第195話 先手

店をでた軒先、白と黒のモノトーンのタイルブロック前で繰と戸村は向き合った。

 車道を行き交う車が街のザワメキと重なる、どこかの信号機が機械的な音声で両車線の車を止めた。

 人はカッコウが鳴くような音とともに交差点を渡りはじめる。

 多くの人は片手に掲げた小さな画面を眺めていた、肩と肩がぶつかって謝る人もいる。

 繰と戸村は意識したわけでもなくそんな様子を眺めていた、どこにでもある光景だ、もう誰かのスマホ歩きに驚くこともない。

 戸村はふと視線を落とす。

 「私、花が好きなんです」

  歩道の境界ブロックの間から、顔をだした一輪の花を指さした。

  繰も顔を寄せて見る。

  そこにはなん本かの青紫のヤグルマギクが咲いていた。

  「この花って、最近、街のあちこちで見かけますね」

 繰は見たままのことを言葉にした。

 いま戸村に言われて気づいたけれど、そう言えば最近この花を見かけることが多くなった、なんとなくそう思う。

 秋間際のトンボのように、なんとなく目に入るなくらいに。

 (九久津くんの家の周囲にも咲いてたな~)

  「こんな繁華街にも自生してるようですね」

  「生態系が変わったとかじゃないですか?」

 繰の脳裏に浮かんだのは、当たり障りのない一般常識だった。

  「……」

 繰の問に戸村はなにも答えない。

 (どうしたんだろう、この花が好きだって言ったのに)

 「繰さん。今日は、お時間をいただきありがとうございました」

 戸村は急に繰にお礼を述べると、陰った顔を嘘みたいな笑顔に変えた。

 (聞こえなかっただけかな? けど、戸村さんにこんな感じで接してもらえたら、患者さんも嬉しいだろうな)

 「いいえ。こちらこそ貴重な情報をありがとうございました」

 「蛇を炙りだすなら”ヨリシロの株”をおとりにしてはどうでしょうか? 私、経済はよくわからないですが、株は大きな金額が動くといいますし」

 「やっぱり!! そうですよね。背中を押してもらってありがとうございます。金銭関係のほうから動いてみます」

 (蛇が暗躍する目的はなにか? 私とヤヌとの会話でひとまずだした答えは”金銭目的”だった)

 「はい。応援しています。それとパンケーキごちそうさまでした」

 「情報提供料ってことで」

 繰が目で合図すると戸村は笑顔で会釈した。

 「甘えさせていただきます」

 二人は真逆へと歩いていく、繰は目的のパフェの店へと足を進める。

 (ちょっと遅くなっちゃったかな)

 戸村は歩きながら空の奥でUFOのように散乱する光を見つめていた。

 あんな黒い雲のなかにあってもその光は目立つ。

 ふつうの人間には見えないのに・・・・・・・・・・・・・・やけに光ってる。

 そんな思いを抱え人でにぎわう街に消えた。

 「さあ、早く行かなきゃ。美子なら、きっともうパフェ食べてるわよね~」

 (早く、蛇の正体を突き止めないと。なんせみんなが集まったところに私が顔をだす理由もそれだし)

 繰は店が並んだ繁華街の景色を眺めながらも、頭を働かせる。

 (六角市にいて、最近、急に贅沢になった人物を探してみようかな。そっちからスクリーニングするほうが対象者はすくない。試すだけならいくらでもできる…。う~ん、六角市では広すぎるな、真野絵音未と人体模型をブラックアウトさせたってことは、まずはうちの高校だ)

 繰は、ひとり名案とばかりに手を叩いた。

(そうだ!! 蛇が金銭目的で動いてる仮定なんだからこっちからもアクションを起こせる。……ストックオプション。六角市の教育関係者たちは株式会社ヨリシロの株を付与されることになってる。そこだ)

 六角市は特例として、市民の各世帯主に株式会社ヨリシロの株主優待券が付与される、またある一定数の株を保有者にはストップオクションも付与されていた。

 なかでも教育関係者は福利厚生の一環としてさらに手厚く保護されている。

 つまりは六角市の市民であれば、株式会社ヨリシロの系列店で使用できる商品券や、低額から高額までの現金化ができる有価証券の一種類、つまり株券をもらうことができるのだった。

(なら株主用のセミナーでも開催……となると極道入稿ごくどうにゅうこう

ってことになるな)

 だが繰に空気のようにそっと忍び寄って体を通過するように思考が巡った。

 そして、ふと湧き上がった考え。

(でも、蛇は十年前から暗躍してるんだ。なら、あるていどの年齢制限もかけることができる)

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