第18話 ポテンシャル

 あの怪奇体験をした帰り道、俺は九久津と一緒だった。

 すこしだけ空の色が薄れた黄昏時たそがれどき

 六角第一高校前のバス停に着くまでしばらく無言だった。

 俺がゆっくりと歩いていると、九久津はアサシンのように背後に迫ってた。

 足音もなくいつの間にこんな近くにいたのか?というくらい気づかなかった、いや気づけなかった。

 いまはもう二人バス停にいる。

 すぐうしろにベンチがあるのに互いに座ろうともせず立ったままだ。

 そういや、ここから一高いちこうライフがスタートしたんだよな。

 あの朝とは違ってすこし重苦しい雰囲気だ。

 ……まだ現実なのか夢なのかの区別がつかない。

 だからなにを話していいのかわからなかった。

 頭のなかを整理する。

 九久津もそれをどこか悟っていて、俺が話すのを待っているようだった。

 背後に伸びる影、もうだいぶ日も落ちてきた、空にはポツポツと星の輪郭が白んでる、なんかUFOみたいな星もあるな。

 九久津に聞きたいことは山ほどあった、あとはタイミングだけ、それがいまこの瞬間だと思った。

 口元が母音を発音した、俺から口火を切った。

 「あ、あの九久津。さっきの場所ってどこなんだよ?」

 俺がそう言うと九久津は一瞬、驚いたがすぐにはにかんだ。

 きっと待ってくれてたんだと思う。

 「あれは学校の最上階で四階」

 「四階……?」

 「ほら見て」

 九久津が振り返り校舎を指さした。

 俺もその方向を見る。

 なんの変哲もない校舎がただあった。

 ――国内にある校舎と一高とで明らかな違いは? と聞かれれば、俺にはまったくわからない。

 本当にどこにでもある学校だ。

 「うちの学校って長方形の長い窓が三つ縦に並んでるだろ?」

 「ああ。いまここから見てもそうだ」

 「その部分だけを見ると三階建て校舎に見える・・・造りになってるんだよ」

 そんな良い声で言われるとみょうに納得してしまう。

 上手な店頭販売の呼び込みみたいだ。

 「あ、ああ、なるほど」

 「でも実際は縦並びに目視すると長方形の小さな窓があって、大きな長方形の窓があってまた小さい長方形って配置で並んでるんだ」

 「えっ、あっ、ああ……?」

 俺は首を左右上下に動かし確認したが、いまいちピンとこなかった。

 それを察した九久津は――そのところどころに、はめ殺しのダミー窓がある。とつけ足した。

 「えっ、でも校舎から外を見ればすぐにバレるだろ?」

 「いいや」

 九久津は強くかぶりを振った。

 「校舎から見る景色には遮る箇所がないようにしてあるんだ。簡単に言えば、一枚に見える長方形の窓でも透過部分とダミー部分があるんだよ」

 九久津は通学バッグからノートを取りだし、そのまま屈んでベンチの上で開いた。

 自然に閉じようとうとするノートを上から二、三度、強く押して見開く。

 バッグのなかにはたくさんの健康食品が詰まってる。

 こんな量、どうすんだよ?

 悪いとは思ったけど、ものすごく気になって、九久津の目を盗んでのぞいた。

 【ヤマアラシのアラシから抽出した高濃度のアラシが、お肌の荒れも生活の乱れも改善します】

 ヤマアラシのアラシってなんだよ?!

 結局、荒らすのか? 荒らさないのか?

 だが人の心をくすぐるキャッチコピーだ。

 あっけに取られたがやはり健康オタクだったのか、と、みょうに納得もした。

 九久津はノートの白紙ページを探して、いまもトランプをシャッフルするように規則正しくペラペラとめくってる。

 ほとんどのページは書き込みの跡で真っ黒だ。

 本当によく勉強してる、余白も皆無にひとしくノートの最終ページ付近になってやっと白紙ページがあった。

 そこで手を止め、真上から圧力をかけるとノートは開いたままで止まった。

 シャープペンを取りだし、見開きの右ページに簡易図形を書く九久津。




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