第187話 スイーツパーラー

エネミーはそう言っておどけたあと、手前にあるもうひとつのメニュー表をとってパフェを選びはじめた。

 えっ、なにもう注文するの?

 校長と社さんがまだきてないけど……いくら社さんがここに向かってる途中だからって待つという選択肢があっていいんじゃないのか……?

 と思ったが、社さん側になってみれば、この二人がすでにパフェを注文して食べてるのも想定内な気がしてきた。

 そうこうしてると俺たちのもとに水が運ばれてきた、パフェの店なのに水がでるんだよな。

 それはアイスの専門店なんかでも同じか、あれっ?

 店員は水だけを三つ置くと注文も訊かずに、銀色のお盆を小脇に抱えて一階に戻ってった。

 「この心太しんたさんとはどんな味でしょうか?」

 寄白さんは自分が眺めてたメニュー表を指さしたまま、エネミーに問いかけた。

 「なにアルか? 美子それはきっと心太しんた味アルよ」

 「そうですか。あまり美味しくなさそうですね?」

 エネミーそのままの答えだな。

 俺が小テストで想像した”おみなえ師”に通じるものがある。

 ……寄白さんの言ってる”しんたさん”とはなんのことだ?

 俺も寄白さんが持ってるメニュー表をのぞきこんでみた。

 よ、寄白さん、そ、それは心太ところてんって読むんだよ。

 今日の三四時間目の小テストでおもいっきり出題されてたじゃん!!

 今回は突っ込まずに放っておこう、うん、それがいい。

 た、確かに俺も心太ところてん心太しんたと読んださ、ほかに読みようがない気はする、そこで俺が頭をフル回転させ絞りだした答え。

 結果テストになんと記入したか……それは心太こころぶと……そう心太こころぶとと書いたさ、ふつうに爆死したけど。

 「心太しんたはきっと酸っぱい系アルな」

 「わたくし。酸っぱいの嫌いです」

 「うちも酸っぱいのイヤアルよ」

 エネミーの味の予想、結構かすってるな。

 こういう店って甘いものがメインだから、すこしだけしょっぱい系のサイドメニューも置いてんだよな。

 しかもカロリー気にする女子向けに心太ところてんを置くとは、なかなかやるな。

 あとは春雨のコンソメスープも置いてる、絶妙なラインナップだ。

 「エネミー。社さんってもう本屋でたんだよな? まだ着かないの?」

 「でたアルよ。けど雛はリッパロロジストアルから。いい本を見つけて

もう一回、戻ったかもアルな」

 「リ、リ」

 リッパロロジストだとぉ。

 な、なんだリッパロロジストって?

 リッパをロロるのか?

 ぜんぜんわかんねー。

 しかも悔しいのはエネミーはそのリッパロロジストの意味を知ってるってことだ。

 第三セクターの悪夢ふたたびだな。

 言葉の終わりに”スト”がつくってことは、スタイリストとかネイリストとかファッション的なやつか。

 いや社さんはそんな浮いたタイプじゃない、ならばセラピストとかの癒しのほうか。

 リッパってリンパの違う言いかた、とか?

 おっ、てことはリンパマッサージが近い気がしてきた。

 リンパ流して美を極める……これはハズれだ、いまの社さんにそんなものは必要ない。

 「お待たせしました。こちらミックスパフェです」

 お、おいっ、いつの間にパフェを注文したんだよ?

 あっ、入店してすぐのときか?

 下で注文して二階に運んでもらうパターン、だから店員が水だけ置いて帰ってったのか。

 そういや二人ともレジ前に行ってたな~俺は男子高校生で、女子だけらけのあの場所から遠ざかったんだった。

 「ここに置いてほしいアル」

 「わたくしの前にも」

 店員さんはコトンとコトンとガラスの入れ物を二人の前に置いた。

 そして手際よく、紙ナプキン置きその上にスプーンとフォークのセットを乗せた。

 二人は満面の笑みを浮かべてる。

 この流れならリッパロロジストの話題は消えていきそうだ。

 あとでひとりになったらスマホ検索しよう、そうしよう、エネミーにドヤられる前に。

 「以上でご注文の品はお揃いでしょうか?」

 「はい。揃っております」

 「あるアル」

 エネミー――あるアル。って、”あるある”みたいじゃねーか。

 俺が注文したかしてないかなんてどうでもいいのね、いや、そもそも俺がここでパフェを食べるとういう選択肢さえ、この二人にはないんだろう。

 「では、ごゆっくりお召しあがりください」

 店員さんは一礼して、また一階へ降りてった。

 まあ、いくら美味しいと言われても女子率高めのこの場でパフェを食べる気にはなれねー。

 ほかの女子に――あいつ。パフェ食ってるヤバくネ? って言われたら終わりだ。

 ――マジだ。フォークでイチゴ刺した。うける~。

 ――ふつうクリーム最初じゃネ。キモっ!!

 なんて言われたら、もう立ち上がれねーぞ、ってまあ、そんなことを言いそうなギャルはいないか、い、いや、チョロっといるな。

 今日一日、絶対パフェ食うぜ魂で過ごしてきたわけじゃないし、まあ、いいや。

 いつでもこれるし。

 明太マヨポテトとかチーズバジルポテトとかないかな~そっちのほうが食いてー。

 「いただきます」

 「いただますアル」

 二人は意外と礼儀正しくて両手を合わせてちょこんと頭を下げて、そう言った。

 エネミーの語呂がちょっと変だけど、それでも挨拶を言って食べるのは誰が見ても好印象だろう。

 「このパフェのシズル感は生々しい証言アルな」

 「ええ。瑞々みずみずしい証言でして」

 証言ってなんだよ?

 ”生々”しいも”瑞々”しいもここで使う言葉じゃないし、ただエネミーのシズル感だけは現代風。

 挨拶を褒めたそばからシシャ語(?)で会話かよ!!

 寄白さんとエネミーは俺の知らないとこで、こっそりとミックスパフェの大盛を頼んでた。

 こっそりでもないか、俺がレジ前から遠ざかったわけだし。

 パフェの上には生クリームにプリンとそれにキャラメルクッキー、イチゴ、バナナ、キウイなどのフルーツが乗ってる。

 いたってふつうのパフェ、ザ・フルーツパフェ!!




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