第197話 不可侵領域

六角市中央警察署が配布した【最近市内全域に変出者が出没しています。ご注意ください】という注意書きがここにもある。

 ってことは六角市全体で注意喚起ってことか。

 寄白さんとエネミーがまた俺を下目づかいで見てきた、社さんも俺をチラ見する。

 えっと、社さんまで俺をそんなふうに……と思ったら後ろの九久津を見たようだ。

 そうだよな~恋は盲目って言うし、こんな貼り紙なんて、もはや目に入ってないはずだ。

 校長は――変態、最低。と呟く。

 なんでだか、すこしダメージをくらう、が、俺は断じて変態ではない。

 九久津はノーリアクションというか真顔だ、尾行のほうに気を使ってんのかも。

 俺たちは校長の提案で個室のあるカラオケ店に移動した。

 一般の人が大勢いる場所では話せないことのほうが多いからだ、アヤカシをメインにした非日常な話を周囲に聞かれるのは危険だ、いつ誰にどんなふうに漏れるかわからない。

 ここは個室であり防音設備も整ってて一石二鳥だ。

 いま俺たち六人がいるのは株式会社ヨリシロが運営してる店舗で、俺たちの都合に合わせて融通がきくそうだ、まあ、それも校長のおかげ、あっ、えっと、もちろん校長の妹の寄白さんのおかげでもある。

 カラオケに移動してくる最中に九久津は俺に返信できなかった理由を教えてくれた、それによると九久津を監視してる何者かがいるという、つまりは尾行されてるってことらしい。

 しかもそれは九久津のスマホまで対象かもしれないということだった、だからなんの応答もせずにあのスイーツパーラーにやってきた、場所はあらかじめ俺がメールに書いておいたし、あの店は六角市では有名だし、それにだいたいの集合時間さえわかれば合流するのも難しくない。

 スマホのやりとりが筒抜けになるなんてそんなことあるか?って思ったけど、実際に俺は昼休みその権力ちからを目の当たりにした。

 そう、総務省は俺のログイン情報を握ってた。

 そんな強大な力を持つ組織だ、俺と九久津とのやりとりも簡単に漏れてしまうだろう。

 ただ九久津いわく自分のなにを調べてるのか心当たりはないらしい、あるとすればまだ体調が万全ではないらしくて、謎の症状があるからそのことかもしれないということだった。

 案外、九久津を尾行してるとみせかけて、俺のほうを探ってたりとか? と考える、その場合、九久津をつけてるのは総務省ってことになる。

 近衛さんのくらいすごい能力者だったりしてという考えが過る、けど、その場合、そんな能力者の尾行に気づく九久津もまたすごい能力者という式が成り立つ。

 九久津のポテンシャルが当局の能力者と同等ってのは俺たち高校生能力者にとっては朗報と言える。

 九久津は医師との会話のなかで不可侵領域について話したと言った。

 個室に入ってから、ふたたび不可侵領域について話をはじめる、俺はその話の前に俺の魔障はそんな悪くなかったと告げた、九久津は自分のことのように喜んでくれた、やっぱり良いやつだ。

 可侵領域には世界からさまざまな負力が流れてきてるということだった。

 俺はそんな話は初めて聞いた、って言うよりふだんの生活で不可侵領域の話は、まずしない、危険な場所だから近づくなってだけだ。

 こうこうこういう理由があるから危険なんだって中身の伴った話はしたことがない、それもそのはずだ誰もその理由を知らなかったからだ。

 ――あっ。校長がそう一言、発してから話に加わった、会話の流れはいま校長にある。

 ちょうど良かった、ベストなタイミングって感じで校長は話を弾ませる。

 六角市の不可侵領域には、ジーランディアという人工の島から流れてくる負力が多く含まれてると教えてくれた。

 負力ってのはその辺を漂い世界中に溢れてる、そしてつぎの話が重要だった、不可侵領域はジーランディアから流れる負力の主要経路で六角市はモロに影響を受けるらしい。

 最近、四階のアヤカシの様子がおかしいのもそのせいかもと言うのは校長の仮説だ。

 負力と言ってもアヤカシの起源にあったように動的な負力と静的な負力がある、これはつまり全生命体の負の感情だ、ということは生物それぞれが放つ負力の質が変わってきたってことなのかもしれない。

 天変地異のような災害や地球環境の悪化、人の意識の変化は絶対関係あると思う。

 もしかしたら、もう動的な負力と静的な負力の二つには括れないような負力があったりするのかもしれない。

 ただ不思議なことに、不可侵領域がジーランディアの影響を受けてることは九久津はおろか寄白さんも社さんも知らない新事実だった。

 と言うよりもジーランディアという単語さえ初耳だと言う、寄白さんがその情報をどこで入手したのか校長に訊くと、かなり精度の高い人からの情報提供があったと言った。

 こんなふうにして能力者たちはAランクの情報を知ったりするらしい。

 機密情報はAランクBランクCランクの三段階に分別される。

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 ・Aランク情報は組織上層部のみが知りえる極秘情報。

 主に世界の根幹に関わる情報。

 ・Bランク情報はアクセス権限を与えられた人間のみが、パスワードとIDで組織サーバを介して得る情報。

 他媒体へのコピーは不可。

 ・Cランク情報は、対アヤカシ組織に属する者なら一般で知りえる情報。

 紙媒体での印刷、コピーは可能だが、閲覧後は即時シュレッダー等で破棄すること。

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 不可領域とはそういうことだったのか。

 六角市に生まれた俺たちは子供のころからその名前に馴染みはある。

 いや、六角市に生まれたからには絶対に知ってる場所だ、近づいていけない場所という意味で。

 シシャの噂だって元をただせば不可侵領域の影響だって言われてきたんだ、そうなるとシシャの負の立場である死者エネミーはジーランディアから産まれたようなものか。

 いや、そこは切り離して考えてもよさそうだ、あくまでシシャは不可侵領域の影響で六角市に紛れ込むって噂だから。

 不可侵領域から生まれるわけじゃない……でも、でもだ、四階のアヤカシがジーランディアの影響を受けておかしくなってるんなら、エネミーは大丈夫か?

 あ~大丈夫か……真野絵音未がブラックアウトしたのは蛇の仕業なんだし、エネミーの場合はあくまで寄白さんの負力の受け皿として存在いるんだから、あ、っと、負力の受け皿か……なんか心が詰まる。

 それならエネミーの生まれた意味って、いったい……ああ、いや、いい、もうそんなこと考えるな、エネミーはパフェのクリームを上からかぶりつく面白いやつなんだ。

 ときどき俺をディスりもするし、わけわからん行動もするけど、エネミーはエネミーのままでいなきゃダメなんだ。

 俺はアゴに握り拳を当てながらこの話を聞いてるエネミーを見る、ぜんぜんわかってなさそうだ。

 らしいっちゃ、らしい。

 それでも校長はずいぶん噛み砕いて話したみたいだった、途中で――省略できることは省略するって断りがあったから、俺たちのあいだでそんな話がしばらくつづいた。

 「最後の情報ね。いま国交省がその不可侵領域を探ってるみたい」

 近衛さんたちが? やっぱ俺の読み通り六角市には地下ジオフロントがありそうだ。

 校長の締めの話は大きな希望かもしれない、不可侵領域の負力を地下からも浄化して、あの領域そのものがなくなったら瘴気も減るし、守護山や街の結界に頼らなくてもよくなる。

 当然、アヤカシの数も減ることになる。

 問題はジーランディアからの流れてくる負力の量と浄化できる量か、浄化できる量が上回らないと意味がない。




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