第183話 黒い会社と白い会社

五時間目の授業を終えると、六時間目の授業は意外に早く終わった感じがした、ただの体感だろうけど。

 日曜日を目前もくぜんにした土曜日みたいなもんだ、ゴールがすぐそこにあるから頑張れる。

 あるいは土曜を前にした金曜日とも言う、俺の父親は完全・・週休二日で仕事をしてる。

 それがどうしたのかってことだけど、なるほどと思ったことがある。

 週休二日と完全週休二日は違うってことだ、週休二日は1ヶ月に週2回の休みが週に1度以上あることで、完全週休二日は毎週休みが必ず2日あること。

 言葉の響きだけなら週休二日は、完全週休二日の”毎週休みが必ず2日あること”

と間違える人も多いだろう。

 あえてそれを示さずに就職させる企業もあるって話だ、よく聞くブラック企業。

 騙し討ちのような制度を黙って受け入れるしかないことも多いらしい。

 おまえも気をつけろって父親にアドバイスを受けたことがある。

 こんなことをするから人が苦しむんだ。

 へたをすれば、週休二日と完全週休二日では7日間もの開きがある。

 駅前の飛び降り事件、あの人が誰だったのか俺は知ってる、正確にはあとで気づいた・・・・・・・

 詳細報道もされてないのになぜか? それはネットで話題になってて顔写真がアップされてたからだ。

 それは晒す目的というよりも、被害者という名目で。

 画像の男は俺が九久津の家、そう忌具保管庫を見学しに行く最中のバスに乗ってた客だった。

 見た目は六十歳代で【黒杉工業】という刺繍の入った作業着で車内のテレビに向かって舌打ちをしてた人だ。

 頬にある大きな黒子ほくろですぐに気づいた。

 あっ、あのときの人だって。

 総理が入院して鷹司官房長官の会見を見ながらスゲーいらいらしてた人。

 飛び降りた理由も自分が勤める【黒杉工業】への待遇と人間関係の不満、さらには、社会に対する怨み。

 【黒杉工業】は相当ブラックな会社だったみたいで、ネット上でその詳細がじょじょに暴かれはじめてる、命がけで撒いたビラによってその悪事が白日のもとにさらされたんだ。

 弱者が被害者のときのネットの正義感はスゴい、でも現実はなにも変わらない。

 ”証拠”というものがないと警察や関係機関は動かない、あの人もそれを知って絶望したかのかも。

 飛び降りた理由とビラの内容と会社の実態、そのすべての因果関係が判明しないと

誰も動かない、あの人がしたことは水の泡だ。

 なあ、ラプラス、おまえは因果律の概念擬人化がいねんぎじんかなんだろ?

 ならあの人が選んだ道を強制回避させる力もあったのか?

 俺は俺に問いかけたけど、ラプラスはなにも反応しない。

 あの日はちょうどバシリスクが現れた日で、社さんと佐野も偶然その惨状を目の当たりにしたと言ってた。

 そこでいくつかの運命の糸が絡まった、人の世界はそんなことの連続なんだろう。

 俺が出逢った人すべてなにかの糸で繋がってる、俺の行動で誰かの運命が変わる、誰かの行動で俺の運命が変わる。

 あの人は歩道にあった大き目のプランターと植え込みのなかに落下したために大事には至らなかったみたいだ、その瞬間は・・・・・

 だがわずかなあいだで容体が急変したらしい。

 植え込みの植物がもっとクッション性の高い種類なら助かったかもしれない、あの日が雨なら身を投げるのも辞めたのかもしれない、でも結果としてあの人は死んだ。

 それがこの世界・・・・があの人に科した運命だった。

 俺がバスで見たあの人は翌日の午後に身を投げた。

 ほかに相談できる人はいなかったのか? 誰か助けてくれる人はいなかったのか?

 きっといなかったんだろう……というよりも言ったところで問題が解決することはないって思ったのかもしれない。

 言って助かることがあるなら最初から言ってる。

 俺はまだ生きてて、あの人は死を選んだ、わずか1日で俺たちは別の道へと分岐した。

 モザイクタイルの歩道を歩きながらスマホを見た、なんの変化もない。

 結局、放課後になっても九久津からの返答はなかった。

 まだ病院だからだろう。

 放課後になっても四階に異変はなかったから、俺は無事(?)に駅前の繁華街にいる。

 校長もパフェを食べたいってことで、昼休みの話のつづきはそこですることになった。

 山田対策もばっちりしてきた、ただ巻いただけだけど。

 かりに四階でなにかがあれば亜空間を利用して行くしかない、こんなときならそれも許されるだろう。

 俺たち能力者はアヤカシとの戦闘時以外では極力、亜空間は使わないようにしてる、亜空間はあくまで貸与であって自分の能力じゃないからだ。

 それに空間を歪めるのは、なんとなく自然に反する気がする。

 あのオープンアビリティはアヤカシを外界へと隔離するために使うもので、アヤカシから市民への被害を減らす、さらにはアヤカシとの戦闘を市民の目から逸らすそんな目的で使ってるからだ。

 駅はいつもたくさんの人がいて、今日も平日じゃない感じがする。

 土日となれば人が多いのは当たり前だけど、駅前はいつでも多い。

 祭りのようなにぎわいが途切れることはない。

 いまもヤキンが動いた話は話題にあがってるけど、その内容の約三分の一は株式会社ヨリシロの仕掛けだという話のほうが多くなった。

 昨日はあまり騒がれてなかったのに、一夜にして話の主役をさらってったようだ。

 なんとなく株式会社ヨリシロの株主総会ってのに関係ありそうな気がする、ここでヨリシロに注目させる意図のような……。

 大きな企業の仕掛けはけっこう浸透するのが早いんだな~とあらためて思う。

 大企業の拡散能力はスゴイ。

 大きなモノが世間を動かす、まあ、これはふつうにあることか、でも世間では株式会社ヨリシロはホワイトな会社という認識がある、現実、待遇なんかもそうなんだろう。

 俺の親父が株式会社ヨリシロの関連会社で働てるってことは、三校の仁科校長に聞いた。

 それまではふうつの会社で働いてると思った。

 でもふつう・・・だと思ってた会社はふつうじゃなくて、このご時世では考えられないほど恵まれた環境だった。

 それは完全週休2日制ってだけでもそうだ、俺が知ってるだけでも住宅手当と通勤手当ってのをもらってる、ほかにあるかもしれない。

 引っ越しのときに福利厚生がしっかりした会社だって言ってたから。

 自分がどういう環境にいるかなんて比較対象があって初めて上か下かわかる、うちの家族はずいぶんと生活しやすい環境にいる。

 それをが良いっていうんだろう。

 ツインテールの不思議っ娘状態の寄白さんがそこにる。

 そう白い会社・・・・むすめさんだ、その娘は昨日と違ってドタキャンしなかった。

 いや、たいていの人はそうそうドタキャンなんてしない、たぶん俺が下僕だからだ、って、好きでなったわけじゃないけど、なんだかんだでそうなった。

 駅に向かう前、俺と寄白さんはバス停をひとつずらして乗車しバスのなかで合流した。

 これで最初から待ち合わせしたんじゃなくてバスで偶然出会った感をだせる。

 そうすれば山田に見つかっても反論できる。

 いまのところアイツの影はない、ただヤリ手ストーカーかもしれないから油断は禁物だ。

 ストーカー界の大物フィクサーかもしれない、あるいは期待の大型ルーキーの可能性だってある。

 よく考えれば山田はストーキング免許1級持ってるっぽい雰囲気だし。

 だから気を引き締めなければ。

 ここは駅前のローターリーの対面にある商業ビルの群れをすこし抜けたところの繁華街、通称【駅前通り】だ。

 大型ビジョンが見下ろしたさきのローターリーでは途切れることなくいろんな車種の車が走ってく。

 おっ、あの車種は鈴木先生の新車と同じSUV。

 あれって三百五十万くらいするんだよな~、それにオプションつけてあのグレードなら四百万円以上だな、よくそんな高い買い物ができるよな。




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