第184話 にぎわう街

 寄白さんは、なぜか俺を見てからヘアサロンに貼られたフライヤーとを見比べてくる。

 なにをそんなじジロジロと……チラっと見てから俺を凝視してガラス窓に目をやる。

 そしてまた俺を見る、しかも下目づかいでなんて子憎たらしい顔なんだ。

 ツインテールのときの性格ってこんなんだっけ?

 えっ?

 マジで?

 それが俺だとでも?

 寄白さんが見てたのは六角市中央警察署が配布した【最近市内全域に変出者が出没しています。ご注意ください】という注意書きだった。

 おいおい、そんなあからさまに見比べないでくれるかな?

 寄白さんのなかで俺はやっぱり変出者? あるいは変態なのか?

 たとえ俺がストーカーになっても山田と違ってノンアルコールストーカーになるぜ。

 後味スッキリさ。

 山田はしつこそうだ。

 ここはすこし離れた場所に避難しよう、このままじゃ寄白さんのなかで張り紙イコール俺という公式が成立してしまう。

 俺はそこから数メートル離れたCDショップの前にじょじょに移動をはじめた。

 ちょこちょこ横歩きして、歩幅を小さく擦り足で寄白さんから遠ざかる。

 寄白さんは、俺に視線を戻すことなくガラスに映った自分を見てツインテールの片側を巻いて遊んでる。

 そうかと思えば触角をツンツンするがその角度はちょっとやそっとじゃ変わらない。

 あ、あれは癖毛だったのか。

 ヘアサロンだから、憧れの髪型があるのかもしれない。

 いつもはイヤリングに溜めた瘴気を流すために、数パターンの髪型しかできないからな。

 そっちありきの髪型で、見た目先行の髪型はできないんだろう。

 素人考えだけどゆるふわヘアだと瘴気は上手く流れずに”ふわ”の部分に溜まってしまいそうだ。

 せっかく目の前にオシャレな美容室があるのになにかが邪魔して手をだせない感覚なのかな。

 いままでもいろんなことを我慢してきたんだろう。

 駅前通りは六角市のなかでも一番の人通りが多い場所のひとつだ、今日の目的であるスイーツパーラーはもちろんのことデパート、居酒屋、靴屋、セレクトショップ、スポーツ用品店、ゲーセン、銀行までなんでも揃ってる。

 そして俺の人生で関わることのないだろう証券会社まである、ちなみに駅前の外れには市民会館もある。

 さ、さらに別の通りは飲み屋街になってて、伝説のキャバクラというものが存在してるらしい。

 その近くにはネットでバズったリサイクルショップ『モグラ泣かせ』もある。

 店長がモグラよりもスゴイ掘り出し物を掘ってくるから、そういう名前にしたらしい。

 『モグラ泣かせ』には飲み屋に勤めるお姉さまで溢れてるという。

 寄白さんはまだサロンの前で髪を触ってた。

 こんなときじゃなきゃ、そんなこともできないか。

 俺はCDショップの店頭に貼られたポスターに目を移した。

 夢の豪華メンバーによるコラボ曲がついに完成!!

 HPAヘクトパスカルをプロデューサーに迎えた最強布陣で臨む珠玉の一曲を聞き逃すな。

 【A子 feat. B-男 feat. C助 with DJ-D  inspire E美 feat. F太】

 うわ~、どいつがどいつにフィーチャーしてんのかわかんねー。

 だいたいDJ-Dは誰にウィズってんだ?

 C助なのか、それともB男、いやA子までなのか。

 てかDJ-DがE美とF太をウィズらないなら一緒・・にって言うなよ。

 だ、だがしかしそんな微妙な四人にさえもインスパイアされるE美、きっと優しい娘なんだ。

 そして最後のF太。

 すべてをひっくるめてフィーチャーするなんて、なんて心の広い男だ。

 A子もB-男もC助もDJ-DもE美もF太を見習えよな。

 プロデューサーはあの有名なHPAヘクトパスカルか。

 このHPAという人は色んなアーティストやアイドルを手掛けてて、HPAと組んでヒットしたアーティストは多い。

 CDショップのレジ脇にはワンシーズンの主力メンバーの四人の等身大パネルが置かれた。

 その場所だけは華やいで見える。

 近々、新曲がでるという告知も貼られてた。

 あの力の入れようはいつも通り特設コーナーがある感じだ、いよいよ新曲か~魔障のアスって娘はどうなることやら。

 メンバーかんでいまだに怨みつらみやってんのか?

 デパート前の交差点に目を向けると上り下り八車線をまたぐ横断歩道を金髪の女子高生が白線を踏みながらピョンピョンと跳ねてきた。

 俺の目の前を通りすぎてった人も青信号の交差点に進入する、その人のスーツの襟元にキラっと光るものがあった。

 【KK】という文字の青いバッジだ。

 国交省の人か。

 近衛さんの部下とかなのかも、どの道、顔見知りだろうな。

 やっぱ、六角駅の下にはジオフロントがあるのか?

 怪しんでしまう。

 国交省の職員はすれ違いざまに、白線で変な動きをしてる女子高生をチラ見したあとそのまま直進してった。

 金髪の娘は独特のリズムで、一度にポンポン白線を踏むときもあれば、前のめりになって手をバタバタさせるときもあった。

 あっ、【道路工事中】の『痛い看板=痛看いたかん』に気をとられたのか、らしいっちゃらしい、昨日とまるで同じパターンだ。

 ――あ・た・し。好きアルよ。 そんな声が聞こえてきそうだ。

 エネミーひとりできたのか……社さんはどうしたんだろう?

 エネミーはアスレチックのように白線を飛んで、交差点を渡り切ったところで俺を見て駆け寄ってきた。

 走りかたが子供だ、いや知ってる顔を見つけて走ってくる行動そのものが子供だ。

 「地獄に落ちたアル」

 開口一番、なんの話だ?

 エネミーは息をきらせてそう言った。

 「どういうことだよ?」

 「白線から落ちたアル」

 ああ、そんな遊び子供のころにしたな。

 自分で決めたルールの数だけ白線を踏むとか。

 だからあんな変な動きしてたのか。

 「交差点の白線から落ちたのか?」

 「そうアル。白線が天国でアスファルトが地獄アル」

 「じゃあルール変えれば? 白線が天国でアスファルトがこの世みたいに」

 「ダメアル。そこ曲げられないアル」

 意外と頑固だな。

 ルールは完全順守するってことか。

 「そっか。じゃあつぎ頑張れ」

 「つぎは落ちないアルよ」

 エネミーは子憎たらしく下目づかいした。

 こ、この角度の目つきは寄白さんじゃねーか。

 「まだやるのかよ。ところで社さんは?」

 「上行きのエレベーターのほうがバイブスヤベーアルな」

 「どういうこと?」

 「上は効くアルよ~」

 「なに言ってんの? 」

 俺がそう訊くとエネミーはクルっと後ろを向いて、高い建物の上層階を指さした。

 「本屋にいるアルよ」

 そこは六角デパートでエネミーが指さした辺りには全国展開する大手本屋の店舗がある。

 社さんってやっぱ読書家なのか、昨日もバスのなかで【世界ミステリー紀行。切り裂きジャック・白日の凶行と闇夜の凶行】ってミステリ読んでたし。

 近寄りがたき知的美人。

 だ、誰も近寄れねー。

 「社さんおいてきたの?」

 「探したい本があるから、さきに行ててってと言われたアルよ」

 「ふ~ん。まあ、いっか」

 「やっぱりデパートのエレベーターはモーターが違うアルな~」

 エネミーが憧れの眼差しで目を輝かせたさきにはデパートのなかを上下するエレベーターがある。

 人が十人ほど乗れそうな鉄の箱は、実験で火にあぶった温度計のように高速で上に上がってった。

 エネミーどんな視点でエレベーターを見てんだよ、いや見てるじゃなく楽しんでんだよ。

 昨日も病院のエレベーターではしゃいでたけどさ。

 エネミーやっぱりプロエレベーター(?)を目指してんのか。

 それとも幼児が親に高い高いされるようなものを求めてるとか……。




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