第192話 世界のゴミ箱 

「ええ。そのなかのいくつかは耳にしたことはあります」

 「そうですか。そして、いまこの世界の地軸にはロンギヌスの槍が埋まっています。ロンギヌスを刺したのは、じつはパンゲアの中心だという話もあります」

 「ロンギヌスの神話も知ってます。この世界ができたときに創世のイブが刺したんですよね? あれにはどんな意味が」

 「世界の安定のためとも終焉しゅうえんの引き金とも言われています。ふたたび七つラッパが吹かれるかもしれません。個人的にはそっち・・・の可能性が高いと思っていますけど」

 (カタストロフィー……七つのラッパ……黙示録アポカリプス、天地創造、旧約聖書…………。点が繋がってきた気がする)

 「たとえば首にナイフを刺しても逆に止血される場合もあります。でも引き抜くと大出血を起こします。それと同じでロンギヌスを抜いた場合にどっちに転ぶかは誰にもわかりません」

 戸村は、手を自分の首に当ててジェスチャーした。

 「じゃあ、さっきのナイフは」

 「いいえ、偶然です」

 「そ、そうですか。てっきりそれを表現するためのものだと。それで、ですけど私が知ってるジーランディアは各国の当局の共通のコードネームであること。その当局が示すジーランディアはオーストラリア大陸の東のどこかにある。幻の大陸の一部が沈まずに残っているとか……。あとはアンゴルモアが発露した場所としても有名ってことくらいですね」

 「おおまかな概要はあってます。フランス領ではありますがオーストラリアの東に位置するニューカレドニアはジーランディアの一部だったと考えられています。ただしそれはあくまで本物・・のジーランディア大陸ですけど」

 「本物のジーランディア? じゃあ偽物のジーランディアが? 各国の当局が口にするジーランディアとは偽物なんですか?」

 「各国の当局が言うジーランディアは人工の島です」

 「人工って? 人が創った島?」

 「はい。各国当局がとある島・・・・を示すときに使う共通コードが【ジーランディア】。ジーランディアの由来はそのまま幻の大陸だからというだけです。ですので共通コードが【ムー】でも【アトランティス】でも【レムリア】でも良かったんです」

 「そこにはなにが?」

 戸村は人差し指をだして繰を制止する、繰は話の腰を折らないように受け入れた。

 「……十八世紀の後半、人類は急速な発展を遂げました」

 「十八世紀の後半って言えば、産業革命ですね」

 「そうです。日本でも明治維新があったころです。これを機に世界は近代へと傾斜していきます」

 (良かった、今度は流れに沿った話ができた)

 「私たちはいままさにその恩恵を受けていますから」

 繰はテーブルの上の食器やフォークとナイフを指さしたあと天井の照明を見上げた。

 「ほかにもいろいろ」

 そう言ったあとに、部屋にあるあらゆる物を指さした。

 それだけ人工物が人の生活に根付いているということだ。

 「そうですね。ですがさまざまなものが発展すれば同じくらいそれを妨げるものが出現します」

 戸村も目の前のグラスを叩く。

「それって人生の真理みたいなものですよね?」

「私もそう思います」

 戸村は入店時にスイーツの話で盛り上がったように、しだいに繰と意気投合しはじめた。

 「各国の首脳陣やそれを受け継ぐ国連の幹部たちは反旗を翻すモノの扱いに手を焼いてきました」

 「それはそうでしょうね。近代になるつれ民意というものも反映しなければいけないでしょうし」

 (すこしだけ、株式会社の代表取締役と株主という関係性に似てるかな)

 「そうです。そのもっともたるものが近代法きんだいほうです。このルールはいさかいや犯罪の抑止にかなり役立ちました」

 「武器を使わずにそれができるのも近代ならではですよね」

 「ですが各国のトップは合法的・・・にどんな国の法も及ばない場所を故意に創りだしました」

 「それがジーランディアですか?」

 「はい。各国の法を持ち合わせて合法的・・・治外法権・・・・の人工の島を創ったんです」

 (合法的な非合法地帯を作ったってことか、それが人工の島。通称ジーランディア)

 「でもモンテスキューの提唱した三権分立がそれを……」

 繰がそう言った途端に戸村は黙った。

 「まさか、司法も立法も行政もそこに加担してる」

 「その通りです。いくらそれぞれが独立していようが国家、いや国家上層部の集合体である国連には逆らえないんです。とは言ってもその国連・・・・は世界の人が知る国連・・とはまったく別の組織です」

 (うわ~ヤヌの言ってた国の上層部のゴタゴタって本当なんだ。どころかもっとひどい)

 「そんな」

 「本当です。その国連について私が知りえるのは『円卓えんたくの108人』という呼び名くらいです」

 「『円卓の108人』ですか。円卓とはそれはつまり」

 「はい。アーサー王に仕える円卓の騎士が由来です」

 繰は自分の手のひらをじっと眺めた。

(アーサー王か……私がついさっまでき触れていたのはソロモン王の柱。それにいま話題にあがった産業革命。なんか歴史が一気に私に流れてきた気がする……堂流もよく言ってたっけ歴史の功罪こうざい……光と影。早くから九久津くんに歴史の罪を教えてた、座敷童あのこがどうして誕生したのかも……)

 「じゃあ、その108人は上下関係のない同等の108人ってことですよね?」

 「はい。そうです。国連について、ほかには深く知りません。あと私が知ってることは人工のジーランディア大陸は各国当局の共通コード。なのですが、その内情を知る人物はジーランディアを隠語で呼ぶことが多いということです」

 「隠語?」

 「そうです。【世界のゴミ箱】、そう呼びます」

 「【世界のゴミ箱】そのネーミングだけでも、あまり良い印象はないですね」

 「そうだと思います。ですがその隠語はまさにうってつけの名前だと思います。ジーランディアは各国それぞれがそれぞれに不都合なモノを棄てる場所だからです」

 「じゃあ各国は国に不都合な物を合法的にジーランディアに棄ててきた」

 「そうです。そこには”邪魔な人間”も含まれます」

 「えっ、ちょ、ちょっと待ってください。ひ、人まで?!」

 「国家に反旗を翻す者から、既得権益を犯そうとする者、さまざまですがどの道『円卓の108人』の意にそぐわない者たち」

 繰は言葉を失った。




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