな~。

 子供ってなんでも遊ぶ物に変換できるんだよな。

 エネミーが椅子の間に手を入れると、寄白さんが上から座席ごと押さえつけて、そこから手を抜けるか抜けないかの遊びをしてる。

 この状況って……俺は忌具保管のフロアゼロにあったカラクリの壺を思いだした。

 忌具保管庫のあのカモフラージュ技術がジーランディア発祥だったとはな、そりゃあ九久津も驚くわな。

 キャッキャッしてるエネミーと寄白さんを横目にして、俺はいつの間にかこの状況を楽しみはじめてた、なんだかワクワクが止まらない、課外授業のような雰囲気に呑まれてしまってる。

 あっ、そうだ、さっそくスマホでリッパロロジストでも調べてみよう、ヤ、ヤベっ、エネミーが俺の手元を見てる、もう遊び終わったのかよ?

 ご、ごまかさないと。

 「ス、スマホのマイクロSDカードの容量がすくなくなってきたな~」

 「なにしてるアルか?」

 また、あの下目づかいだ。

 エネミーにバカにされるわけにはいかない。

 「えっと、いや、マイクロSDの整理でもっと思って。が、画像が多くてさ」

 「エロ画像アルか? 外の貼り紙みたアルか、変態は警察に捕まるアルよ?」

 「ば、ば、お、俺が、そ、そんな、が、画像を保存してるわけないだろ。おっ、あっ、えっと、よ、490バイト増えた。ラッキー」

 「バイト増えたアルか? ここの店長さん喜ぶアルな」

 「そういうバイトじゃねーし。490人も増えたら喜ぶどころか潰れるわ!!」

 なんか話が逸れてった、セーフ!!

 ちょっとキョドりすぎたかもしれないけど。

 どうでもいいテキストファイル消した甲斐かいがあるぜ、まあ、どうでもいいからいいんだけど。

 いや、あれってなんかのときのメモ帳か?

 ヤバっ、て、なに書いてたかぜんぜん覚えてねー。

 寄白さんはエネミーの横でちょこんと腰かけて、頬をふくらませながら足をぶらぶらさせてる。

 壁に貼られた当店限定メニューというのをじっと見ながら、――あれ食べたくてよ。ぼっそとそんな声が聞こえてきた。

 「美子。普段どんな曲聴くアルか?」

 「私はチョピンさんなどを聴くことあります」

 ――聴くことあります。ってほとんど聴かないってことだよな。

 「うちもチョピンたまに聴くアルよ~? シリアスシーンに流れる夜想曲ノクターン第20番は最高アルな~」

 チョンピン? 誰だ?

 シリアスシーンってことはアニメだよなOPオープニングでもEDエンディングでもそんなアーティストは聞いたことがない。

 【A子 feat. B-男 feat. C助 with DJ-D  inspire E美 feat. F太】しか思い浮かんでこねー、やつらのインパクトありすぎる。

 曲名が夜想曲ノクターンってことはクラシックっぽいな、まさかの大穴でワンシーズンってことはないよな?

 案外、アルバム収録曲とかならありえるかも……、あとは俺の知らないアニメか……となるとOVA説、再燃だ。

 「あ~きっとChopinショパンのことだな」

 九久津は寄白さんたちの発音を聞き取りさらに曲名で気づいた、さすがだ。

 チョンピンはショパンか~この二人のことだ、アルファベットをそのまま読んだパターンだろう、またまたシンクロした二人のポンコツ。

 そりゃあ心太ところてん心太しんたになるわ、って思った俺の答えは心太こころぶと……俺もポンコツだったと自覚する。

 あっ、そうだ!!

 リッパロロジストをポンコツじゃないやつに訊けばいいんだ、ここでこそっり九久津にあの疑問を訊いてみようと思う。

 九久津に寄せる信頼感はハンパないぜ。

 よし、エネミーはまだ寄白さんと話し込んでる、いまだ、この隙に。

 「九久津。リッパロロジストってなに?」

 俺は小声で訊いた。

 「……ん? 切り裂きジャック研究科だけど」

 「ああ~だからか」

 納得しすぎて返す言葉もない、切り裂きジャック、またの名をジャック・ザ・リッパーか。

 「あっ、雛ちゃんのことか」

 九久津、気づくの早えーよ。

 なのに社さんの気持ちは……察し。

 「そうだけど。九久津も知ってたのか?」

 「前に雛ちゃん、【シリアルキラーのデスマスク】を追ってたことがあったから」

 えっ、シリアルキラーのデスマスクって、あっ、そっか、だから切り裂きジャック。

 昨日の本……あれも趣味で読んでたわけじゃなかったんだな。

 そういや”ノンフィクション”って書いてたっけ、じゃあ今日の本屋もそれ関連か。

 忌具が動いてるならそれは放ってはおけないよな、飛び降りのときにも黒い絵画があったって言うし。

 ……もしかしたら、あの絵の影響であの黒杉工業の人が飛び降りたのかもしれないし。

 どのみち良い絵ではない、なんたって忌具なんだから。

 「へ~そうなんだ。その単語の意味がわからなくて困ってたんだよ。サンキュー!!」

 「おう」

 別に訊いてヤバい単語じゃなかった。

 こんなことを召喚憑依能力者に言うのもなんだけど、九久津、憑きモノが落ちたように穏やかになったな。

 憑き物が落ちる……これも魔障にありそうだな。

 バシリスクが出現した直前はどことなく殺気立ってた、それがいまは静かな夜みたいだ。

 ――今日の夕方、数式の答え合わせがあるんだ。あのときの九久津の言葉。

 いま思えば怒りを押し殺してたんだな。

 「てか九久津。おまえが休んでるあいだイタリアサッカー界にスカウトされただとか、ノーベル賞の候補になったとか、芸能界デビューするとか短期留学とかって噂が流れてたけど」

 「当局関係者が勝手に流したんじゃないか。って、まあ人の噂も七十五日って言うし」

 ――ああそう、だな。を俺がちょうど言い終えたころ。

 「七十五日ってのはおおよその季節の区切りなんだ」

 えっ、えっと?

 一年が三百六十五日、まあうるうのときは三百六十六日として、それを季節つまり春夏秋冬の四で割れば、ど、どうなる……?

 すぐには計算できないな、暗算じゃムズい、そうだスマホの計算機使おう。

 俺は数字を打ち込んだ、そして計算してでた答えは、およそ九十一日。

 えっと、九久津の計算間違えか?

 「それじゃあ、日数が合わないけど」

 「そのむかし日本の四季きせつ四季しきじゃなくて五季ごきっていう、五つの季節だったんだよ」

 「マジで?」

 「ああ、春夏秋冬のほかに土用どようっていう季節があったんだ」

 九久津はなんでも良く知ってる。

 四季が五つあったって話もなんとなく日本らしい、風情ふぜいとか風流ふうりゅうを大切にするこの国だからこそみたいな。

 「土用って言えばウナギか?」

 「そう。まさに土用の丑の日の”土用”はそれ。土用っては立春、立夏、立秋、立冬の直前約十八日間のことを言う」

 「へ~知らなかった」

 そう言えば俺が転入して数週間後に聞いた”夜に爪を切ってはいけない理由”も目から鱗だったな。

 「ただ現代さいきんじゃ噂なんて、一週間くらいで忘れ去られるけどな。季節のわびさびなんてあったもんじゃない」

 あっ、俺も駅前でソロモン王の柱を見ながら思ったな、世界そのモノの流れが速すぎるって。

 忘れられるスピードが速すぎるんだよな。

 いや、忘れるだけじゃない物事が過ぎ去るスピードそのものだ。

 なにかのスポーツで金メダルを取った人は誰だっけ? 今年になってすぐ流行語候補って言われた言葉はなんだっけ?

 一ヶ月前にあった事件や事故ももう忘れてる、大きな出来事があった、それは覚えてる。

 でもそれを掻き消すくらいにまた事件、事故、事件、事故、つぎからつぎに上書きされてく、誰かに言われれば思いだすけど……。

 そういった悲惨な出来事の絶対数が増えた気がする。

 俺はそれを、そのままを九久津に伝えてみた。

 ――いまは日本の小さな町で起こった事件も事故もネット回線によって瞬時に国民のテーブルに上がるからじゃないか。

 これは日本だけじゃなく万国共通だろうな、統計で言えば、いまは犯罪自体は減少傾向にあるし。

 九久津はやっぱり冷静沈着だ、目の前の景色に騙されない。

 むかしだって世界中で事件事故は起こってたんだ、本来はその地域で収めていたものまで、現代いまは簡単に世界中に知れ渡ってしまう。

 だから、いつもいつもなにかが起こってるように錯覚してたのか。

 それによって傷口をえぐられた人も世論に助けらた人もいる、どっちが正しいか間違ってるかなんて当然誰にも決められない。

 人によっては天使であり悪魔であり薬であって毒でもあるから。

 スマホを手に、人の善意に訴えかける言葉を添え電脳の海に問題提起する、それで明日の事件がひとつ増える、そういうことだ。

 たとえば現代にいま、ジャック・ザ・リッパーが現れたら、何日、世間を騒がせるだろう?

 一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月……ワンクールももたない気がする。

 三ヶ月もあれば、そこに新しい事件、事故、災害が起こる季節だってワンシーズン・・・・・・はずれる春なら夏に、夏なら秋に季節は移ろう。

 あの魔障の娘ふくめて、あのグループは四季=ポジションきせつを巡って争ってる、本当はあの娘たちを監督する人が土用ゆとりを与えなきゃいけないのに。

 この世界はこのままで大丈夫なのか? スイーツパーラーのあのガラス窓から見た暗雲を思いだす。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください