第188話 ふつうの女子高生

 

周りは縦長のスマホを横に傾けた人たちでいっぱいだ。

 ――カシャカシャ。音がする。

 パフェそのものを被写体に一枚、つぎは自分を画角がかくに入れて一枚、最後は友達も集まって一枚。

 あっちでもこっちでもそんな人であふれてる。

 座ったままの態勢から、次第にエスカレートして身を乗りだし撮影する。

 これが現在の高校生だ。

 寄白さんもエネミーもそんなことはしない、どころかスマホをだすこともしない。

 この空間では写メを撮らない人のほうが異質だった。

 寄白さんもエネミーも周囲を気に留めない、そして周囲も俺らを気に留めない”写メを撮らない人”を写メる、なんてこともない。

 人は人に無関心だ、人は人を見てるようでそうでもない。

 俺だって例外じゃない、九久津の家に行くときにバスのなかで覚えてる人は?と訊かれても、頬にホクロがあった黒杉工業の人とダークスーツを着た国交省の人だけだ。

 よほど印象に残る人以外は覚えてない。

 むかし、と言ってもわずか二十年前ほど前くらいは、もっと人が人を信じてたらしい。

 そんな時代があったみたいだ。

 人は人に対してもっと優しかったらしい。

 二人はパフェを手前に引き寄せた、周りがなにをしてても我が道を行く寄白さんとエネミー。

 この世界でこの社会でスポットライトを浴びてはいけない存在。

 隠れて生活しなきゃいけない、こう見えても二人はシシャだ。

 本当は同じ年頃の高校生みたいなことをしたいのかもしれない。

 寄白さんは美容室の前で髪をとかすだけで楽しそうにしてた、別の意味のウィンドショッピング……あんなことをする娘を俺はほかに知らない。

 だからコールドスプレーを吹きかけられても、理不尽な目にあっても、まあ許せるかな。

 二人はふつうの女子高生のなかに溶け込んでるけど、内面ではいろいろ我慢しなきゃいけないことも多いはずだ。

 ふつうの高校生じゃないことの代償をどれだけ払ってきたのか、これからどれだけ払いつづけるのか。

 二人はそんな状況をはじめから受け入れてるようだった。

 いや、もう受け入れてるに違いない。

 奇声を上げて廊下を走る人体模型の前に立てる女子高生がほかにいるか?

 人を食い殺すようなモナリザを相手にできる女子高生がほかにいるか?

 エネミーだって意外とここでは我がままを言わない、じつは子供って大人が思うよりもその場の空気を読むらしい。

 声をだしちゃいけない場所で黙ったままの赤ちゃんがいる、そういうことがわかるのかもしれない。

 昨日出会ったときには――うちのことバズれ。とか冗談言ってたけど。

 インドアでアニメ好きなのは、そういう影響があるのかもしれない、エネミーもどこかで孤独に怯えてる。

 ――うちがいるとみんな悪い影響を受けるアルよ。だからいつか独りになるアルよ。

 昨日のバス停でエネミーが駄々をこねる前にポツリと呟いた。

 誰がそんなこと言ったんだって訊こうとしたときだった。

 ――死者はそういう存在アル。だからいつか転校しなきゃいけないアル。

 寂しそうだった。

 だからみんなでパフェ食べるくらいいいかって思った。

 相反するシシャでも負の”死者”とはそういう存在ものだったことを俺は忘れてた、エネミーもこんな感じだからついつい忘れしまう。

 校長の言ってた――負の死者を一ヶ所に留めることはとても危険なの。溜まった負の影響を受けてしまう人が必ずいるから。だから現、死者である真野絵音未は巡回しなければならない。

 真野絵音未のつぎの死者は真野エネミー、死者としては同じポジションたちばにいる。

 そう遠くない日に二校から転校するのは確実だ、学校を変わるってのはずいぶん疲れるからな、転校経験のある俺にはよくわかる。

 昨日エネミーは社さんから離れたくなさそうだった、夕暮れでナーバスになっただけかもしれないけど。

 社さんは冗談めいて――私もエネミーが転校するなら一緒に転校するから。と答えてた。

 それは友情でもない、優しさを越えた愛情に近い気がする。

 愛情と言ってもそれは同性を思うものではなく、妹を思う姉、あるいは親を思う子のような?

 どのみち家族のあいだにあるような”情”だろう。

 エネミーは顔を突きだしておもいっきり生クリームにかぶりついた、か、完璧な赤ちゃん食べ。

 いや贅沢食べとも言うか。

 てか最初の一口がそれかい!!

 俺の周りにだけあったどんよりした空気が一気に流れた、そう、エネミーにはこの場を和ます力がある。

 能力者が持つ能力・・じゃないけど……。

 風属性のアヤカシを憑依させて剣にする、イヤリングから光の槍をだす、そういう能力だけが【能力】ってわけじゃない。

 口の周りにぽわぽわとクリームをつけたエネミーがこっちを向いた。

 「甘いアル。美味しいアル」

 「だろうな」

 案外こういうとこでリカバリーしてんのかもしれない。

 甘いのは当たり前だ、生クリームなんだから。

 それでも美味しそうに食べる、こんな顔をする赤ちゃん動画ってあるよな。

 寄白さんは大人しく生クリームの上をちょこんとすくって一口、口に入れた。

 この二人、対照的なところはほんと対照的なんだな、”使者”と”死者”か。

 真野絵音未はものすごく大人しかった、この二人ともまったく違う。

 そこは死者の個性か。

 つぎに寄白さんとエネミーはスプーンでイチゴをすくった。

 ほう、こんどは同じ行動パターンか。

 またもやシンクロする二人、寄白さんは自分のスプーンをエネミーの口元へ、エネミーのエネミーでイチゴをすくってすぐに寄白さんの口元へと運ぶ。

 な、なぜだ?

 二人は完璧なクロカウンターイチゴを決めた。

 それぞれが子供のように――あ~ん。とイチゴを頬張るとエサを隠すリスのように片方の頬が膨らんだ。

 口をモグっと動かしひと噛みしたそのときだった。

 二人は頬を膨らませたままで小刻みに震えはじめた。

 なんだ?

 これがマンガなら目はバツ印でおちょぼ口になってるはずだ。

 ほっぺたがぷるぷるして、それと同じ揺れでスプーンもぷるぷるしてる。

 あーこれは酸っぱいイチゴに当たったな。

 寄白さんはバツ印の目(?)のまま頑張ってプリンをすくう、エネミーも震える手でプリンを目指す、二人はようやくプリンの山を崩すことに成功した。

 そのままお互いにクロスプリンでお口直し。

 これって個人個人でプリンを食べればもっと時短できるのに……なんて元も子もないことは言わないけど。

 こんどは二人ほんわかした表情を浮かべてる、あま~いプリンに助けられたようだ。

 回復したのをいいことにつぎのフルーツに手をつける。

 えっ?! また寄白さんがぷるぷるしてる、と思ったらエネミーもぷるぷるしてる。

 こ、こんどはなんだ?

 おう?!

 つぎは酸っぱいキウイに当たったのか。

 この店のフルーツは無農薬をうたってるだけあって味にムラがあるのかもしれない。

 「パ、パスワードを三回間違えて――今日はログインできません。と仰られた

くらいヘコみます」

 寄白さん流の落ち込み表現?

 ……ログイン? ああいうのってだいたい三回間違えればロックかかるよな。

 あれっ? あっ、そっか、やっぱ俺、今朝、当局のWebに無意識でログインを成功させてたのかもしれない。

 最低でも三回間違ったらそういうメッセージがでるから……いくらWebに集中してたとは言え画面一杯に警告がでたら気づくよな、ふつう。

 そんなことを考えてると、俺の目の前にあったグラスに異物が混入されてる。

 水のなかでイチゴとキウイとパインが竜巻のように回転してた、この水流によって、ここ最近、いやここ数秒のうちに放り込まれたフルーツだと推測できた。

 さっき食べて酸っぱかったフルーツとあらかじめ酸っぱそうなフルーツを俺の水で一括処分しようという魂胆か?

 キミたちは俺をいったいなんだと思ってるんだ。

 「抜本的措置ばっぽんてきそちでしてよ」

 俺はまだなにも言ってないのに……。

 寄白さんには悪びれた様子もない。

 「そうアルよ」

 エネミーも寄白さんに乗っかってきたか、だが二人は”抜本”の意味をはき違えてるな、きっと。

 俺がグラスを手にした瞬間から、言い訳という先手を打ってきた。

 まあ、いっか俺は寄白さんの下僕になったはずだし、これくらいカワイイもんだ。

 どれだけ酸味があるのか水を飲みつつ、フルーツを口に入れてみたけど、そこまで酸っぱくなかった。

 お子様味覚だと、体と舌がブルるらしい。

 「美子。このキャラメルクッキーをクリームとプリンでディップすると美味しいアルよ」

 「ホントでして? それはお後がよろしいでしてよ」

 よろしくないよ。

 なんのお後だ、後引くお味ってことか?

 それは良い意味なのか悪い意味なのかぜんぜんわからん。

 てかキミたちの判断で勝手に締めないでくれるかな?

 「ごちそうさまでした」

 「ごちそうさまだったアル」

 二人は食後の挨拶も忘れなかった。

 エネミーは相変わらず、語呂がおかしいけど。

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