第185話 ポンコツな二人

エネミーは小走りで駆けてきたからなのか暑そうにしてる。

 額の汗を手で拭ってからブレザーを脱ぎ脇に抱えると、器用にYシャツを腕まくりして一息ついた。

 「ああ~ミックスベリー・バニラクリームフラペチーノ飲みたいアル」

 そのチョイスは女子高生だな。

 お子様牛乳じゃないのか。

 「ミルクピスタチオチョコかき氷食べたいアル」

 女子高生チョイスツー!!

 てかこれからパフェ食うんだろ、スイーツ×スイーツ×スイーツになるだろ。

 あっ、エネミーの二の腕に痣と包帯が、いや、べつに二の腕を意識して見たわけじゃないぞ、俺は……こ、こんなことを考えてたら寄白さんに【最近市内全域に変出者が出没しています。ご注意ください】を疑われる。

 俺は周囲を見回した、寄白さんはまだヘアサロンに夢中のようだ。

 両手でツインテールの両端をふぁさふぁさしてる、まだ夢の世界にいる。

 こっちに気づく様子はないセーフ。

 エネミーまた、はしゃいでぶつけたのか。

 「エネミーその腕の痣また? それに包帯」

 「大丈夫アルよ。うちはフル関節駆動アル」

 どういう意味だ。

 エネミーは力コブをだすようなポーズをして腕を二回上げた。

 大丈夫アピールらしい、こんなのは痛くないから腕を動かせるということらしい。

 「そっか」

 「ほんとは片方の眼に包帯グルグルしたいアルよ」

 あ~またアニメに感化されたのか。

 深夜アニメ、いや、エネミーは有料アニメチャンネルアニチャンに入ってるって言ってたな、じゃあそっちのラインナップか。

 ま、まさか俺の知らないOVAか、それともネットオリジナル系?

 その可能性も捨てきれない。

 けどマズいな、エネミーにアニメ主導権をとられそうだ、エネミーは俺の一歩さきをいってる。

 エネミーが包帯をサッと解くとそこにはなんの痣もなくて、包帯からはみだした

二の腕の痣がひとつあるだけだった。

 そ、それは、ファ、ファッション包帯か。

 俺に見せびらかす用だったの、か?

 エネミーは自分の腕を眺めてから、Yシャツの袖を元に戻した、まだ暑そうにしてるけど、またブレザーを羽織った。

 エネミーは無言で俺を見つめてきた。

 ダメだ、どんな意図なのか読めない、や、やっぱり、コスプレアイテム的に包帯を巻いてたということか、だが、いつものしてやったり感が薄い気がする。

 ……ん、まてよ、けどすぐに制服を着たということは、やはり完全に見せる用。

 最近のアニメか漫画でそんなキャラいたっけ?

 OVA説かなり濃厚だな。

 「それって」

 俺がそう訊こうとしたとき。

 「かっこいいアルか?」

 やっぱりだ、エネミーは得意顔でそう訊いてきた。

 「えっ、いや、もうちょっと赤で血糊ちのりっぽいデザインだと雰囲気でるかもな」

 「おおー!! それカッコいいアル!!」

 悲しいかな俺とエネミーのバトル脳が一致した。

 知らぬ間に二人で盛りあがってると、寄白さんがこっちに向かって歩いてきてた。

 寄白さんの目の前にはちょうどエネミーがいる。

 ツインテールの寄白さんがCDショップ前でついに俺とエネミーに合流した。

 この二人が出会うとどんな化学反応が起こるのか?

 寄白さんはエネミーの真ん前に立つと無言で見つめてる。

 エネミーも無言のまま見つめ返した。

 黒の触角の先端と金の触角の先端がきれいに交差する。

 ほ~アホ毛の角度は完全に一致するんだ。

 寄白さんはゆっくりと人差し指をエネミーに向かって差しだした、エネミーもそこに腕を伸ばして人差し指を密着させた。

 指さきをくっつけたまま、二人は指に力を込める。

 まるでプレートのように指がしなって山になった。

 二人は同時にニカっと満面の笑みを浮かべた、それこそ歯ブラシのCMにでもなりそうな感じに。

 そのままお互いにお互いが体を引寄せて強めのハグをする。

 すこし相手の顔を見ては微笑み、またハグをする。

 互いに讃え合うようにして背中をポンポン叩いてる。

 おーおー、まだ見つめ合ってる、そしてそこからのハグ。

 二人は自分たちのあいだにすこしの距離をとった。

 な、なにがはじまる、の、か?

 二人同時に腕を斜め下にピンと伸ばしきって、敬礼する。

 互いに敬意を表すってこと……か?

 寄白さんとエネミーはさらにそこからゆっくりと後方に二歩、三歩と下がった、その位置から小走りで勢いをつける。

 えっ、えー?!

 ま、まさかのジャンピング・ランニング・ハグ!!

 なんか”ングング”がつづくな、まあ、いっか。

 海外の結婚式かよ。

 さらにおかわりで、もう一発。

 なんじゃそりゃ、だが、な、なにかが通じあったらしい……いったいどういう状況だ?

 けど、いまここで六角市の”使者”と”死者”がハグしてるなんて誰も思わないだろう。

 この事実を知る者はいま現在、俺だけだ。

 六角市に流れるシシャの噂もこの光景だけならほのぼのとしたもんだ、完全に日常系だな。

 寄白さんは歩道の境界ブロックに上ってて、いまはエネミーより一段高い場所にいる。

 自分の額で手傘を作ってから、それを小刻みに伸ばしてエネミーのデコに当てた。

 これがマンガならキリトリという文字ととも点線がでてるだろう、これも日常系だ。

 ただその行動にどんな意味が?

 自分のほうが背が高いというマウンティングか。

 そうこうしてると寄白さんとエネミーの立ち位置が入れ替わった、エネミーも同じ動作を繰り返し二人はまた笑顔で見つめ合った。

 エネミーはたいして高くもない境界ブロックから戦隊のような掛け声で飛び降りると、寄白さんの頭上でハイタッチした。

 息ピッタリで――パチンという抜けるように良い音が響いた。

 なんやねんっ?!

 だがもうしばらく観察しよう。

 「美子。あれ見るアルよ」

 「エネミーさんなんでして?」

 「昨日、一気見いっきみしたアニメのアニソンもこのプロデューサーが関わってるアルよ」

 やっぱ昨日もアニメ観てるし、てかY-LABから戻ってパフェを食べたいとバス停でさんざん駄々をこねた上に帰宅後にアニメ一気見するとは自由すぎる、あまりに自由すぎるぞエネミー。

 でも、あのとき……あんなに悲しいこと・・・・・・・・を言うとは思わなかったけど。

 エネミーはもうすでに自分の運命・・を受け入れてた。

 どれだけの人が生まれた時代に満足して、生まれた場所に満足して、生まれた環境に満足して、自分・・に満足してるのか、多くの人は――こんなはずじゃなかった。って想いで生きてるはずだ、俺にだってそんな想いはすこしくらいある。

 「すみません。わたくし存じ上げません」

 「あの有名プロデューサーアルよ」

 「誰でしょうか?」

 「パクトヘスカル・・・・・・・アルよ」

 「パストヘスカル・・・・・・・さん?」

 「美子、違うアルよ。『季節風モンスーン・カミングスーン』でおなじみのパクトヘスカルアルよ」

 「では、その曲の発売前の宣伝は『季節風モンスーン・カミングスーン』Coming Soonカミングスーンでしたか?」

 ……?

 二人は色々と噛み倒した。

 ”とうもろこし”を”とうもころし”というように、HPAヘクトパスカルも言い難んだろうな。

 二人は二人こんな感じでバランスをとってるのかもしれない。

 寄白さんとエネミーの訳わからん掛け合いをしてるときのほうが、ほのぼのできて、いいわ~。

 誰かの辛い想いはほんとに精神すり減るから。




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